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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第四章~目覚めし騎士~
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第六十五話~僅かな希望は憎しみへと帰還する~

 雨がやみ、戦場に陽の光が射し込み始めた頃、エメリィとマリーンの激戦が繰り広げられる第二防壁城門前は未曾有の大洪水となっていた。周囲が晴れ始めても局所だけが大洪水という異常気象、その原因はマリーンにあった。


 吹き荒れる嵐の中、ファイアボールとウォーターボルトの火球と水球の応酬を続けながら、二人は互いに魔法陣の構築を繰り返し


「ちょっと、その水魔法やめてくれないかしら?美少女の私が風邪でも引いたらどうしてくれるの、オ・バ・サ・ン」


「あんたがそんな暑苦しいものを使うから冷やしてあげてるんでしょうが、クソガキッ!」


 マリーンは主に水魔法を使い、その効果は周囲の水に影響されるのだ。しかし、その大洪水もマリーンの頭上に巨大な水球となって、空には太陽の姿も現れた。

 過去に、長い時間を共に過ごし、仲間であり敵であった二人は互いの精神に揺さぶりを掛けるための発現で精神攻撃を行うが


「誰がクソガキだと!ヘルファイアッ!」


「誰がオバサンだ!スプライトアローッ!」


 見事に互いにキレ合い、構築していた術式を発動させ中級魔法である二つが展開される。一つはエメリィが作り出し、マリーンの足元に展開された炎の中級魔法ヘルファイア。もう一つはマリーンが周囲の水を集め、エメリィの頭上に展開した水の中級魔法スプライトアロー。

 ヘルファイアは模擬戦でギーブが一度だけ使用したものでもあるが、無詠唱でありながら魔法陣の規模はギーブのものよりも大きく、魔法の技術力の高さが判断出来る。そしてその効果は、発動すれば魔法陣の中心から炎を吹き荒れさせ業火によって敵を燃やしつくす。

 対してスプライトアローは、空中に展開した魔法陣から大地に目掛け水の矢を放つ魔法。水の矢、とだけ言えば大した効果は無さそうだが、圧縮と加速を与えられた水の矢は一つ一つが鎧を貫通し岩をも砕く威力を与えられている。言わずとも、これも中級とは言えど規格外の威力を持つ代物であった。

 術式は完成しており、発動すればどちらもここで命が潰える。しかし、二人ともこの程度の命の危機には同様もなく、冷静に敵の攻撃を防ぐ。


「ライトニング・ソルッ!」


「フローズド・バインドッ!」


 二人は互いに、エメリィは杖を掲げ、マリーンは杖を地に勢いよく突き立てた。そして、この一瞬で展開された全ての魔法が発動を始めた。

 マリーンの周囲はヘルファイアの業火に包まれる。しかし、本来敵を氷付けにする魔法であるフローズド・バインドを転用し、威力を弱めた状態で自分を覆い、氷の塊となったマリーンは業火を平然と耐えきる。

 対してエメリィは頭上から矢の雨が降り注ぐ。が、こちらも本来攻撃に用いる範囲型魔法のライトニング・ソルを転用し、自分の周囲に半円球状にいかづちが広がっていき、スプライトアローの魔法陣を衝撃波で矢ごと吹き飛ばした。


「流石師匠、この程度じゃ傷もつけれないわね」


 擬似的に雷を作り出し、外へ放ったにも関わらず、一部の攻撃を身に受けたエメリィは痺れる体を御しつつ、目の前の敵に素直な称賛を送る。それは世辞でもなく、仲間ではなく敵だからこそ思えた気持ちであった。


「あなたこそ。成長したものね、あなたは私の可愛くて最高の一番弟子だったから当然ではあるけれど」


 自身にかけた氷を解き、エメリィと同様に称賛を送り返した。マリーンはエメリィの攻撃を完封したものの、そのために自身に攻撃魔法を用いるという魔法を知り尽くしているが故に可能な荒業を行い、結果互いに攻撃は効果がなかった。

 しかし、ここまでで互いに見せた力は大きな情報をもたらしていた。二人はここまで、初級魔法を維持しながら中級魔法、はたまた超級魔法の同時使用、全ての魔法における無詠唱展開、そしてあらかじめ術式を完成させ即時展開する魔法保持、これらの技術は他の魔術師には不可能な芸当であり、大陸における天才魔導師の異名をより確実にするものであった。

 二人はファイアボールとウォーターボルトの使用を一旦止め


「あなたには才能があったわ、私とは違って生まれもった魔導の才能が……そうと知ってれば、あなたはここにいなかった筈なのに……」


 エメリィの才能、それは魔法を使用する際に使う個人が持っている魔力の質と量、そして精霊から受け取った膨大な魔力をほぼ全て魔法に展開出来る能力だった。個人の持つ魔力量が多いだけならばそこまで驚くことではないが、普通精霊から受け取った魔力を魔法に使用する際、その半分程の魔力は自身が扱いきれず精霊の元へと戻ってしまう。しかし、エメリィは精霊の魔力をほぼ全て引き出せる為、同じ魔法一つをとっても魔術師とは比較にならないほど強力な魔法となるのだ。そして、マリーンはこの才能に嫉妬をしていたのだ。




 エメリィが魔法に触れたのは、単なるマリーンの気まぐれだった。自身の研究所に迷い込んだ幼少期のエメリィがマリーンの魔法を見ると、目を輝かせて興味を持ったのだった。


「ねぇねぇ、これなぁに!」


「ん?……これは魔法だけど」


「魔法!?凄い凄い!もっと見たいッ!」


 初めはエメリィを追い出そうかと考えたマリーンだったが、面倒が故に放置していた。すると、エメリィが興味を持ったため様々な魔法を見せたのだ。エメリィは新しい魔法を見るたびに目を輝かせ、マリーンもそれを心地よく思った。そして、


「よかったら、お前もやってみるかい?」


「うんッ!」


 こうして、エメリィはマリーンの一番弟子となり魔法の研究へと取り組み始めた。そして、エメリィの才能は少しずつその片鱗を見せ、超級魔法を完成させる頃には技術力ではエメリィがマリーンに勝る程までに成長していた。

 だが、そこからは二人の道は徐々に反れ始め、五年前にエメリィはマリーンの元を離れフィオリスへと流れてきたのだ。




「師匠、あなたのお陰で私はここまで生きてこれた、これには感謝してます。けど、どうしてあなたはレギブスで、その危険な魔法の開発に取り組むんですか!」


「あなたには分からないわ……」


「えぇ、そうやっていつも教えてくれなかった……だから私は!あなたの元を離れたんですよ!どうしてレギブスに残るんですか!あなたの力があれば、もっと多くの人を助けれるでしょッ!」


 このエメリィの問いかけは敵ではなく、弟子としての言葉だった。エメリィはマリーンを尊敬していた、敬愛していた、親のような存在であった。しかし、いつしか道はたがい、対立をするようになっていた。望もうと、望まなくとも…………

 しかし、この問いにエメリィの求めていた答えは返らなかった。


「あなたは、まだ何も知らない子供なのよ。そうやって小さいことに囚われるから見えないのよ」


「小さい?無力な多くの人間を殺すことが小さいって言うつもりッ!」


「えぇ、この世界に比べればね」


「…………そう、出来ればここで説得出来たらなんて思ってたけど無理そうね…………あんたはここで潰すわ、マリーン」


 最後通知をはね除けられ、エメリィの説得は虚しく聞き届けられなかった。故に、エメリィはドスの効いた声で敵の名を呼び、おのが杖を向けた。

 これにマリーンも杖を向け、見下すように笑い


「出来るものならやってみなさい、エメリィッ!」


 エメリィとマリーンの周囲に再び魔法陣が展開され、激戦の幕が再びあげられたのだった。




 共に進んだ筈の道はどこでその道を変えたのか。互いの貫く信念は形となり、力となって衝突し合う。望まなかった筈の未来は、何故か望まぬ者へと帰還する。それでも俺達は、進む道を選んだ故に戻ることは許されない。血は血を呼び、死は憎しみとなって次の世代へと連鎖する。しかし、何故か連鎖しない死が生まれる時、その憎しみが何処へ向かうのかを、この時の俺達はまだ、誰も知らなかったのだ………………

どうも、作者の蒼月です。

思ったより長くなった今回の話、まだ掘り返すつもりはなかったんですが、戦闘ばかり続けてると皆さんも飽きるかと思い、エメリィにまつわる過去を少しだけ入れてみました(ん?魔法の戦闘が書けないって前に言ってたか?チョットナニイッテルカワカンナイデスネ)


それはさておき、最後に書かれたデスポエムみたいな何か、これが意味するのが何なのか、ようやく、物語も進んできた感じですかね(作者は最後まで完走出来るのか)


では、次も読んでいただけると幸いです。

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