第四十九話~被害~
リーナが国の姫であるという事実、それは他のセヴラン以外の者達からすれば驚きには値してもそれだけのことであった。本当に姫であることが証明されると、将官達はその立場を受け入れ作戦会議を始めようとしていた。
「ま、待ってくれ!リーナ、お前が姫ってのはいったい……だって、俺とお前は一緒に育って…………えっと……だから…………」
セヴランはリーナの言葉が理解出来ず、詳しい説明を求めたかったが上手く言葉にならず、傍目から見れば頭がおかしいとしか言えない姿であった。
リーナはここまでは想定していたのか特に驚くこともなく、セヴランに対して冷静に告げ
「セヴラン、落ち着いて。貴方の気持ちは分かるわ、けど今は優先するべきことがあるでしょ?」
リーナの声色は優しさに溢れ、その声でセヴランは冷静に我に帰った。
「……そうだな、すまなかった……冷静じゃなかったな……」
セヴランは自身が冷静さを欠いて大勢に迷惑を掛けたことを反省しつつ、拳を握り気を入れ直し
「それじゃあリーナ、よろしく頼む」
リーナはセヴランが落ち着いたのを確認すると、部屋の中央にある机を叩き
「それでは、私の立場も分かってもらったところで、今後の我々の方針を決める作戦会議といきましょうか!」
リーナの瞳からはこの会議への覚悟が周囲に伝わり、将官達も自然と臨む意識が高まってゆく。
「それじゃあまずは、各部隊の被害状況の確認からいきましょうか、第四大隊から順に第一大隊まで報告して」
リーナの言葉で始めに前に踊り出たのは、第四大隊長のファームドであった。彼は聖獣との戦闘で負傷を追い、体のいたるところを血の滲んだ包帯で巻かれていたが、弱った姿勢は見せずまだまだ戦えるといった気迫を見せていた。
「はッ!第四大隊は死者は二百七十八名、戦闘不能の重症者は百三十一名、その他復帰が見込める重症者が多数です!」
「次」
リーナはファームドの報告を受けると、続けて次の報告と指示を出す。そんな指示でファームドと並んだのは、第三大隊長のラムスである。
「それじゃあ報告を、最も被害が少なかったのはうちでしょうな。死者は七十六名、戦闘不能の重症者は二十七名ですわい」
「そう、次」
次に並ぶは、現最高司令官にあたる第二大隊長のセルゲノフである。
「被害報告ですが、前線での戦闘が響いております。死者は五百九十四名、戦闘不能の重症者は二百五十六名にのぼります」
「……そう、次」
第二大隊の被害は第三、第四大隊に比べ大きいものであり、周囲の将官達もざわめき始める。リーナも僅かながらに言葉を詰まらせるが、この程度で衝撃を受けている訳にはいかなかった。誰もが理解していたのだ、第一大隊の被害はこの程度ではないことを。
セヴランも三人の隣に並び、伝えるべき情報を頭の中でまとめる。第一大隊の被害は様々な兵士からの報告が上がっていた為セヴランは把握していたが、伝えるにはあまりにも酷い状態であったが故に躊躇する心が生まれる。しかし、それを伝える事は必要な為、セヴランは意を決し報告をする。
「第一大隊の被害の報告ですが、行方不明を含め死者は千六百五十二名、戦闘不能の重症者三百八十八名、各大隊の被害報告は以上です」
セヴランの報告で部屋の将官達の表情には様々な感情が現れた。それは被害の規模の大きさへの気持ちが現れたものであり、一部では将官達の議論が始まった。
「第一大隊の被害が約四割だと……」
「他の部隊と統合すれば、あるいわ……」
「だが、第二大隊の被害も見過ごせるものではないしな……」
戦闘開始前の戦力はこうであった。
第一大隊・五千名―騎兵百騎、重装歩兵を僅かに含んだ技量の高い軽装歩兵隊―
第二大隊・四千名―主に重装備で固め、前衛での防御力を重視した重装歩兵隊―
第三大隊・四千名―半数を弓兵で固め、残りを軽装歩兵と重装歩兵との混成部隊で構成した迎撃部隊―
第四大隊・三千名―比較的技量の低い者達が多く、軽装歩兵で構成した機動部隊―
これら一万六千という、このフィオリス軍の総数の約半数を預かっていたレギブス方面軍。フィオリス軍は他国のように徴兵などをするほど農耕に余裕はなく、基本的には志願者で構成されている。その為、一人一人の技量を磨き少数精鋭とする事によって他国と渡りあってきた。しかし、近年では本格的な戦争はしたことはなく、この戦力でどこまで持つかという想定はまともに出来なかった。結果として、たった一日で 三千四百二名 の兵士を失うという、これまでの歴史にない大損害を受けたのであった。
どうも、作者の蒼月です。
いや~この被害は恐ろしいものですね。これまでの小競り合いだと、一回の戦闘での死者は百人も行けば歴史的な損害でしたからね。この全力の戦争の被害はあり得ないものと言えますね。
現実で言えば、日露戦争の旅順での戦いに近いかんじでしょうか?
そう遠くないうちに、解説回を入れたいと思いますので、詳しい説明はその時にでも
では、次も読んでいただけると幸いです。




