表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第五章~集いし精鋭、特務部隊は動き出す~
94/560

第七十九話~愛すべき馬鹿の笑い~

 月明かりを行軍していた大軍、その隊列は長蛇の列であった為行軍速度は極限まで遅められ、少数ならば進めた距離の三割程までしか進めず、一行は霧に包まれるいつもの朝を迎えていた。


 一行の先頭、台車に揺られていたセヴランは通った道に立っていた木から落ちた朝露を頬に受け、冷たさに撫でられて目を覚まし


「……ん……もう朝か……」


 台車はガタガタと音をたてながら進んでおり、未だレイルーン砦にはついていないと理解する。


 ……まあ、この速度じゃ当たり前か。


 さすがに一晩狭い台車の上で寝ただけでは戦闘の疲れは癒えなかったが、他の者は寝ることさえまともに出来ていない中寝れただけでも幾分か優遇せれていたことも理解していた。

 横にしていた体を起こし、台車から外を見渡した。

 周囲には、必要かどうかも怪しい警戒を続ける兵士達の姿があった。彼らの表情には疲れが広がり、誰もが疲労困憊といった様であった。しかし、彼らに指揮を出来る立場でもないため、セヴランにはどうすることも出来なかった。


「……あら、もう朝かしら…………」


 セヴランの正面、同じく台車で横になり寝ていたリーナも身を起こした。

 リーナはまだ眠たそうに瞼を擦りながらも、薄く瞳を開け


「おはよう、セヴラン。よく眠れたかしら?」


「あぁ、少なくとも他の連中よりは寝かせてもらえたな……」


「そう、それは良かったわ」


 霧を進む一団、彼らの行軍は休むことなく続けられた。襲われることもなく、単に移動をするだけで任務ともいえない行軍は命こそ安全なものの、精神的にいいものではなかった。


 セヴランとリーナの二人は、そんな中ではまだましな状況であった。

 先頭の台車は僅かな武器を積むぐらいで他の台車程狭くはなく、セヴランとリーナの二人は広々と使えていた。

 さすがに、足を伸ばしては寝ることは出来なかったが、それでも戦闘が開始されてからはまともに寝たことは少なかった為、二人にとっては貴重な時間であった。

 セヴランは起きると、早速時計の蓋を開け


「えっと、この針が秒で……短いのが時間だから…………五時間以上は寝れたのか」


 不慣れな動きだが、セヴランはなんとか時計の針を読むことに成功する。他の将官は正直なところ、いまいち時計を扱いきれていないため、セヴランの適応力の高さは相当なものであった。だが…………


「…………長いのか短いのか、平均はどれぐらいなんだ?」


 時計をせっかく読めたセヴランだったが、今まで時間などという感覚はあまりなく、五時間以上というのがどの程度なのか比較することが出来なかった。


「まあ、長かったほうなんだろうな」


 セヴランはとりあえず長いと結論ずけ、銀時計を服の内側にしまった。

 すると、台車の横から聞き慣れた声が響き


「ようお前ら、ようやくお目覚めか?」


 視線を横に向けると、そこには今まで寝ていないのか疲れを表したバウルの顔があった。

 その疲れた顔に、セヴランは少しながら罪悪感のような気持ちを感じ


「…………すまんな、バウル」


「何謝ってんだよ、心配されなくても少しは寝かせてもらったさ」


 セヴランは、自分達が優遇されて寝ていたことに罪悪感から謝ったが、それをバウルは気にするなと素っ気なさそうにしながら手で払った。


 言葉にしてもセヴランは認めないだろうが、この戦いにおいて最も活躍したのはセヴランであろう。新兵でありながら、訓練を受けた将官でさえなかなか出来ない、状況判断能力を求められる大隊の指揮を、それも最高二つもこなし、聖獣との戦いにおいても、現国最強と言われるバーンズと同じ程の戦力となり、他の誰もがそう簡単には出来ないことを幾つもやってのけたのだ。カーリー大将が見込んだ逸材であり、その力は既にセルゲノフやラムス、ファームドらも認めるものになったいた。

 そして、そんなセヴランの疲労は共に戦った者達は理解しており、セヴランが寝ていることに文句を言うような者がいるはずがなかった。


 セヴランは、台車の横を歩いているバウルが疲れているのを感じ取っていたため、台車を軽く叩いてバウルに呼び掛け


「バウル、歩くのもなんだしお前も乗っとけよ」


「いや、俺だけ休む訳にもいかんだろ」


「お前だって疲れてるのは丸わかりだそ、あんな地獄を戦ったんだから仕方ないさ。だから気にせず休んどけ、今の俺にはそれぐらいしかしてやれん」


 可能であれば、セヴランは全ての兵に休んでもらいたかった。ここまで、交代こそあれどもまともに休む暇もなく三日間を戦った。本当ならばすぐにでも休みを取る必要があるのに、今度はレイルーン砦までへの行軍であった。もう、兵士達の気力は残されておらず、初めの闘志溢れる姿の影はどこにもない。しかし、第二大隊の指揮は行軍の間はラムスに権限が移り、セヴランが指揮できるのは第一大隊とブラッドローズだけであった。たとえ休ませたくても、セヴランに出来ることなどは限られていた。

 セヴランの言葉にバウルは、初めと同じように断ろうとしていたが、自身の体が限界近いことをふらついたことで思い知らされ


「なら、少し休まさせてもらうか……」


 バウルはそう言って、重い足取りでフェザリアンが繋がれている台車前方の、本来手綱を引く者が座る位置へと腰かけた。

 なお、この台車――というより軍で飼われているフェザリアンは長い訓練を受けているため、手綱を引かなくとも命令通りに台車を引くようになっており、行商人が手綱を引くこの位置は基本的に空いているのだ。

 バウルは台車に乗ると、ようやく休めたことで深い息を吐いた。そして、重量物である大剣を自身の横に立て掛けると振り向き


「なあセヴラン、休めるのは嬉しいが俺がいたらギーブの奴が――――」


「あぁッ!バウル、何を勝手に休んでるんですか!私達は台車にのる権限はないでしょ!」


 バウルが心配したことは、正に狙ったかのようにおこってしまった。

 バウルはギーブに文句を言われることにいつものことと耳を塞いで聞こえないようにしていた。それに、ギーブも口調が厳しくなりかけたが


「ギーブ、バウルに乗っていいって俺が言ったんだ。あいつを責めなくていいぞ、それにお前ものればいいさ」


「え?……いや、しかし…………」


 真面目なギーブは乗るべきか真剣に悩んだ、そして悩んだ末にセヴランの命令ということにすることで台車の前方でバウルに並んで座った。


「お前、なんで俺の隣に座んだよ!奥に座れよ」


「あそこは隊長らがいる場所だ、私はここで充分だ。隣が嫌ならあなたが降りればいい」


「なにをぉ!テメェ、いつもいつも俺にだけ厳しくしやがって」


「まあ、あなたは馬鹿ですからねぇ……」


 台車の前方でバウルとギーブのぶつかり合いが過熱する。この二人は仲が良いのか悪いのか、いつもちょっとしたことからすぐに口論になってしまう。まあ、大体はギーブがバウルを言いくるめるのだが。


 そんな二人の光景は疲れを忘れさせ、戦争開始直前の平穏だった頃をセヴランに思い出させた。平和で、つまらないことが輝く日常、そんなはるか昔に感じられる情景にセヴランが見入っていると


「おうおう、なんだなんだ、喧嘩か?いっちょ派手にぶつかり合うのかッ!」


「なになに~リーナちゃんの近くでそういうのは駄目よ~もっと穏便になさいよね」


 台車の後ろに、バウルとギーブの二人の喧嘩を面白がって近寄ってきたバーンズに、エメリィで遊ぶ為に先頭まできたエメリィの二人が現れており、セヴランは僅かな気配から近くにキルまでもが集まっていることを理解した。


 軍の行軍、なのに部隊の先頭でこの軍の中でも優秀な者達である筈の者達が、子供の旅行かのような盛り上がりで見せたのだ。

 平和なのはいいが、目の前で広がる馬鹿騒ぎにセヴランは微笑み


「まったく……賑やかな連中ばっかりだな……」


 セヴランは、一応は仲裁に入ろうという姿勢を見せながらも、盛り上がりの輪に混じり一時の平穏に久しぶりの楽しみに笑顔で笑うことが出来た。

どうも、作者の蒼月です。

久しぶりの日常回、書いててこっちも気分が上がりましたね~

ところで、昨日は更新出来なかったけど、私は毎日更新じゃないですから!(ココ重要)

でも、更新しなきゃって思うんですよね~明日からも頑張ります

では、次も読んで頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ