第七十話~騎士と姫は戦場を駆ける~
第二防壁区間では二つの勢力の戦闘が開始された。中央に構える五十二名のフィオリス軍精鋭部隊、そして第二防壁に並びフィオリス軍殲滅を狙う一万三千のレギブス軍。両者のうち、先に行動を起こしたのはセヴラン達であった。
「リーナ、いけるな?」
「当たり前でしょ、いつでもいけるわ」
セヴランとリーナは姿勢を低く落とし、駆け出す体勢をとり――――――戦場を駆け始めた。
銀に染まる大地の戦場、セヴランとリーナは常人の域を超えた速度で駆ける。それは馬より早く、風を超え、正に疾風迅雷。一気にレギブス軍と距離を詰めつつ、セヴランはリーナに問いを送る
「リーナ!敵はどれぐらいだと思う!」
リーナはセヴランの問いに小さく笑い
「一万はいるでしょうね!」
「上等ッ!」
二人は超高速でレギブス軍の隊列にたどり着き、レギブス軍も迫る二人に剣を向ける。
「く、来るぞッ!」
「落ち着け!敵は二人だ、殺してしまえ!」
「そうだ、やっちまえ!」
レギブス軍はそれぞれ二人に挑もうと構えているが、高速で流れる視界でセヴランは呆れていた。
……装備も揃わず、乱れた隊列、所詮は訓練さえ受けていない農民上がりの軍隊……だが剣を手に取った以上、手を抜きはしないぞッ!
セヴランとリーナはレギブス軍の隊列に、躊躇なく飛び込んだ。
「「はあぁぁぁぁッ!!!!」」
セヴランは最前列に並ぶ敵兵の二人の首を正面から一撃で叩き斬った。リーナも一人の首を撥ね飛ばし、残った胴体となった骸を足場とし、空中を回転しながら二人の敵の鎖骨部分を力任せに叩き割った。
しかし、二人の初撃こそ終われど猛攻は止まらない。
セヴランは二人の無力化と同時、着地そうそうに地を蹴り更に二人の心の臓を貫いた。剣は体の肉に捕らわれるが、セヴランは右足を軸に回転し、遠心力をつけ強引に引き抜くとともに周囲の敵兵との距離を保つ。
「さぁ、その剣を力なき民に向けるんだろう?なら先に俺達の相手をしてもらおうじゃないか」
一瞬で敵四人を殺したセヴランに、レギブスの兵士達は死神に鎌を向けられたかのように怯え、すくみ始めた。そんな中、セヴランは牙を剥き、血に濡れた刃を敵へと構えた。
セヴラン同様、リーナも敵への猛攻を止めることはなかった。三人を無力化したリーナはその足を止めず、兵士達が並ぶ戦列を高速で駆け抜ける。一人辺りに時間を掛けることなく、次々と攻撃を放ってゆく。敵の首、心臓、武器を構える腕、足の関節、それぞれ弱点である部位に的確に放たれる攻撃は、確実にレギブスの兵士達を無力化していった。
返り血からか、顔や剣を血に染めたリーナは敵に得意の不敵な笑みを送る。
「あら、まだまだ終わりじゃないでしょ?私達の民を傷つける敵なんだから、もう少し楽しませて頂戴」
リーナの血に濡れた笑みは敵に恐怖を植え付け、たった二人を相手に戦闘は素人同然のレギブス兵達は、まともに動くことも出来ず蹂躙をされていった。
「くそッ!どうなっているんだ!!!」
手に持つハルバードの柄を地に叩きつけ、怒りを顕にするのはレギブス軍の現最高指揮官である男であった。彼は第一防壁区間から戦局を伝令兵から聞くだけで前線に出ることはなく、見方が二人の兵士相手に押されているという情報にイラだっていた。
彼の怒りの言葉に側近の兵は答え
「やはり、農民上がりの兵ごときでは使えませんな。敵は少数を展開しているといえど、中にはあのバーンズもいるそうですからな」
「そんなことは分かっているッ!どうにかして、ここは落とさねば…………」
男が焦っているのは、マリーンの事が関係していた。
城門突破後、マリーンと指揮官である男はある会話をしていた。
「それじゃあ、門は破壊してあげたんだから後はいけるでしょう?」
「当たり前だ!お前達がいなくとも、我々だけで充分だ!」
男は嫌悪感を顕にした表情でマリーンに吠える。しかし、マリーンはどうでもいいと無視し
「私達がいなかったら城門一つ壊せない雑魚が吠えないで頂戴」
「な――に――ッ!」
男は怒りでマリーンにハルバードを向けそうになるが、すんでのところで耐えた。
「私達はパラメキアの攻略に戻るわ、決して恥を見せないで頂戴ね」
マリーンに対し大きく啖呵をきったが故、男は早くフィオリス攻略を終わらせる必要があった。しかし、早くも攻略がつまずき始めた為、男の怒りは収まるところを知らなかった。
「どうしますか、このままでは七極聖天にまた介入されますぞ」
「それだけはならん!なんとしても、フィオリス攻略の手柄を奴等にとられる訳には…………」
レギブス軍の指揮系統は複雑であり、通常の軍である彼らとマリーンなどの七極聖天は別々の部隊であった。軍事国家レギブスの手柄によって食料や名声を手に入れれる体制上、どうしても彼らのような手柄欲しさに欲を出す連中は後を経たない。しかし、それが競争を生み出し、個々の意識を高め戦力としているのも事実であった。
悩んだ末に、男は決断を下した。
「全軍に伝えろ!これより、我ら第三軍団が殲滅に当たる。敵を片っ端から血祭りにあげるぞッ!」
指揮官である男は遂に戦場へと向かった。そして、側近達も後に続き、レギブス軍正規兵達が遂に動き出した。
どうも、作者の蒼月です。
なんか、今回も想定よりは進まなかった……まあ、戦闘シーンはかけたのでいいのですが
そろそろ4章も終わるはずなのに、なかなか終わらないのは作者の能力不足ですね~(白目)
真面目に、きちんとまとめきれるようにしたいところです
では、次も読んでいただけると幸いです。




