第百五話 懐かしい声
気まずい沈黙、そこへ偵察を終えたアレウスが戻って来る。
「どうだった?」
「ああ、安全だろう。見る限り魔族の姿は見当たらない」
「村のみんなは?」
ティオがすがりつく様に聞く。
「奥の方で結構な数集まってたがあれで全員かは俺には分からないな」
アレウスにとっては初めて訪れる村だから仕方ない。
「まあ安全なら取り敢えず入ってみよう」
そう促すと「そう、だな」と微妙な返事をするアレウス。変に思いながらもティオが村の中へと駆け出しその後を追ってお姉さんが、次に一緒に来た人達が先に中へ入ってそれから俺が入ろうとしたのだが何かに阻まれる。
「あ~やっぱりか」
鳩が豆鉄砲受けたような顔をする俺を見て訳知り顔のアレウスが困ったと頭を掻く。
「え? 何、これ??」
「結界だよ、それもかなり強力な」
「それで? 何故に俺だけ弾かれてるの?」
「おそらく人間じゃないと判定されたんだろう。普通の人間は不死なんていう特性持っちゃいないからな。それにしたって立派な結界だ、こんなのを村の規模で展開できる奴なんてそういない、かなりの手練が居るんだろう」
一通り感心してから「これなら嬢ちゃん達も心配無い」とこちらを見る。
「ここが目的地という訳じゃないんだろ?」
「ああ」
目的地はここから馬車で一日程度の場所にあるハルピュイアという大都市。
俺が殺されたあと一番に魔族に陥落させられた場所。
おそらく要所だろうから俺の心臓について何か知ってる存在がいてもおかしくはない、あの姫様や女騎士が。
「じゃあ出発しようぜ。どうせ置いていくつもりなんだろ?」
ティオの事を言っているんなら正解だ。仲間だが危険なので連れていくつもりはない、しかしそれはティオだけではない。
「置いていく、ティオも、それからアレウスも」
「俺もかよっ!?」
「次の目的地はかなり危険だと思う、死ぬかもしれない」
「だから死なない自分だけで行くと?」
「ああ」
「一人じゃ敵いもしないのに?」
「それはまだ分からない・・だろ?」
「あのな、死なないからどんな無茶をしても問題ないと思ってないか?」
「死なないからこそ強引な無茶が出来てそれが勝利にも繋がる」
「それは実力がある程度拮抗してる場合の話だ、この前みたいに凌ぐだけで手一杯なら不死であろうと勝ち目はない。死んだと思わせてからの不意打ちを狙うっていう手も通用しないだろう、あいつら魔族は人間と違う、それなりにでかい一撃を食らわせないと殺しきれない、背後から忍び寄って気付かれない様抑えた攻撃じゃ無理だ」
「でも俺にはこれがある」と魔剣、魔刀を両の手に。
剣の方はまだ普通の剣と変わりない使い方しか出来ていないが師匠の刀の方は魔力を奪うことが出来るのでどうにかなる気がしているのだが「それでは無理ですよ」と突然聞こえて来たとても聞き覚えのある声に否定されてしまった。
「お久しぶりです」
春の陽気のように穏やかな声、この声を聞き間違えるはずがない。
「フレイヤさん!」
声のする方へと顔を向ける、そこにたたずむ彼女の表情は声に反して険しく感じられた。