第百一話 夜明け
戦いの終わり。
圧倒的な一撃が作った大きな穴から光が射し込む。
それはいつのまにか登っていた朝日の輝き。陰鬱としていた屋内を照らす自然の光はこの場所に平穏が訪れた事を知らせるようだ。
一つの大きな魔が溜め込んだあらゆる負の感情が浄化されていく、ここで犠牲になった人達の無念も時間をかけていつか晴れる事を心から祈った。
「ところで・・・」
ティオがキョロキョロと辺りを見回す。
「ユウタさんはどこでしょう?」
「何処だろうな?」
アレウスも探してみるがその姿は見当たらない。
「まさ、か・・・」
何を考えているのか明らかな表情、ティオの頭の中では最悪の予想が形を取り始めていた。
それを感じ取ってかアレウスは「いやいや! まさかそんなはず、だってあいつは死なないだろ?」と口では言うが焦りが隠せていない。
その通り、俺は死んでない。
容赦なく木っ端微塵にされたのだろうが俺は一応元通りだ、しかしそうじゃないところがあるので困っている。
はっきり言おう、服がない。
罠にはまって爆散した際は着ていたものが完全に消滅したわけではなかったので近くにあった遺体から申し訳なく思いながらも拝借してどうにかなったがここには無い。
アレウスだけならまだしもティオにこんな姿見られるわけにはいかないのでアレウスだけを呼び着るものを用意してもらって事なきを得る。
「いやぁ返事がないから焦っちまったよ」
とにかく無事で良かったと背中をバシバシ叩いてくる。
「いきなり消し飛ばされたんでね」
仕方ない、ああするのが最善だったのは分かっているのだが容赦がなさすぎではないだろうか?
死なないと分かっていても俺達仲間だろう? ちょっとくらいの逡巡を見せても良いのに驚くほどあっさり消し飛ばされて若干拗ねる。
「仕方ないだろ? 加減して仕留め損なうってのだけは避ける必要があったし・・・とにかく俺にはあのやり方しか思いつかなかった、すまん」
何も間違ってないしそもそも殺された事はそんなに気にはしてない、それより、もうちょっと早く言ってくれてたらどうにかして重要な部分を隠すだけの布切れは死守出来たのにとどちらかと言えばそっちの方だがしょうもない事だな、忘れよう。
「まあみんなが無事だったんだしそれで良し、ティオも怪我してないか?」
さっきから黙ったままで何かあったんじゃないかと聞いてみる。
「私は大丈夫です」
「そう、か・・」
どこか元気が無いように感じる。
「あんなの相手した後だ仕方ねぇよ、そっとしといてやれ」
アレウスが耳元で言う。確かにティオには何度も死にそうな瞬間があった。俺は死なないし、アレウスは見るからに場慣れしているから平気そうなのだろうがティオは別だ、あれほど強力な存在の相手なんてした事ないはず、目の前で血が流れる場面に慣れていなくても仕方ない。
俺がもう少しちゃんとしていれば目の前で何度も胸に大穴を開ける瞬間を見せずに済んだのだが。
「じゃあこんな場所とはさっさとおさらばしよう」
「おう、入り口で捕まってた奴らも待ってるだろうしさっさと行って安心させてやるか」
多くを救えた事に対する満足感に浸りながら俺たちは出口を目指し歩き出す。