第五十五話~特別遊撃隊・第二大隊は駆け出す~
セヴラン達四人が城門前に着くと、そこには武装状態で待機をしている第二大隊の集団の姿があった。彼らは皆、その瞳に闘志を宿し、戦場へ望むそれぞれの意思が広がっていた。前日までは綺麗に磨かれていた鎧は目新しい傷が目立ち、たった一日だけでも熾烈な戦いであったことが誰にでも伝わる。そんな空間に足を踏み入れた四人は兵士の集団の端に自分達の所属する仲間達を見つけた。
特別遊撃隊は第二大隊が広がる城門前広場の端に集まっており、彼らもまた第二大隊同様に闘志に溢れる戦士達であった。
「お前ら、しっかり休めたか!」
バウルは特別遊撃隊の面子に腕を振り上げ、心配の言葉を送った。バウルは戦闘で疲労している仲間を気遣っての発言であったが、誰も疲労している様子を見せることなく
「大丈夫ですよ隊長!」
「隊長の方こそ疲れてるんじゃないですか?」
「最後に来るぐらいっすからね、俺達に任せて寝ててもいいんっすよ!」
バウルは余裕の表情を見せる仲間達に心配は無用であったと思い知らされた。半数の仲間を失っても、それに心を奪われない仲間に感心し、笑みを送り返し
「言ってくれるな、お前らに心配されるほど怠けてねぇよ!」
広場に集まった特別遊撃隊の数は五十程であった。前日まで百以上いた仲間の半数がたった一日の戦闘でその命を失ったのだ。勿論、戦闘をほぼ経験していない新兵がこれだけ生きている事のほうが奇跡的ではあった、だが、多くの仲間を失った事実をセヴランを筆頭に指揮を取っていた者は責任を感じずにはいられなかった。セヴランは己の力不足さに苦い顔をするが、見かねたリーナはセヴランの肩を叩き
「セヴラン、分かってるわよね。私達は止まれないのを」
リーナはセヴランが感情に呑まれ、己自身に食われない為に釘を刺すが、セヴランは大丈夫とリーナの手に己の手を重ね
「俺達が守るのは民だ……もう見失わないから安心してくれ」
「そう、ならいいけれど…………」
セヴランにもう迷いはなかった。カーリーを失った時に、覚悟を決めたのだから…………。
セヴラン達が広場に集合してから暫くを待機した兵士達は、遂に動く時が来た。
変化の現れは一人の兵士からであった。息を切らして走ってきた兵士は、集団の端で待機をしていたセヴランの元に駆け寄り
「セルゲノフ中佐より伝令です!現在レイルーン砦にて市民を内地へと移送する準備中、その間第二大隊を預けるとのことです!」
兵士の伝令により事態は急速に変化を迎えた。セヴランは第二大隊はセルゲノフが指揮すると考えていたが故に驚きは隠せなかったが、部隊を預けられたのはこれが初めてではないため同じ事と自分に言い聞かせて気持ちを整理した。
「了解、第二大隊の件は承ります。市民の避難、宜しくお願いします」
セヴランは伝令兵に敬礼を返すと、兵はセルゲノフの元へ再び駆けて行った。
……一介の新兵に大隊を二つも預けるとは、頭がおかしくないと出来ない判断だぞ
フィオリス軍、他国の軍でも部隊を扱う際に小隊や大隊といった数で区別する。その数は決まっておらず場合によって変化はするが、大隊を二つというのは歴然の将官でさえ一度に指揮することは滅多にあるものではない。それをセヴランのような新兵に託したセルゲノフの決断力は異常であり、そして結果的に作戦には有利に働く事となった。
……まとめて指揮が取れるなら無駄にバウル達を酷使しなくても作戦が通せる、これなら第二大隊も有効に使えるな
もし、指揮官がセヴランとセルゲノフの二人いれば何かあった際の対応は早いだろう。しかし、二人いれば部隊間での連絡に食い違いは生じるし、何より特別遊撃隊はそれだけでは戦力としてはあまりにも脆弱すぎるのだ。だが、セヴラン一人で部隊を運用するならばその問題は解決できる。
時間はあまりあるわけではない為、セヴランは作戦を第二大隊に伝えに広場の前に進んだ。第二大隊は整列して指示を待っており、セヴランはその迫力に気圧されそうになりながら咳払いをし
「私は、今回第二大隊の指揮を預かることとなったセヴランだ。実力不足は重々承知しているが、全力でこの指揮に当たらさせてもらう」
セヴランの視界に広がる兵士達は誰一人として不服はないと視線を向けていた。セヴランは第二大隊の面子には嫌な顔をされるだろうと心構えをしていただけに、少し拍子抜けであった。
「では作戦を説明する!まず門を開門し、第一陣として特別遊撃隊を敵に切り込ませる。その際には、防壁上から弓兵での援護をつける。特別遊撃隊は敵の注意を引きつつ敵に包囲させる、そこに第二陣として重盾を用いた部隊で突撃を掛けて特別遊撃隊を基地内まで守り抜く、そして一緒に群がってきた敵兵も基地の中に誘い込む」
セヴランの最後の言葉に部隊に動揺が広がる。バウルも同じ反応を示していた為予想はついていたが、ざわめきは連鎖反応でその波を広げる。いつまでも放置する訳にはいかないため、セヴランは次の言葉を告げる。
「防壁内に誘い込んだ敵は内部に配置した第三陣で包囲殲滅をする。もし敵が入り込まないようであればそれでいい、敵は急いで攻める気がないということだ。だが、おそらく敵はここぞとばかりに攻めるだろう。昨日の戦いでは我々が受けた被害は甚大だ……しかし!ここで敵を食い止めなければ次に敵が狙うのは力なき民である!現在、セルゲノフ中佐をはじめとして多くの兵が市民の避難誘導を行っている。今こそ、我々が力を発揮し民を守る時なのだ!総員、戦闘準備はいいかッ!」
『うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!』
第二大隊、そして特別遊撃隊の面々は剣を掲げ、勝利への咆哮をあげる。戦意は上々、戦力も足りないとはいえど最高のものであった。
セヴランは皆の覚悟を受け取り、始まりの刻を告げた
「では……作戦、開始いぃぃぃ!!!!!」
口を閉ざしていた城門は、その重々しい口を開けてゆく。その先に広がるは命を奪う戦場である。だが、誰もがその命を輝かせれる戦場に駆けて行った。
どうも、作者の蒼月です。
なんか前回テンポがよくなるとか言ってましたが、良くならなかったです……すみませんでしたぁ!
まあ、この戦闘はあまり詳しく書かないとは思いますが、早く次の場面に移せるように努力いたします。
では、次も読んでいただけると幸いです。




