017.【解説資料】『【奥深さ】に関する一考察』より応用例(2021.05.15)
いつもご覧いただきまして、誠にありがとうございます。中村尚裕です。
私、先日小説発掘VTuber夜見ベルノ様の配信にお邪魔しまして、【奥深さ】に関する自分なりの一考察を展開させていただきました。(配信タイトル『中村尚裕の“私はコレでできている”主張版・【奥深さ】に関する一考察・第一回~第三回』)
今回はその解説資料の一端ということで、実例とその解説をご提示いたします。
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まずは以下、配信のアーカイヴ動画をご紹介いたします。
『中村尚裕の“私はコレでできている”主張版・【奥深さ】に関する一考察・第一回』
URL:https://youtu.be/8kDgTXfm6tE
『同・第二回』
URL:https://youtu.be/eSFTQDxdhik
『同・第三回』
URL:https://youtu.be/XKlwEa3CQAw
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さてここで、本記事における内容のご案内を。
配信の考察では主に『【背景情報】を行間へ【埋め込む】』こと、この理屈付けに重点を置きました。
ということで、ここではどのように行間へ【背景情報】を【埋め込む】か、という事例をまずご提示します。
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【事例】1.『脚絆』の登場のさせ方
メジャーとは言い切れない『脚絆』を物語に登場させるに当たっては、以下2つのやり方が考えられます。
・【例文1-1.】彼は脚絆を身に付けている。脚絆とは脛に巻き付ける布のことを指す。これは脛を雑草などの異物から保護するだけでなく、鬱血を防止して疲労感を軽減する効果も……(以下略)
・【例文1-2.】彼は脛を脚絆で守り、雑草生い茂る中を歩みゆく。
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以上2つの例文に対して、【我流の認識】をご提示します。
まず【例1.】は、ほぼ純粋な“説明”です。事典などで【厳密】な定義を示す場合などにはいいのですが、物語のような文章のテンポに対する需要が大きい場合には、あまり向いていない――と私は考えております。
と申しますのも、【例1.】では【厳密】を追求する余り、「物語上で、どれが必要な情報か」の【重み付け】に失敗しているからです。この場合は“説明”の間は物語展開が完全に止まり、なおかつ語りたい要点が“説明”に埋もれてしまっています。
続く【例2.】では、物語上のシーンの“描写”のために最小限必要な【背景情報】『だけ』を抜き出し、【解説】的に加工して付け加えた例文としております。
この【例2.】で込めました【意図】は、以下の通りです。
・【意図1.】シーンの中で『脚絆』が果たす『機能』や『役割』といった【背景情報】については、本文中で明示するのは『必要最小限+α』のみに絞る
・【意図2.】『伝わる人に伝わればいい【マニア情報】(背景情報、裏設定など)』は行間に【埋め込んで】しまう
【2-1.】マニア寄りの、読解力に長けた【深い】観客は、“描写”に込めた情報を手がかりとして、自前の知識で行間に【埋め込んだ】情報を補完してくれる
【2-2.】それほど知識を持たない【浅い】観客にも、『必要最小限+α』の【背景情報】は『脛を保護している周到さ』を伝える一助となる(必ずしも伝わらなくても可)
【2-3.】この場合、【背景情報】を『必要最小限+α』まで絞ることは、『その道に通じた人物』の『当たり前』を示す描写としても特に有効性を期待し得る
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さて本題。
以下に示す【事例2.】の文章では、状況を示す文章から掛け合いに至る“描写”のみを示しております。ここにどれほどの情報を【埋め込んで】いるかにつきましては、後続の【考察】にてご紹介させていただきます。
まずは【例文2-1.】をご覧下さい。
◆応用例◆
【事例2.】
【例文2-1.】
(情景は貧相を極めた部屋のテーブル上から:※10)
(AがコルトM1911A1ガバメントを組み立てる描写に続いて:※9)
B「骨董品だねェ。.45口径たァまた大砲だな」(※8-2)
A「9ミリなんざ、使うヤツの気が知れんね」(※7-3)
B「戦闘ってなァ数よ数。豆鉄砲じゃあるまいし、嫌う理由が解らんね」(※8-1)
(B、Aに掌を差し出すが無視される:※11)
A「当てても撃ち返されてりゃ世話はない。それでくたばったヤツを知っててな」(※7-2)
B「そいつァお気の毒。ベレッタM93R――こいつの三点連射なら心配ご無用よ。スチェッキンのフル・オートならなおいいがね」(※8-1)
A「現地調達で手に入らんような難物は当てにならんね。乱れ撃ちならMP5があれば済む」(※7-1)
B「言うことが違うねェ。根っからの傭兵稼業かい」(※6)
A「ロマンティストは、さっさとくたばる世界だからな」(※5)
B「ロマンティストと言やァさ、反政府ゲリラってなァ、究極のロマンティストってヤツじゃねェのかい?」(※4)
A「違いない」
B「テロ屋に傭兵をぶつけるたァ、雇い主様も焼きが回ったな」(※1)(※3)
A「どっちが負けても掃除にはなるってわけだ。涙の出るエコロジィだな」(※2)
(526字)
(※1~※11は、以降の【背景情報】に対応する注釈番号)
(出典:自作『傭兵乱舞C.Q.B.【#戦闘シーン祭り】』冒頭部 URL:https://ncode.syosetu.com/n7693ep/ )
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さてここまで、【例文2-1.】における【本文】の文章量は(多少切り詰めましたが)526字ありました。
ここに込めました【背景情報】および【マニア情報(裏設定、裏知識)】を以下に示させていただきます。
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【背景情報】
・※1.テーマは対決(銃撃戦)の構図
・※2.主人公は、味方からも嫌われる存在
・※3.主人公側は傭兵(政府側)、敵側は反政府ゲリラ
・※4.「傭兵は現実(リアル=カネ)のため、反政府ゲリラは理想のために戦っている」という二人の【主観】(カネのために戦うのが嫌われる一因)
・※5.主人公の二人は、理想主義に懐疑的
・※6.Aは、傭兵歴は相応に長い。対比して、Bは(Aと比較すれば)傭兵歴は長くない
・※7.Aが銃に求めるもの(主義・【主観】)
・※7-1.入手性:銃を持っての入出国が難しいため
・※7-2.当てたら撃ち返されないこと:打撃力で相手の狙点を逸らす意味合いがある
・※7-3.(打撃力のために)比較的大口径(.45口径=約11.4ミリ)の銃を好む。逆に中小口径(例えば9ミリ)のものを避ける傾向にある
・※8.Bが銃に求めるもの(主義・主観)
・※8-0.「弾丸を当てなければ意味がない」という基本思想
・※8-1.(この部分では当てるために)数多く撃てること:『単発(Aの銃)』<『三点連射(M93R)』<『フル・オート(スチェッキン)』。なお連射には『相手の頭を上げさせない(撃たせない)』制圧射撃の意味もある
・※8-2.(数多く撃つために)『骨董品(機構が単純なので連射不可能)』『大砲(装弾数が減り、反動も大きいため連射に不向き)』は重視しない
【マニア情報(一部)】
・※9.Aが銃に求めるものの具体形:コルトM1911A1ガバメント
・作動確実性
・実績:アメリカ合衆国軍での制式採用期間74年:1911~1985年):M1911A1が長く使われる理由の一つ
・更に確実性を求めるならリヴォルヴァ(回転胴)式だが、装填により熟練を要すという事情もある
・咄嗟の抜き撃ちを想定して、引っ掛かりの元となる凹凸は最小限
・入手性に優れる(先述)
・短時間で相手を打倒できる(動きを止められる)(※13)
→トドメは他の味方に任せることも視野に入れる(※12)
・打撃力(貫通力は下がるが、弾丸の運動エネルギィで撃ち倒せれば、次弾で何とでもできる)
・必要十分の速射性:反動が大きすぎると次弾発射までの隙ができる(マグナム弾は使いたがらない)
・必要十分の命中精度
・※10.貧相な部屋とテーブルが意味すること
・舞台は事実上の内戦国家→貧しい
・正規軍を養成・維持する時間的・金銭的余裕が少ない
→傭兵を雇って戦力を補充する
・※11.Aが握手しない理由
・次の仕事で敵対しないという保証はないから
・利き手を塞ぐ危険を理解しているから
・Aの背景思想
・前提は集団戦
・※12:動きが鈍ったら、『複数の敵から狙われる』事態を常に想定している
・『敵から打撃を受けないこと』を最優先
→防弾より回避、必要なければ戦闘回避
・隠密接敵と奇襲を重んじる(戦闘必須と判断した場合の行動指針)
・必要以上には殺さない
・無用な恨みを買わないため
・『死体よりも負傷兵の方が敵の手を煩わせる』という事情もあるため
→背景としては『負傷兵を後方へ搬送するために2人、応急手当てのために1人、あるいはそれ以上が前線から離脱しなければならない』という事情がある。さもなければ敵部隊の士気は著しく低下する
・※13:眼前の敵に費やせる時間は短い:一撃打倒を重く観る
・自分の手間を最小限に抑える理由としては、『戦場では動き回る(回避と位置取りのため)のを旨とする』という思想もある
・実用性重視
・道具と時計は確実に動けばいい
・作戦で連携を取る必要性から、時間管理にはうるさいが、華美である必要は認めていない
・作戦ごとの使い捨ては大前提。ゆえに「現地調達」を重視する
・背景には『国境をまたいで武器を持ち運ぶ』困難さがある。よしんば国境を越えられたとして、その時は当局にマークされるのがオチというもの。よって、『作戦現地へは単身で赴き、必要な武器弾薬および道具は「現地調達」を基本とする』行動原理が身についている
・傭兵の個人的背景事情(考察)
・後ろ暗い(知られたくない)過去を抱えている場合が多い
→詮索は嫌われる
→『“過去を語るは無用、訊くは無作法”、傭兵稼業のイロハのイだ』
・生存が最優先。勝敗は二の次
(1800字)
※【注釈】:※4、※7、※8は登場人物の【主観】なので、観客からは『操れない他人の心』に相当
→観客と意見が合わなくとも問題ない
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以上が【背景情報】(【マニア情報】も含む)となります。
ここで、【例文2-1.】【本文】と【背景情報】の分量を比較してみますと。
【本文】:526字
【背景情報】:1800字
ここで、【本文】における情報の圧縮を見てみましょう。
【本文】:【背景情報】=1:3.42
つまり今回の【本文】行間には、文字数にして約3倍に相当する【背景情報】を【埋め込んで】あることになります。情報量としては、【本文】は【生の情報】、つまり『【本文】+【背景情報】(【マニア情報】も含む)』に対して(1+3.42=4.42)分の1にまで情報量を圧縮した形になりますね。
実際には【マニア情報】はもっと膨らみますが、一つの目安としていただけましたら幸いです。
○【考察】
さてここで、お気付きの向きもあろうかとは考えますが。
【本文】に付した『※』付きの番号にご注目下さい。
この番号は【背景情報】の“説明”順を示しています。即ち『【作者】として提示しておきたい情報』に対して、核心に近い順番から※1~※11の番号を付しているわけです。
この番号、【本文】では『ほぼ逆順』になっているのがお分かりいただけますでしょうか。
この並びの意味するところをまとめますと、下記のようになります。
【3-1.】まず【背景情報】の“説明”は、順方向の論理展開『A、ゆえにB』であり、情報の内包する範囲を比較しますと『A<B』となります。
この並びでは、最初に【収束】点を提示してから『(【作者】にとって)優先順位のより低い情報』を提示していくため、【観客】の【誤解】や【解釈】の余地がより少なくなります。
ただし一方で要注意なのは、順を追うにつれて『情報の範囲が【拡散】していくこと』であり、後になるほど『情報の【優先順位】が右肩下がりになっていくこと』です。
これの何が問題かと申せば以下の通り。
【3-1-1.】長く詳細に話を続ければ続けるほど、以下の危険が増大していく
・話がダレる:話が【拡散】し、【優先順位】に伴って【緊張感】までもが右肩下がりになるため
・話が【拡散】するに伴って【観客】の【緊張感】や【集中力】までもが右肩下がりになり、情報がどんどん伝わりにくくなっていくため
・何が重要な情報か、【観客】に伝わらなくなる:【優先順位】の高い情報が、【優先順位】の低い情報の中に埋もれていくため
・『話が進まない』印象を【観客】に与える:話の冒頭で結論に相当する情報を開示しているわけなので、以降はいくら話を続けたところで『進展感』は与えられないため
【3-1-2.】話の核心(【収束】点、結論)が冒頭で具体的に示されているため、【演出】上では以下の【不都合】が発生する
・言い換えれば『【解釈】の広がりを【作者】自らが封じる』ことになる
・【観客】に【底】を見せることになる。こにより『話に対して観客の【解釈が広がる】現象』は起こりにくくなり、『【観客】に【底知れなさ】を感じさせること』を【作者】自ら封じることになる
以上のことから、『【底知れなさ】を通じて【奥深さ】を【演出】したい』場合、【作者】にとって『順序立てた“説明”』はむしろ逆効果ということになります。
【3-2.】【例文2-1.】の“描写”は、逆方向の論理展開『B、なぜならAという事実があるから』です。情報の内包する範囲を比較しますと『B>A』となります。『結果としては同じ』ですが、『情報提示の時系列(順序)としては【背景情報】の逆』ということになりますね。
つまりは冒頭では、【作者】は【観客】に『【焦点】の明確でない、【優先順位】の低い情報』(ただし複数)のみを最初に与え、『話が進むにつれ【表現】を重ねて【焦点】を絞り込んでいく(※X-1.)』という【演出】を施しているわけです。冒頭では「【観客】に【誤解】や【解釈】を許容する』わけですね。
すると【演出】は、次のような形になります。
・話が進むにつれて【作者】が提示する【表現】が増えていけば、【表現】の共通部分が徐々に絞られ、その中に【焦点】が浮かび上がってくる
この【演出】の利点は、下記の通り。
・話が進むにつれ【焦点】へ向けて、情報や【意味付け】がパズルのように噛み合い【収束】していくため、【観客】の【緊張感】を右肩上がりにできること(※W)
・【緊張感】を右肩上がりにしていくことで、【観客】の集中力を高めて、【優先順位】の高い情報に対する認識▼失敗▼率を下げやすいこと(つまり情報を【観客】に認識してもらいやすくなること、※V-1.※Z-1.)
・【焦点】の外にも情報が【埋め込んで】あることを【観客】に認識してもらいやすいこと(※Y)
・仮に【埋め込んだ】情報の一部を【観客】が認識▼失敗▼しても、話運びが破綻しにくいこと(※V-2.※Z-2.)
・【観客】が個性に応じた【解釈】を重ねることで、別個のルートで理解を【焦点】へ導けること(※V-3.※X-2.※Z-3.)
ただし、この【演出】の注意点として。
話の冒頭の時点で、話がある程度【拡散】した状態から始まることには留意しておく必要があります。なので【観客】の意識をある程度“誘導”するため、可能な限り早期に複数の情報を(【焦点】は【作者】としては明言しないまま)提示するのが得策でありましょう。
『αとβ、二つの情報がある。この二つによって成立する意味とは果たして何か?』という認識を【観客】の中に喚起して、興味を引き付ける目論見です。三題噺的な発想で冒頭シーンを構築してみるのも一手でありましょう。
また、話の各部(シーンや芝居)は『【焦点】の影響を受けて初めて成立する』わけですから、【作者】は常に【焦点】の影響を【考察】し織り込みながら、細部を組み立て【演出】していくことになります。
これは【焦点】の存在を常に“匂わせて”いくことにもなりますので、自然と『【意味付け】の【重層化】』を施すことになります。
ただし、労をつぎ込むだけの収穫はあるもので。
この時、一つ一つの【演出】はそのまま『全部■伏線■』としても存在感を発揮するようになるわけです。
この時、下記5つの要素を話に『多重【並列】で込める』ことが可能になります。
・※V1.~3.→【解りやすさ】(【観客】の【多様性】を味方に付けた状態):【観客】ごとの個性に応じて、個別に以下のルートを辿り得ることで印象付けられる
・【観客】は【読解力】に応じたルートから情報(■伏線■含む)を拾える
・拾った情報を元に、『【観客】の手で【解釈】を組み立てる』ことができる
→この結果として、【観客】は物語やシーンに抱いた感情を『自ら抱いたもの』と認識しやすく、また自然に受け入れやすい
・【観客】ごとの【読解力】に応じて、個別のルートを辿って理解へ至ることができる
・※W→【盛り上がり】:話が核心へ迫っていく流れから【緊張感】の増大に伴って生じる
・※X-1.~2.→『話の【収束】』と『進展感』:【底知れない】存在感の広がりから、【焦点】へ向かっていく流れで生じる
・※Y→『【解釈】の拡大』:【底知れなさ】を【観客】の心理に喚起することで生じる、「自分の【読解力】以上に【底知れない】情報量が込められている」という認識
・※Z-1.~2.→【冗長性】:話を【観客】に認識してもらうルートが多重【並列】で存在するために備わる(一部の情報を認識▼失敗▼しても理解が成り立つ)
もちろん、物語全部が逆順の論理展開だけで成り立つわけではありません。
ただ物語全体やシーン単体は『オチという結論』を最後に配置しますので、大枠の構成やシーンごとの【演出】には、逆方向の論理展開が大いに活用できそうです。
よろしければまたお付き合い下さいませ。
それでは引き続き、よろしくお願いいたします。
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【企画協力】夜見ベルノ様
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