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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第五章~集いし精鋭、特務部隊は動き出す~
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第八十一話~静かな怒り~

 部隊に広がる沈黙、しかしそれはブラッドローズに対する敵意に近いものであり、静かながらもさながら戦闘をしているようであった。


 行軍は続けられる。しかし、ブラッドローズの十人程の面子は叫びをあげた後もその敵意を周囲に振り撒いている。それは隠す素振りもなく、周囲の兵達に対する威嚇ともとれた。


 ……こいつらは何を考えている?何が目的だ……


 セヴランは台車上で冷静さを装いつつも、ブラッドローズの行動の目的が読めずにいた。

 何故叫びをあげたのか?叫びを向けられたのが誰だったのか?それが分からなかったために、セヴランは相手の思考を辿ることが出来なかった。

 だが、不思議であったのはリーナの様子もであった。

 彼女は、ブラッドローズの青年らの行動に興味を示さず、初めこそ反応したもののそれからは無視をしていたのだ。


 ……リーナも何考えてるか分からんが、ここは何とかしないとな


 セヴランは青年達以外の他の兵士達の様子に変化を感じていた。それは、盛り上がりを止められた不満であり、元々他の者達からすれば素性の分からないブラッドローズの面子は戦力であれど不気味で危険な集団に変わりない、それに対する危機感であろう。誰も彼もが青年らを睨み、敵意の応酬であった。

 そして、遂に不満は動きとなる。


「なああんたら、いきなり叫んだり何のつもりだ?俺達の行動に何か文句でもあるってのか?」


 青年らに言葉を作ったのは、セヴラン達の周囲で盛り上がっていた特別遊撃隊の一人だった。

 同じ青年、しかも新兵である彼は特に躊躇いなく語りかけた。それは普通のことであり、他の者達も同じ状況ならそうするであろう。だが、この次の行動で流れは変わった……。


「黙れ……リーナ様の前でのその態度……言葉を気をつけないと首が飛ぶぞ…………」


 その瞬間、怒りを醸し出しているブラッドローズのその青年は、羽織っているマントの内側に銀の煌めきを見せた。


「――――――ッ!」


 特別遊撃隊の青年は飛び退いた。

 誰もが見た、そこに現れたのが刃の光であると。


「おい……仲間に向けて、何のつもりだ?」


 飛び退いた青年は足を止め、ブラッドローズの青年と相対する。それに合わせ、先頭を進んでいた台車群もその動きを止める。


 ……くそ、何してやがる。これ以上の足止めは後ろにも伝わるぞ……


 セヴランは現在の状況に焦らざるをえなかった。台車群はある程度の塊で別けてあり、次の台車群の足は止まっていない。

 しかし、これ以上セヴラン達、先頭の台車が動きを止めれば、後ろの行軍にも影響がでかねない。

 更に、周辺警戒の為に周囲に展開していた第二大隊の兵士達は、ブラッドローズに対しいつでも動けるように構えを見せていた。


 広がる不穏、仲間どうしの殺し合いなど最悪だが、今まさにそれがおころうとしていた。


 ……仕方ない……ここは俺が――――


 セヴランは、これ以上は放置出来ないと動こうとした。しかし、それよりも早くに風が動いていた。


「いい加減になさい、ここは……戦場なのよ、私が敵なら貴方は死んでたわね」


 リーナが、動いた。


 全員、セヴランでさえ捉えられなかった。ブラッドローズの青年達を、一瞬で……正に刹那の時で無力化したのだった。

 全員が地面につき倒され、リーナはその腕を踏みつけ、リーダー格であった剣を抜きかけていた青年の足を踏みつけていた。


「で、ですがリーナ様!こいつらの行動は軍として認められるものではないでしょう!リーナ様に対する軽口も、決して認められていいものでは――がァッ!」


 青年の言葉は言い切るよりも先に、痛みによって制された。

 青年の腹部に、容赦ない蹴りをリーナは入れたのだった。


「ねぇ、貴方はいままで戦場に立ったこともない素人よね?なんで貴方が、彼らを語れるのかしら。それに、仲間に向けて剣を抜くなんて……そんな最低な人間を、私は部隊に入れた覚えはないわよ」


 それは、仲間へ剣を向けたことに対しての怒りだった。静かながらも、されはセヴラン達全員を震撼させた。

 踏みつけられた青年は悔しそうに歯を食い縛り、リーナの発言に反対する様子は既になかった。


 ……まあ、これで問題解決でいいのか?


 セヴランは、この結果に納得はしきれなかったが、一度呼び掛け全員の視線を集め


「皆、元は私の軽い指示が原因で騒ぎを起こさせてすまなかった。今回のことは、全て私が責任を追う。ここで、これ以上の無駄な争いはしないように、全員、行軍を再開するぞ」


 セヴランの言葉、これにより、もとよりそこまで関係がなかった警護の第二大隊の部隊は行軍を再開した。

 そして、特別遊撃隊、ブラッドローズのほぼ全ての兵達も行軍を再開した。だが、今回の騒ぎの中心である青年らだけは、納得がいかないとセヴランを睨んだが、セヴランはこれを無視した。


 現状においての最優先事項はレイルーン砦への移動である。故に、セヴランはこの件の詳しい話し合いは後にするつもりであった。

 しかし…………


 ……リーナのあの速さ、今までよりも早かった……それに、一切口出しをしなかったバーンズ達も何を考えてるんだか


 セヴランには分からなかった、何故、バーンズらは青年らへ何も言わなかったのか。何故、ブラッドローズの青年らはこんな場所で問題を起こしたのか。

 分からないことばかりの中、分かったことは……リーナは異様なまでに怒りを示したこと

 ブラッドローズとの関係に不穏な空気が流れたこと

 そしてレイルーン砦がもうすぐだということぐらいであった……。

どうも、作者の蒼月です。

またまた投稿が遅れました、スミマセン


いや、なんか4章を完結させたら力が抜けてしまいました。なんとか、ここでペースを落とさないようにしたいものです。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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