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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第四章~目覚めし騎士~
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第五十六話~第一陣の苦戦~

 太陽が昇りきり、丁度空の頂点に達する頃に第二大隊と特別遊撃隊はセヴラン考案の作戦を開始した。

 まず、第一陣であるバウル率いる特別遊撃隊は開門と同時に突撃を敢行し、防壁前に展開していたレギブス兵の懐へと潜り込んでゆく。その間、セヴランは急ぎ城門上に駆け上がり指揮を執る態勢に入った。

 城門上では第三大隊が続けて攻撃を行っていたが、ラムスはセヴランが来たと気づくとセヴランの隣に並び


「セヴラン、セルゲノフはどうした?」


「セルゲノフ中佐は現在レイルーン砦にて市民の避難誘導の指揮を執っています。その間、私が代わりに指揮を執ることになりました」


「お前が一人でか……大丈夫なのか?」


 ラムスは流石に心配があるのか、セヴランに様々な意味を込めた確認をするが、セヴランは頷き


「えぇ、作戦は既に展開中です。第三大隊はこの間に後退してください」


 セヴランは当初の予定通り第三大隊と交代するよう促すが、ラムスは何かを悩み


「いいのか?弓兵は足りてないだろう、我々がまだ戦うことも可能だが…………」


 ラムスの提案は現状において有用なものである。セヴランも受けたい提案であった。しかし、セヴランは首を横に振り


「いえ、第三大隊は休ませて下さい。このまま戦い続ける程、皆に余裕はないでしょう」


 第三大隊は昨日の夕方から警戒と戦闘を続け、疲れ方に差違はあれどこれ以上の戦闘の継続は今後の士気に下げることに繋がる。セヴランはここで士気を下げるわけにはいかず、第三大隊には予定通り交代を促したのだ。

 セヴランの考えはラムスにも伝わっていた。故に、ラムスは腕を振り上げ


「よぉし!第三大隊は第二大隊に引き継ぎ交代するぞ、急げよ!」


『了解!』


 ラムスの掛け声の元、第三大隊の弓兵達は第二大隊の弓兵に後を任せて後退してゆく。ラムスは交代を最後まで見届けると、セヴランに軽い敬礼をし


「ではセヴラン、暫くは頼んだぞ」


「はッ!了解です!」


 ラムスは防壁上から第三大隊と共に去った。これにより、現場の作戦指揮は完全にセヴランに移された。

 第二大隊所属の弓兵が配置に着き戦闘を開始したのを確認すると、セヴランは城門中心に堂々と仁王立ちで戦場を見下ろした。眼下では、バウル率いる特別遊撃隊が敵部隊に強襲を掛け、戦闘が開始していた。敵は強襲を想定していなかったのか、バウル達の攻撃への対処が遅れ、バウル達は優勢な状態で戦闘に挑むことが出来ていた。


 ……暫くは指示は必要無さそうだな


 セヴランはバウル達の様子にひとまず安心し、戦況を眺めることに集中する。だが、城門の上で無防備な姿で立っている為、レギブス兵から幾つか矢がセヴラン目掛けて放たれる。遠距離から放たれる為セヴランに当たりはしないが、その幾つかはセヴランを掠め


「隊長!そこは流石に危険ですよ、もう少し下がってください!」


 セヴランの近くにいた若い弓兵が、危険を犯すセヴランの身をを案じ下がるよう提言するが、セヴランは下がることはせず


「私のことは気にしなくていい、それよりもバウル達の援護に全力を注いでくれ」


「分かりまし――――隊長ッ!矢が!!!」


 兵士はセヴランに矢が迫るのに気付き、焦りながらも危機を伝えた。矢はセヴランの顔へ目掛けて一直線に飛んでおり、避けなければ致命傷は免れない。兵士は指揮官であるセヴランを守ろうと無意識のうちに足を動かし、体当たりでも引き寄せるでもとにかくセヴランを動かさなければと近づいたが…………………………セヴランは迷いなく剣を引き抜き、迫った矢を叩き落とした。


「気にするなと言ったろ、私のことは心配するな」


 セヴランは再び冷静に戦況を見つめ、何もなかったかのように振る舞った。その姿は実力に裏付けされた自信が溢れており、兵士はセヴランの姿にある種の感動を覚え


「余計なことをすみませんでした、作戦に戻ります!」


 兵士は敬礼をし、期待からか笑みを浮かべながら配置へと戻って行った。




 セヴランは戦況の流れを見つめながら状況をまとめ、辛い局面に立たされていた。


 ……バウル達だけじゃ、やっぱ長くは持たないよな……


 バウル達が攻撃を開始してからそれほど時間は経っていなかったが、既に敵はバウル達を包囲しつつあり早くも作戦を次の段階に移すことを迫られていた。しかし、第二陣を出せば早くも敵を内部に誘い込まなければならず、時間稼ぎとしては失敗となるのだ。想定の範囲内でありながら作戦の失敗が近いという状況にセヴランは頭を抱え、作戦を次の段階へ移すか悩んでいると


「セヴラン、相変わらず考えることは得意なのね」


「リーナか……今は余裕なんてないから相手は出来ないぞ」


「そう、それは残念ね」


 リーナはセヴランの隣に並び、共に眼下の状況に苦い顔をした。戦況が不利なのは元々であるが、更に追い込まれた状況はどうにかしなければならなかった。そして、この基地内で最高戦力であるリーナが来たということは、戦力が揃ったということであり


「リーナ、行けるな?」


「えぇ、もう準備は出来てるわ。バーンズも行けるわよ」


 リーナの言葉でセヴランは後ろを振り向くと、そこには大剣を肩に担いだバーンズが立っており、戦闘態勢は整っていた。これにより、セヴランの作戦はようやく機能することとなり


「ならリーナ、バウル達に加わって敵を食い荒らしてくれ。今日はまだここを破られる訳にはいかないからな」


「分かったわ。けどセヴラン……一ついいかしら?」


「なんだ?」


「食い荒らすっていうのは、一撃離脱の時間稼ぎかしら?それとも、殲滅ってことかしら?」


 リーナの言葉に対する答えは一つしかなかった。現状の戦力では一部といえど敵の殲滅など不可能なのだ。故に――――セヴランは答えた。


「殲滅で構わないぞ」


「分かったわ。バーンズ、行くわよ」


「了解、お嬢」


 セヴランの言葉にリーナは任してと言わんばかりに笑みを浮かべ、バーンズと共に防壁から飛び降りて行った。

 本来ここで殲滅などとは口が裂けても言えないことだ。だが、今は気持ちだけでも強気に構えなければ、圧倒的な戦力を誇るレギブスに対して心が折れかねなかった。故にセヴランは嘘でも、殲滅という言葉を口にするしかなかった。


「リーナとバーンズの二人がいれば多少は持つが……時間の問題だな」


 再び押し返し始めた戦況を確認すると、セヴランは一人の伝令兵を呼びとある事を伝えた。すると伝令兵は驚愕の表情をしつつも、セヴランの言葉を抱え第三防壁へ向けて駆けて行った。


どうも、作者の蒼月です。

またまた話が延びてしまい申し訳ないですm(__)m

自分でも思いますが、場面の見せ方が下手なんですよね~これからもっと上手くなるようにしたいです


では、次も読んでいただけると幸いです。

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