第九十八話 救出⑥
魔族を狙った一撃は間一髪のところで避けられる。
「ちっ、あれを避けるのかよ」
大剣を構え直し悔しそうに漏らす大男。
「大丈夫か? 遅れて悪いな、助けに来たぜ!」
「アレ、ウス?」
「おう、俺だ。だが俺だけじゃないぜ」
アレウスの大きな身体に隠されていたもう一人も顔を出す。
「わ、私もいます! アレウスさんに助けられて捕まっていた人はみんな無事解放されました」
ティオが杖を手にしてそこにいた。
そこにはもう昔の優しいがちょっぴり気弱なティオはいない。ただそれが辛い経験を経た結果というのは悲しくもあるが今はその強さを頼りにさせてもらう。
「くっくっくっくっくっ、あーはっはっはっはっはっはっはっ!!」
突如魔族の男が狂ったように笑い声を上げ始める。
こちらに傾き始めた空気を飲み込むような不穏な笑い。
それは状況を悲観し諦めに至った者が出す最後の強がりの様なものではなさそうだ。
「勝てるとでも?」
ぜぇぜぇと息を荒げ見た目は弱っている様にしか思えないが発せられる言葉には何故だが変に圧がある。
「強がり言ってんじゃねぇ、よろよろのくせして」
アレウスは強気に出るが決して油断はしていない。
相手から視線を逸さぬままティオに「嬢ちゃん、頼む」と声を掛ける、それに「はい」と返したティオは俺の方へと。
「すぐに拘束を解除しますね」
両手両足の付け根を縛る縄状の魔法をどうにかする方法を知っているらしい。
手際良く魔法を使って一つ一つ解いてあっという間に全て外してしまう。
「やっぱり頼りになるな」
「ここに捕まってからいつか逃げ出す時の為にと思って密かにこういう魔法を考案していたんです、魔導書みたいに一瞬ではないので時間はかかりましたがやっぱり役に立ちました」
魔法道具を作らされる傍でそんな事を、改めてその強さに感服させられる。
次は俺が働く番だ。
「手負いの上数でもこちらが優ってる、おまけに頼みの人質もいない、勝負あったな」
「ええ、全く。ギルアルドが殺されていつかこんな日が来るとは思っていたけど案外早かったわ」
ギルアルドは確かこの辺りを支配していた魔族の事だ。
ここにくる途中でその配下に捕まってなんやかんやあって最後はこの手で殺した。
ギルアルドの名前が出ると言うことはこいつもあの魔族の配下だったのだろう、上の存在が殺されたと知って尚危機感を抱かずこの場に残り続けた事を後悔しているのか。
「何を隠そうそのギルアルドを倒したのがこいつだからな!」
誇らしそうにアレウスが俺の頭を乱暴に撫で回す。
「あっそ」
不思議な程にあっさりとした返事。
「何だ? 自分の親玉がやられたってのにずいぶん落ち着いてやがるな」
「当然でしょ、あんな雑魚一匹殺されたくらいで思うところはない。言ったでしょう、いつかこんな日が来ると予想していたと。あの雑魚を倒して良い気になった雑魚が私の前に現れる瞬間を」
「何だと!?」
空気が変わった事にアレウスも戸惑いを見せる。
「権力がそのまま強さに繋がらないのは人も魔族も同じ、ギルアルドは言うなれば椅子に座ってふんぞり返ってるだけの肥えた無能。まともに統治もせず好き放題して遊ぶだけの奴、だから今から見せてあげる、一般的な魔族の力をね!」
真の魔族の力が今解放されようとしていた。