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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第四章~目覚めし騎士~
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第六十八話~集いし戦友達~

 フィオリス王国レギブス方面、最前線基地であるサファクイル基地。

 約二年の歳月を掛けて作られた前線基地であるここは、難攻不落とまではいかなくとも堅牢な三重の防壁によってフィオリスとレギブスを遮り、ここを落とすには数ヶ月を要すると開戦前までは囁かれていた。しかし、いざ蓋を開けてみればたった三日間で全ての防壁の門は破壊され、鍛え上げられてきた屈強な兵士達もその多くを失っていた。自然の雄大さを示していた基地前に広がる草原は、焼かれ、血に濡れ、数々の死体を受け入れ、そこには自然の姿がそのまま表れ、この世の地獄が大口を開いているようであった。

 そう、たった三日でフィオリス王国はレギブス方面軍に大打撃を与えられ、国境の防衛線は事実上崩壊した。




 サファクイル基地は大きい面積を持つ、その防壁の間の区間もかなりの距離を持ち、基地一つで王都に匹敵するのではという程の巨大さであった。これは、万を超える兵を収用する為、基地内部に様々な施設を作る必要があったためだ。

 各防壁の間の区間では、それぞれが独立して一つの基地になるよう全ての場所に必要な施設が建てられていた。指揮場、救護棟、食料庫、兵舎等々……故に面積は膨張し、基地内の移動に時間が掛かる事や、第一防壁区間、第三防壁区間は建築物が基本不規則に乱立し、第二防壁区間のように広い道が整備されてない場所は移動を行うのに時間を要するなどの問題点があった。しかし、それは意図せずフィオリス軍に優位に働くこととなっていた。

 第一防壁を破壊し、第一の区間を手中にしたレギブス軍には問題があった。それは、第一防壁内を大群で一気に攻めいることが出来ないという点であった。これが原因で二日目は大規模な攻勢に出れず、軍の配備に時間を費やしていた。

 そしてこの日、マリーンは単機で第二防壁まで攻めいるという、無謀ながらも実力に裏付けられた自信の元攻勢に出た。結果、マリーンの作戦は成功し、フィオリス側は誰も知らない『切り札』によって第二防壁と第三防壁の門は破壊された。

 こうして、展開を終えていたレギブスの軍勢は第一防壁区間から、破壊された門をくぐり第二防壁区間へとなだれ込んできたのだった。




 第三防壁前に展開し、聖獣との戦いを終えた面々は既に満身創痍であった。誰もが疲れていたのだった…………。聖獣という規格外の化け物と戦い、ここまでの連戦を戦い抜いたことは今までの鍛練の成果だろうか、一兵士達としてはおそらく帝国軍にもひけをとらない活躍ぶりであった。そんな彼らに次に迫る脅威はレギブスの大群であり、既に気力だけで立ち上がっていた兵達の心は折れ掛けていた。

 部隊の面々が疲れはてているのを分かっていたセヴランは肩の力を抜き、剣を持つ腕を力なく垂らし、絶望的な状況に思考を停止しかけていた。


 ……また、こうなるのか……もっと考えようはあったはずなのにな。カーリー大将の時もだ、失敗してからじゃないと分かんないもんだよな…………


 セヴランは第二大隊の指揮を預かる身として、自身の実力不足に嘆いていた。

 敵が豪雨の中でも臨戦体勢という謎の配置にセヴランは普段通りの防衛体勢を指示していた。それにより数少ない弓兵を防壁上に配置し、残る多くの重装歩兵を待機状態にしていた為、撤退をしようにも時間がなくこの場に残るという結果となった。

 今になって思うのは、歩兵だけでも他の大隊同様に第三防壁まで後退をしていればここまでの被害は生まれなかったのだ。後の祭りではあったが、セヴランは自身の判断力のなさに呆れを通り越して無心に近い状態になった。


 ……三日間守りきれなかったが、皆はよくやってくれたよな


 セヴランは絶望に打ちのめされそうな大隊に感謝の気持ちを持ちつつ、一つの決断を下した。


「第二大隊!並びに特別遊撃隊に告げる!今をもってして、第二防壁は破棄、第三防壁まで後退するッ!作戦通りに撤退を開始せよッ!」


 セヴランの言葉で当初決められていた撤退作戦通りに、破壊された城門の中へと第二大隊は素早く撤退を開始した。都合よく、城門は扉部分のほぼ全てを吹き飛ばしてくれていたため、開閉の時間の短縮と大隊の撤退は順調に行われていった。




 大隊の撤退がほぼ完了した頃、セヴランは視線を第二防壁側に向けると、そこにはレギブスの兵が一斉に攻勢に出るための展開を始めていた。展開はほぼ完了しかけており、一斉に突撃してくるのも時間の問題であった。


 第二大隊が撤退を終え、撤退を開始し始めた特別遊撃隊の隊員はセヴランの元に集まり


「隊員、撤退はほぼ終わりました。後は我々だけですよ」


 隊員の一人が急ぐように声を掛けるが、セヴランは兵士に振り向き


「あぁ、お前達は先に戻ってくれ。後から追わせてもらう」


 セヴランの声には力がなく、これが何を意味するかなど分かったものではなかった。しかし、隊員は今までのセヴランの性格を知っていたためある程度を察し


「――――分かりました、くれぐれも無茶をなさらないで下さい」


 こうして、特別遊撃隊は撤退を開始し、減った部隊の撤退に時間はそうは掛からなかった。




「無茶するな、か……それは出来ないよな…………」


 セヴランは一人残った戦場で、誰に言うでもなく呟いた。セヴランは初めから撤退する気などなかった。勿論、撤退をしてもよかったのだが、そうすれば第三防壁内での乱戦となる。そうなれば兵力で劣るフィオリス側は不利であり、少しでもリーナの示した三日という希望に掛けるため、可能な限りをここで凌ぎきる必要があった。

 そんなセヴランの無謀な策に仲間を巻き込めないという判断から、一人で戦場に残っていた。しかし――――――


「確かに無茶は必要だよな」


 セヴランは一人であった筈のこの場に、聞いてはいけない声がしたため慌てて背後に振り向いた。そこには、模擬戦で連れていたうちの二人を連れたバウルが立っており


「バウル!?ど、どうして残ってる!撤退って命令しただろうがッ!」


 命令無視をしたバウルにセヴランは怒声をあげるが、バウルは逆にセヴランに怒声を返し


「あのな!お前一人で何が出来るってんだッ!そうやって一人で背負い込んで、またくたばるつもりかッ!」


「そ、それは…………」


「いいか、俺達も仲間を殺された。あいつらは仇なんだよ、お前一人が背負う敵じゃねぇんだぞ」


 バウルの言葉にセヴランは返す言葉がない。沈黙するしかなかったセヴランだったが、バウルへの返答は別の声が行った。


「えぇ、確かにそうですね。でも、貴方方だけの仇でもない……我々全員の敵です」


「ギ、ギーブまで!」


 バウル達の後ろから二人を連れたギーブが現れた。これも、模擬戦で戦っていた面子で、ギーブの仲間も戦闘で減っていたことがセヴランにも分かった。


「まったく、どうして貴方達はいつもそう、後先を考えないのか……まあ、私もですが」


 ギーブは集まった面子が皆馬鹿なのだと小さく笑った。それに同調するように他の面子も笑い


「本当にお前ら……どいつもこいつも馬鹿しかいねぇな」


 自責に捕らわれ、責任感と絶望感に押し潰されそうなセヴランだったが、少し、その気持ちが軽くなり生気を感じれなかった表情に、笑いという感情を示す表情が生まれた。

 しかし、集まったのはそれだけではなかった。


「あら、私達みたいなのが沢山いるわね。やっぱり今年は、優秀な強者揃いのようね、バーンズ」


「そうだな、これなら国の未来も明るいもんだ。お嬢さえ、まともならな俺も楽なんだがな~……」


「リーナ!バーンズ!」


 特別遊撃隊の面子に混ざるように、普段の笑みを浮かべたリーナとリーナに振り回されるバーンズの二人も現れた。


「ちょっと~置いてかないでよ~」


 二人に遅れるようにエメリィが杖を抱えて走ってきていた。

 現状のほぼ最高戦力が撤退を命じたこの場に揃い、命令の意味がなんだったのかとセヴランは頭を抱えた。

 更にはそれに留まらず


『セヴラン隊長!!!』


 第三防壁側からセヴランの名を呼ぶ声が叫ばれ、セヴランは視線を向けた。するとそこには、撤退した筈の特別遊撃隊が全て駆けてきており、軍規違反もいいところだった。


「うちの部隊はもう少し、頭がいい奴らが揃ってると思ったんだがな」


 セヴランは苦笑いするが、隊員は盛大に笑い


「隊長の部隊ですよ?まともならとっくに逃亡してますよ」

「そうですよ、ここにいるのは全員馬鹿な奴らなんですから」

「そうだぜ、自信を持てよ、その馬鹿の隊長なんだからよ」


「お前ら…………」


 特別遊撃隊、当初は新兵を集めただけの集団であったが、幾度となく戦闘を乗り越え、ここに残ったのはもはや歴然の猛者であり戦友ともであった。彼らは誰もが土にまみれ、武具は傷つき、血にまみれていたが……誰もが笑っていた。

 そんな戦友ともを前に、セヴランは溢れそうになる感謝の涙を堪えつつ


「ありがとうな、皆…………」


 セヴランはその感謝の旨を伝えるために、言葉に表して頭を下げた。セヴランの姿に馬鹿達は微笑み


「それじゃあセヴラン、指示を出してくれるかしら?」


 リーナはセヴランに、流れを変える一つの切っ掛けを与えた。そして、セヴランは思考を戦闘用のものに切り替えてゆく。


「それでは確認だ。ギーブ、ファームド少佐は」


「既に救護兵に引き渡した。安全圏まで待避完了済みですよ」


「よし。バーンズ、第三防壁内にはラムス少佐がいるが、あの人は防戦が得意で間違いないか?」


「あぁ、あいつのもつ第三大隊もそうだぜ」


 セヴランは次々と必要な情報をまとめていく。そして、それらはおおよそセヴランの望む通りであり


「それじゃあ最後だ。エメリィ、あの城門の上を崩せるか?」


 セヴランが指すのは、扉部分の上部の基礎部分であった。今は扉を破壊され穴が空いたような状態であり、その上部を落とせるかという質問であった。それに、エメリィは自信ありげに胸を張り


「あんなの余裕よ~落とせばいいんでしょ?」


 エメリィはセヴランの意図を理解しており、その確認をとる。そして、セヴランもそれに答え


「あぁ、やってくれ」


「はいは~い、それじゃあ…………ウイングドランス!」


 当たり前のような無詠唱による魔法、そして風に属する中級魔法のウイングドランスが発動する。エメリィの杖の先端に風の力が収束し、一直線に城門に向かって放たれると、もともと崩壊しそうであった罅だらけとなっていた城門をいとも簡単に砕き、城門は形こそ失ったものの敵を拒む壁に生まれ変わった。


「さあ、これで俺達は退路もなく背水の陣だ。ここを通せば避難を続ける民に被害が及ぶ……全員、準備はいいなッ!」


「おうよッ!」

「いいですよ」

『了解ッ!!!』

「いつでもいけるぜ!」

「やってやりましょう」


「さあ、始めましょう。私達の戦争を」


「全軍行くぞッ!!!我らの背に民はありッ!!!!!」

どうも、作者の蒼月です。

今回は熱かった!個人的にはかなり好きな場面です。本当は戦闘まで書きたかったけれど、書いてみると思ったより文字数がかさんだのでここまでとなります。

最後のセリフをまとめておくと

バウル→ギーブ→得意遊撃隊面子→バーンズ→エメリィ→リーナとなります。

ここらへんは書くのが楽しいので次の話も長くなるかもです。

では、次も読んでいただけると幸いです。

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