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第八話 女神の罠

今日は久しぶりにルナと合流した・・ような気がする、実際には一日ぶりなのだが、何日もたった様に感じるほど、それだけ濃密な一日を昨日は送った。


俺は購入した装備を見せつけてやる。


俺の手に持つこんぼうを一瞬見やり怪訝そうな表情を浮かべて、


「防具はまぁそれでもいいわ、で、武器は?」


「何を言っている、ちゃんとこの手にあるだろう」


そう言ってルナの目の前にトゲトゲしたこんぼうをはっきりと見えるように突き出す。


「まさか、今私の目の前にあるこんぼうだっていう冗談は言わないでしょうね」


「そのまさかだ、文句あるか」


「おおありよ、何でこんぼうなのよ、お金なら十分あるんだから剣なり、槍なり、もうちょっと使える武器を何で買わないの! 武器に掛けるお金までケチってるんじゃないわよ!」


うわ~すごい怒ってらっしゃる。


「俺だってなぁ、好きでこんぼうを装備してる訳じゃ無いんだよ、これしか装備できなかったんだから仕方ないだろう」


「はぁ!?」


呆けたような顔をして一瞬固まったがすぐに言葉を続ける。


「嘘でしょ、こんぼう以外装備できないなんて、武器なんてある程度は誰でも装備できるのに・・あんたって一体・・・」


そんなに驚かれるとは、うわぁなんだかとてもうれしくないよ、俺ってもしかしてとても残念な子なの。


「何か悪かったわね、こんぼう以外装備できないなんて知らなくて勝手なこと言っちゃって、ゴブリンですらナイフを装備してるのにまさか人が装備できないなんて思わなくて、勝手な憶測でお金をケチってるだなんて、ごめんなさい」


謝っているつもりなのか、それは、謝っているつもりなのか、俺の耳がおかしいのかな、すごく直接的に俺はゴブリン以下だとディスられているようにしか聞こえないぞ。謝っているというよりはむしろ誤っているぞ、言い方が。


とても微妙な空気が俺たちの周りを支配する。


だがすぐにそんな空気を切り裂くようにルナが依頼の紙を剥ぎ取り、


「それじゃあ、今日はこの依頼に行くわよ」


と依頼の紙をおれに渡してくる。


「どれどれ? ランクD ジャイアントビーの毒針10個を集めて下さい・・か」


ジャイアントビー・・・でっかい蜂か・・・。昔ミツバチに刺された時の事を思い出す、あんなちっこいミツバチに刺されただけでもかなり痛い思いをしたんだ、ジャイアントな蜂に刺されたらと思うとめっちゃ怖いんだけど、でも行くしかないか、魔物なんて基本ヤバい奴ばっかりだしこれからランクが上がっていくともっとヤバい奴と戦うことになるんだから、こんな事では怖がっていられない。ゴブリン以下の俺だけど頑張ろう。


俺達はお金に余裕があったので雑貨屋に向かい回復薬(飲むと不思議と傷が治る)と毒消しをたくさん購入し町の外に出た。


ジャイアントビーはいままでスライムやらゴブリンを狩っていた、東の森には生息していないそうなので北の平原に向かう事にする。


北に向かって数分ですぐに目的の魔物は見つかった。


スズメバチをただでっかくしたような魔物だ。ブンブンという羽音が恐怖心を煽り、俺たちに触れると怪我するぜと言わんばかりの警戒色が超目立つ。


敵が俺達に気づき戦闘態勢に入る。すかさず俺達も戦闘態勢に入る。


ジャイアントビーがお尻を突き出してこちらに向かってくる、しかし、速さはそれほど無い、これなら避けられる。


だが、避けてからではこちらの攻撃が間に合わず上空に逃げられてしまう。


ルナの方に視線をやると、避けるときは最小限の動きで避けてカウンター気味に攻撃を繰り出していた。


俺もそれを倣ってやってみる事にしたが、いざ近くまで来られると滅茶苦茶怖い、とてもじゃないが俺には出来そうにありませんでした。


チクショウこうなったらこれしかない。


ユウタはヌメヌメを唱えた。


ジャイアントビーの頭上からヌメヌメの液体が降り注ぎ見事に命中、ご自慢の羽がヌメヌメになりジャイアントビーは地面に落ち身動きが取れないでいる。こうなれば後はとどめを刺すだけ。


「さんざん上空からチクチク攻撃してくれやがって、蜂だけに・・・俺の怨みのこんぼう受けてみよ」


まずは一匹仕留め、次に向かう。

次の奴も同じ要領で魔法を使って難なく倒す。

多少は苦戦したがなんて事はない。


町に戻り受付への報告を終えた俺達は酒場で食事を摂ることに。


「あんた、お金に余裕があるなら新しい魔法でも覚えてみたら? 今の魔法、あんなんだから撒き散らされて結構邪魔になるし」


サラダを口に運びながらルナは提案してきた。


「いや、そうはいっても、いつ何が起こるか分からないしお金は大事に取っておくべきだろう」


俺は基本的に自分にとって現在必要な物しか買わない、例えば、100万円手に入れたらどうする? という質問に迷わず貯金すると答えるタイプの人間だ、そして夢がないだのなんだの言われるのだ・・・・・普通貯金するだろうが!

金があるからって大して欲しくないものまで買わないだろうが! まぁ確かに新しい魔法は覚えたいが今はそこまで余裕がない。


「じゃあせめて魔法道具でも買ってみたら?」


「魔法道具?」


「そう、魔導書と一緒に売ってあったでしょ」


そういえばあそこは魔法道具店だった。


前に行ったときは魔導書の事しか考えてなかったので目に入らなかったがちょっと気になるな。


「じゃあ、見てみたいから飯食ったら一緒に行こうぜ」


「し・・仕方ないわね、しょうがないから一緒に行ってあげるわよ」


というわけで魔法道具店に行くことになった。


店には色々な道具が置いてあった。


光る杖・・・杖の先端が光る。

炎の杖・・・杖の先端から炎が出る。

転移魔法陣・・・行ったことのある町か村に一瞬で帰れる。


などなど、どれも便利そうだ。

ルナと相談しながら何を買おうか考えている最中、ふいに店の入り口の扉が開きお客さんが入店、何気なく目を向けた先にいたのは修道服を着た、きれいなお姉さん・・・・フレイヤさん!


すぐに挨拶をする。


「フレイヤさん、お久しぶりです、あの時は奢って貰ってありがとうございました」


酒場でご飯を奢ってもらって以来会っていなかった。


「なにもお気になさらなくていいんですよ、勝負して私が負けたんですから」


出会いを喜んでいるとルナが俺の服の袖をちょんと引っ張る。


「誰?」


ひそひそ声でルナが聞いてきたので説明、すると一瞬フレイヤさんを疑わしそうに見つめたように見えたがたぶん気のせいだろう。

同時にフレイヤさんにもルナを紹介する。


「綺麗で凛々しいお方ですね、ですけど・・・」


言葉を詰まらせたフレイヤさんの表情はどこか困惑しているようにも見える。


「何よ、言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」


「いえ、ただ少し陰が見えると言いますか、過去に何か辛い経験をされたりしていませんか?」


「・・ないわよ、そんな事」


力強い口調で答えるも目を伏せて少し身体を震わせる、それは明らかな動揺の現れ。


「話せば楽になる事も━━━」


「━━━何も無いって言ってるでしょ!」


今度は怒鳴るように言い放つ。

どう見たって何かあるのだが俺は黙っている事を選んだ。

多分そこはまだ付き合いも長くない俺のような人間が踏み入ってはいけない領域だと判断したから。

フレイヤさんも同じように思ったのだろう。


「すみません。心に何かしらを抱えた方から話を聞く、そういう職業なものでついいつものようにしてしまいました。何も無いなら結構です、立ち入った事をお聞きして申し訳ございません」


フレイヤさんは深々と頭を下げる。

するとルナも冷静さを取り戻したのか同じ様に頭を下げた。


「こっちこそ悪かったわ、いきなり怒鳴ったりして。多分貴方は親切で言ってくれてたんでしょ? それを踏みにじる様なことして本当にごめんなさい。だからもう気にしないで」


「そう言って頂いて安心しました。ですが、もし過去の事で何かあればいつでも私のところにいらして下さいね。その時はしっかりとお相手させていただきますから」


「え、ええ・・・」


どうやら何も起きずに済みそうだ。

若干困惑しているルナと優しい表情のフレイヤさん、大事な仲間と初恋の相手がいがみ合うなんて見たく無いからな。

良かった良かったと一安心していると急にフレイヤさんが「ユウタさん、また出会えるなんてこれも神のお導きですね」なんて事を言いながら俺の手を取りぐっと顔を近づけてきた。


ちょちょちょ・・・近い近い・・・ヤバイヤバイ・・・・あ、何かいい匂いがする。


「そ・・・そ・・・そう・・・ですね・・・」


女性耐性0の俺にそこまでの接近は刺激が強すぎる、緊張で声が裏返る。


「私、本当にうれしいんですよ」


うれしい、俺に会えた事が? こんな見た目もパッとしない、何の才能もない俺なんかに会えてうれしいと言ってくれるんですか。これは一体どういう事だ?


・・・・はっ! まさか、フレイヤさんは・・・俺の事が・・・・・好き・・・なのか?


初めて教会で出会ったあの時、恋は始まっていたとでもいうのか!?


いやいや待て待て、こんな風に勘違いして痛い目を見た男は星の数ほどいるはずだ。冷静になれ。


でも今思えばフレイヤさんの俺を見る目はいつも輝いていた気がする。


自分を卑下しすぎるのもよくない、自分に自信を持つのだって大事だろう。


「お、俺もうれしいです」


俺の返事を聞いてフレイヤさんも微笑んだ、でもそれから神妙な顔付きに。

物憂げな表情、いつも朗らかな彼女しか見たことなかったから心配になって声を掛けた。


「どうかしました?」


「いえ、何もありませんよ・・」


どう聞いたって何も無い事はない声。


「俺で良ければ話を聞きますけど」


彼女が抱えているものが俺に解決できるか分からないが出来る事はしてあげたいと思った。


「でも・・」


「悩みって一人で抱えているとどうしようもなく大きなもののように感じるけど分け合えば案外どうにかなるものなんですよ、フレイヤさん。だから俺とその悩み分け合いましょう。貴方にそんな顔似合わない、いつしか教会で俺に優しく声を掛けてくれた貴方の顔が見たいんです、そんな俺の我儘を叶える為に協力してもらえませんか?」


「ぷっ・・・ごめんなさい続けて、ふふふ・・」


ルナ、空気を読めお前はっ!!


「・・・ユウタさん、ありがとうございます」


空気を読まない馬鹿者の邪魔はあったが俺の気持ちはフレイヤさんに届いたようだ。


「実は私お金が必要なんです、今すぐ5000ゴールドが・・・ちょっとのっぴきならない理由がありまして、そんな時、ユウタさんが大金を手に入れたと偶然、本当に偶然耳に入りまして、それで、もしかしたらと思いまして・・」


「お金だったら全然お貸ししますよ、俺に任せてください」


「お貸し、頂けるのですか?」


「もちろん」


「しかし、これほどの大金ただお借りするのも何だかとても申し訳ないですね、何か私に出来る事はありませんか何でも仰って下さい」


「いやそんなのいいですから、気にしないで下さい」


「しかしこれでは・・・」


フレイヤさんは一瞬考える素振りを見せ、アッと閃いたように顔を上げる。


「私と勝負しませんか?」


「勝負?」


「はい、私とユウタさんとで勝負して負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く、その際何もしなくていいは禁止で必ず何か一つ要望を言う、どうです?」


「何でも一つ?」


「ええ、何でもです。聖職者としてよろしくない事だろうと何でもさせて頂きます」


「勝負方法は?」


「神経衰弱です」


懐からトランプを取り出す。

フレイヤさんの実力は以前勝負したから分かっている、きっと俺が勝つ。フレイヤさんはあえて自分が負ける勝負を挑んで俺の言う事を一つ聞いてくれようとしてくれているのか。

俺としては本当に気にしなくて良いんだがそれではフレイヤさんの気持ちが収まらないんだろう、なら仕方ない。


「分かりました」


「では決まりですね」


フレイヤさんはトランプを近くにあったテーブルの上に並べ始める。


「では、始めましょうか」




数分後


「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だぁぁぁぁ!」


完敗だった。


その結果を受け止めきれず膝から崩れ落ちる。


何故だ!? 何故負けた。


フレイヤさんはこんなに強くなかったはずだ、前は俺が圧勝したはずなのに。


「すいません、勝っちゃいました、神様が私の味方をしてくれたのかもしれませんね」


地面にひれ伏す俺を見下ろして、彼女は満面の笑みで言う。


「い、いやー俺の負けですね、はははは・・はは、で、どうすればいいですか? 漢たるもの言った事は守ります、何でもどうぞ!」


「こんなつもりでは無かったのですが必ず一つ要望を言わないといけませんしどうしましょう?」


うーんと彼女は頭を悩ましそれから告げる。


「ではお財布頂戴しますね」


「・・・お財布?」


「ええお財布」


「それは中身も含めてと言う事でしょうか?」


「中身も含めてです」


声は震えていた、心は引き裂かれそうだった。当たり前だ、何の見返りもなしに有金全てを失ったのだから、グッバイ俺のブルジョアジー。


俺は黙って彼女にお財布(女神に貰った袋)を渡した。


「もしかしてあなた始めからそれが目的だったんじゃ?」


一部始終を見ていたルナが訝しげな表情でフレイヤさんに詰め寄った。


「なんのことでしょう?」


「だから、初めからお金目当てでこのバカに近づいたんじゃないかって言ってるの。だっておかしくない? 道具を用意しおまけに事前に変な約束まで取り付けておくなんてどう考えたって━━━」


「それは違うよ!!」


俺は咄嗟に割り込んでしまった。


「フレイヤさんはそんな事をする人ではない! 俺は負けたんだ・・・・負ける運命だったのさ・・・・運命の女神様に嫌われちゃったかな・・・フッ」


錯乱して馬鹿なことを口走ってる俺。


「・・・・・何かっこつけてんのよ!」


そんなやりとりを見つめながら、フレイヤさんは「ウフッ」とわずかに微笑んで、


「全くそんなつもりはなかったんですが結果として迷惑を掛けてしまったようですしお詫びと言っては何ですが私もあなた達のパーティーに参加させて頂き精一杯奉仕させてはもらえないでしょうか?」


俺とルナはその言葉にすぐに反応し、素早く顔をフレイヤさんの方に向けた。


「マジですか!?」「本気!?」


「はい、マジです」


仲間が増えるのに悪い事はない。

しかもこんな美人さん、断る理由なんてあるはず無い。


それはそれとして・・・・


「じゃあ俺のお財布は・・・・」


「ええ、有難く頂いておきますね。有難うございます」


「・・・・いえいえ、どうぞどうぞ」



フレイヤが仲間に加わった。

お財布を失った。


第八話 END


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