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013.■考察■表現の『【厳密】さ』と『【理解】しやすさ』(2021.02.20)

 いつもご覧いただきまして、誠にありがとうございます。中村尚裕です。


 私、ちょっとしたお悩みと議論を拝見いたしまして。


 『最も相応しい言葉』を選ぼうと表現に【厳密】を期したい一方で、その難しさに途方に暮れている――というお話と。

 『誰でも理解できるように、平易な言葉で書くのがいい』という意見に対する賛否両論と。


 個人的には、どちらに対しても思考をひねっている話ではあります。

 ただしこの辺りのお悩みや議論、私なりに解釈しますと。いずれも『表現の【厳密】さと【理解】しやすさは互いに【排他的】存在、つまり相容れない』という固定観念に足を取られている状態――と映ります。

 両立が簡単とは申しませんが、両立させる、あるいは落としどころを見付ける、そのための方法は模索してナンボでありましょう。


 よってここで我流の考察を展開します。よろしくお付き合いのほどを。


 まずは例えを出します。

 『予定の【軌道】通りに進めようとすること』。自転車の舵取りからロケットの軌道制御まで、狙った通りの軌道に沿って動くのは、長らく研究されてきているテーマです。ここでは『狙った【軌道】からの【誤差】の小ささ』が表現の【厳密】さ、『実際に軌道を【辿る】こと』が【理解】に相当します。難度の高い【軌道】を設定すれば【辿る】ことは難しくなりますし、逆に【辿る】ことを容易にしようと思ったら【軌道】も簡素化することになります。一見して排他的ですね。


 ところが。

 単純さでは最右翼であろう直線【軌道】、これを【辿ること】さえ、実は容易ではないのです。


 自転車の舵取りを想起していただくと腑に落ちやすいと考えますが、自転車を漕ぐということは脚が動き、血液も流れるということです。要するに重心がズレるのです。さらには気流にも影響を受けますし、そもそも路面が平滑である保証はこれっぽっちもありません。直線【軌道】を取ろうとするのに対して【想定外】の外乱ノイズが極めて多いのです。

 外乱を巡るこの事情、最先端技術の一つであるロケットやロボットの制御技術でも悩みの種であることは変わりません。


 こういう背景も手伝って、【軌道】を【辿る】こと――つまり制御には【コスト】がかかります。この【コスト】は単に開発費というだけには留まりません。自分の質量制限、制限速度域、情報処理能力、消費電力、瞬発的に実行し得る質量移動の要求増大、その他もろもろ。

 この【コスト】、もちろん【軌道】を【辿る】ことに【厳密さ】を求めるほど増大するのですが。問題なのはその増え方です。

 ある一点を堺に、【コスト】・パフォーマンスは極めて強烈に悪化を始めるのです。要は【厳密さ】が度を過ぎると、途端に実現不可能級の【コスト】を求められることになるというお話。予算超過だけならいざしらず、そもそも既定の大きさに収まらないとか、あらゆる装備を搭載したら身動き一つ取れなくなるとか、弊害は極めて多様にわたります。


 実際【軌道】を【辿る】ための制御プログラム一つ取っても、【厳密さ】を求めれば求めるほど複雑怪奇になり果てるといいます。遂には搭載予定の記憶領域には収まらず、演算器(CPU)でも処理し切れず、物理制御も全く追い付かなくなるほどに。


 で、ここで登場する考え方が、『【関門】さえ許容範囲の【精度】で通過できるなら、【その他の部分】では多少の【誤差】(【想定外】によるものを含む)は容認する』というものです。

 すると【コスト】は劇的に低下します。

 ただし『【誤差】を特に縮めたい局面』というのも確かにあって。その場合は『【関門】Aを通すために、その手前に少し緩めの【関門】A’を設ける』という手を打ちます。

 つまりは要所だけ特に失敗率を下げていく考え方ですね。こうすることで【誤差】は飛躍的に低下します。もちろんそこで【コスト】がかかるわけではありますが、【厳密】を求め過ぎた場合に比べれば小さなものです。【関門】を厳選すれば、【コスト】の問題も分散・希薄化しやすくなります。


 これが表現にどう関わってくるかと申せば。

 作者の意図する【軌道】へ観客の【理解】を【辿らせる】に当たって、『一語一語の単位で【厳密】を期す』か、『単語を複数重ねて意味を絞り込み、【理解】の焦点を合わせていく』か、という例えが当てはまります。


 一語一語の単位で【厳密】な、誤解の余地を許さない表現を形成しようと思えば。

 必然、観客のほとんどが見たことも聞いたこともない単語を選ぶしかない――という場面に多々ぶち当たります。

 この単語に誤解の生じないよう“説明”を始めたら、それこそ『【コスト】の一つである“説明”』の文章量は百科事典の様相を帯び始めます。しかも目的が『【厳密】を期すこと』なので、“説明”の間は物語が停止します。


 ここで、単語一語当たりに誤解の余地を許容し、複数単語で意味を絞り込む使い方なら。

 比較的平易な単語を使える上に、『魅せたい要点(【関門】A)』さえ決めてあるなら、『要点の捕捉(【関門】A´)』を添えることで観客の脳内イメージを大きく絞り込むことができます。


 例えば『脚絆きゃはん』なるものを提示するとして。


 観客の【理解】に【厳密】を期すなら、「彼は脚絆を身に付けている。脚絆とは脛に巻いて装着する布のことである。目的としては異物から脛を守るだけでなく……(以下略)」という文章になりそうなところです。


 ここで多少なりと誤解の余地を容認したなら、「彼は脛を脚絆で守り、雑草生い茂る中を歩んでいく」というような使い方も可能になります(これは物語上の描写を意識した提示法に特化させていますが)。

 『脚絆(という【関門】A)』に対して『脛を~守り(という【関門】A´)』という『演出上提示する用途、という【要所】』だけ添えて、誤解の余地を順次絞り込むことになります。

 優先順位の低い情報は文章上には載りませんが、『解る人には解るマニア情報』として行間に埋め込まれることになるわけです。結果、『意味は伝わる上に難しくない文章』が出来上がるという、これは目論見なわけですね。


 なので、一事が万事ガッチガチに【厳密】化するだけが手とは限らず、理解され方が多少緩くとも、表現の核心へ向けて二語三語と誘導していくのも一手であろう――などと、私は考えもするのでありました。


 よろしければまたお付き合い下さいませ。


 それでは引き続き、よろしくお願いいたします。

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