第九十五話 救出③
「もうすぐです」
ティオがはやる気持ちを抑えられず先へ先へと急ぐ。
大切な家族がすぐそこにいるんだからしょうがないことだがだからこそ俺はしっかり警戒する。
あの魔族はやり口が汚い、ティオが最初に姉の元を目指す事は向こうも想定しているだろうから何が待ち受けていても不思議じゃない。
人間相手に尻尾を巻いて逃げるような奴でもないと思うし何処かに潜んでいる可能性が高い。
「お姉ちゃん!」
ティオの呼びかけに対する返事はない。
牢の中には確かにティオの姉らしき人物がいるが眠っているのかこちらに背を向けて横たわっているせいでしっかりとは確認出来ない。
「今からこの鉄格子を斬って入れるようにするがティオは外に居てくれ、先に俺が入って安全か確かめる」
口ではそれしか言わなかったがもう一つ俺が先に行く理由がある。正直考えたくはないが最悪の事態も考慮しないといけない。
死という可能性を・・。
さっき脱獄する際と同じ様に鉄格子を斬り倒す、それなりの音が響くがティオのお姉さんが目を覚ます事はない。
体を揺すり数度声をかけるが返事は無い、しかし息はあるのでとにかく最悪の事態は避けれたようで安堵、同時にティオを中に呼ぶ。
お姉ちゃんお姉ちゃんと涙混じりの声で呼びかけている、とても喜ばしいが気になるのは魔族のこと。まさか本当に逃げていったのか?
魔族にとって人間の脅威はその数であって個としては完全に侮っている、自分が若干そこからずれてはいるが一度は奴の罠にまんまと嵌っている、勝てないと考えるには早すぎる気が。
「お姉ちゃん!」
ティオの驚く声、どうやら目を覚ました様だ。
「・・・うん、誰?」
朧げな意識、目覚めの視界で今自分の側にいるのが妹だと認識出来ていない。
「私だよ、ティオだよお姉ちゃん!」
「ティ・・オ?」
「うんっ!」
感動の再会を邪魔したくは無いがそれは安全な場所に行ってからの方がいい。
「先にここを出よう、お姉さんは俺が背負って行くから」
「そうですね、すいませんけどお願いします」
「任せろ」とティオのお姉さんに近づき慎重に背中に乗せて出発準備完了。
「わた、し・・助けなきゃ・・」
誰か知り合いが他にいるのだろうか?
「安心して下さい、ここにいる人はみんな助けます。だから先に━━━━」
「妹なの、妹を置いて、一人先になんて・・」
「私はここにいるよ、お姉ちゃん」
「助けなきゃ・・」
どこか様子が変だ。急いで落ち着ける場所を探して休ませてあげた方が良さそうだ。
「行こうティオ、こんな場所さっさと出て━━━━」
「━━━やらなきゃやらなきゃやらなきゃやらなきゃやらなきゃ・・殺らなきゃ」
予想もしていなかった。
助けようとした相手の手が静かに頭上当たりの伸ばされる、その手には鋭利な刃物が握られていて俺がそれに気付くのと振り下ろされるのは同時。
どうすることも出来ず胸に刃が突き立てられた。