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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第四章~目覚めし騎士~
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第四十七話~予言されし時~

 セヴランにとって、命の危険を感じることはそう珍しいものではなかった。今日この日も朝から戦場で戦い、何度か死を覚悟した時もあった。しかし、今この瞬間に感じている死の感覚は、今までのどれよりも強烈であった。再開出来たばかりの家族であるリーナに刃を向けられる、この事実にセヴランの背筋は凍え、額からは嫌な汗を流した。

 何が起きているかは理解出来たが状況が分からず、セヴランは確認をとる為に口を開いた。


「リーナ……これは、どういうことなんだ……」


「どういうもなにも、裏切り者を殺すって言ったでしょ」


 リーナは笑っていた、獲物をいたぶるのを楽しむかのように。それが意味するところは分からず、セヴランは言葉を続ける


「何の話だ……裏切り者とはどういうことだ」


「簡単よ、この場には密偵の容疑がある者がいる。あなたなら誰が怪しいと思うかしら」


 喉元に当てられた刃に軽く力がこもる。セヴランは下手に喋ることは許されないと知り、混乱する思考をまとめ上げる


 ……どういうことだ、俺は裏切り者じゃない……リーナは何を言ってるんだ。


 事実、セヴランは特に裏切りと言われるような行動をとったつもりはなく、とったこともない。それはセヴラン自身は分かっていたが、それを周囲に信じさせる根拠は何処にもない。


 ……くそっ!なんだよ裏切り者って!


 セヴランは自身が裏切り者と言われるこの空間に怒りが募り、思考から冷静さが失われていく。

 気が付くとリーナだけではなく、バーンズ、セルゲノフ、ラムスの三人までもがセヴランに剣を向けていた。この基地内で、現状最高指揮官候補であるセヴランや将軍であるバーンズが剣を構えたことにより、リーナの言う裏切り者という言葉に信憑性が増し、周囲の将官達もセヴランに敵意を向け始めた。


 ……なんだって俺が疑われるんだよッ!なんで俺が、俺がッ!!!


 冷静さを欠いたセヴランだったが、自分の言葉に一つの疑問を生じさせた。


 ……まて、なんで俺なんだ……


 セヴランは自問に冷静になり、頭の中で情報と状況を整理していく。


 ……リーナは何がしたいんだ、裏切り者…………まさか、密偵あぶり出すつもりなのか?


 セヴランは心の中で一つの答えを見つけ出した。答えが見つかると、そこからはひたすら、思考を回転させ続ける。


 ……密偵、もし俺を本当に疑ってるなら幾らでも殺す機会はあった。見せしめに使うにしてもこの無駄な時間を待つ必要がないはず。ならどうして…………いや、リーナは裏切り者と言って剣を突きつけたが俺の名前は出さなかった。ということは…………標的は…………俺じゃない?なら――――――――


 リーナの考えを読む為、思考の海に呑まれていたセヴランだったが、ふと視線を上げるとリーナ表情の変化に気が付いた。

 笑っていた……しかしそれは、先程までの獲物を見る笑みではなく、何かに満足しているかのような自然な笑みであった。

 セヴランはリーナの笑みで完全に状況を理解した。


 ……そうか、そういうことかよ…………こんなの気づける訳ないだろ、無茶振りしやがって。


 セヴランの中で出たリーナの考え、それは


 ……新兵で急に地位を上げた俺を密偵として吊し上げて、変化のある他の密偵を見つけ出せってことか。


 普通の人間であればリーナの考えにたどり着ける者はいないだろう。セヴランでさえリーナの考えを想像するのは容易ではなかったが、それでも幼い時のリーナの性格を知っていた為に答えにたどり着けた。


 ……相変わらず、考えるのは人に投げやがって


 リーナは幼い時から考えることはセヴランに任せ、考えるより先に行動といった考えの持ち主だった。恐らく、それは今も変わっていないのであろう。それならば、リーナが戦場で再会したばかりのセヴランに大隊の指示を任せた事にも説明がついた。


 ……このままじゃどのみち俺の首がはねられかねんし、とりあえずまずは、時間稼ぎに付き合ってもらうか


 セヴランは内心笑いつつも、焦りの表情を作りながらリーナに語りかける。


「リーナ、一ついいか?」


「何かしら?」


 ……よし、やっぱり食いついてくれるな


 リーナが悠長な問答に付き合うとあうことは、セヴランの考えは的中していたということだ。セヴランはようやく大きな不安要素を排除でき


「俺が裏切り者という根拠はなんだ?」


「簡単よ、あなたが……あんな魔法を使うからよ」


「魔法?」


「えぇ、大地を凍らせる氷結魔法……高速移動の為に雷の魔法、こんな魔法は本来素人には使えないものよ」


「へぇ…………」


 ……なぜ魔法の話を出した、それじゃあ答えになってないぞ。


 リーナは質問に答えは出さなかった、それの意味は理解出来なかったが次の可能性を考え


 ……違う、この魔法に何かあるんじゃない……そもそも俺じゃないんだからな。


 セヴランの考えは乱れるが思考を繰り返し、新たな可能性が浮かんでは否定をして、次々と考察していく。


「質問が終わったなら、そろそろいいかしら?」


 リーナは刃をセヴランの喉に押し付けた。肉に刃が食い込み始め、時間は少なくなり


 ……なんだ……魔法……裏切り者…………裏切り者?


 幾つもの考察の中で一つの疑問を新たに見つけ


 ……この部屋に密偵がいるんだよな、ならどうやって連絡を取るつもりだったんだ…………


 セヴランの疑問、それは密偵の動きであった。普通ならば密偵が忍び込んで潜伏していたとしてもおかしくはないが、この場にいるのはおかしいのだ。基地を壊された段階で通常の警戒態勢でなくなるのは目に見えている。早馬も使えず、直接接触する機会を失えば密偵といえど仕事を果たせなくなる。

 セヴランの疑問は増し、密偵への謎が深まり、リーナがだした魔法という単語、そして何故か唐突に過去の記憶が蘇った




「セヴランよ」


「なんだよ、師匠」


 思い出されたのは修行を終え、軍に入隊する直前の師匠との記憶。セヴランは長い修行を乗り越え、師匠の元を離れられる喜びを噛み締めていた時のことだ。


「そろそろ軍に入るんじゃろ?」


「あぁ、ようやく師匠ともおさらばだな」


「あそこは面倒なところじゃぞ~まあそれはいいとして……たぶんじゃが、近いうちにお前さんが人に疑われて命の危機がくるじゃろ」


「は?何言ってるんだ?」


 セヴランは師匠の訳の分からない言葉に眉をひそめる。師匠は時折意味の分からない助言をし、そしてその助言は的中するのだ。まるで未来を知っているかのような奇妙なそれを、セヴランは初めは鼻で笑ったが、後に正しいと経験で理解した為、助言は聞くように心がけていた。


「その時は誰かを見つけなければならん、その時はお前のその魔法が役にたつ。覚えておくんじゃな」


「誰かって、誰だよ?」


「さぁ、それは儂も分からんな」


「なんだそれ」


 セヴランは師匠の戯言がまた当たるかと思うと、嫌気が差して肩を落とした。




 セヴランは師匠の言葉を思いだし


 ……師匠の戯言は毎回当たったからな……師匠の言った状況と酷似した状況だな。まさかこんな事を言い当てたのか……


 セヴランは師匠の恐ろしい予言に恐怖にも近い感覚を得つつも、この場では感謝し


 ……リーナも師匠も揃って魔法か……もう外れても仕方ないし、やるしかないか……


 セヴランはため息を吐き、リーナと視線を合わせると


「リーナ、この剣を退けてくれ」


「やっと分かったの?遅かったわね」


 セヴランの言葉でリーナが剣を下げ、その行為に様子を眺めていた将官達は困惑からざわめき始める。しかし、セヴランもリーナも将官達の言葉には答えることはない。

 セヴランは剣を抜くと床に突き立て


「まあ、この部屋ぐらいの範囲なら魔力は大丈夫だよな……?凍れ、銀世界」


 剣先を中心に、部屋の床が凍りつく。ちょっとした面積を凍らせるだけ故に、無詠唱で床を凍らせた。将官達はセヴランの突然の奇行に遂に怒りが爆発したのか怒声を上げるものが続出するが


「雷の魔法を使えばいいんだよな?」


 疑問は残るが、師匠の過去の実績から助言を信じ通常の雷の魔法を放つ。セヴランの剣から凍りついた床に目には移らない電流が走った。部屋で武装をしているのはセヴランを含めてもリーナ達程度で、その殆どは普通の革の長靴を履いている。弱い電流の為、革靴なら何も感じることはない――――――――――そのはずが


「――――ッぐ!」


 部屋の一人が急に声を上げた。まるで痛みをこらえるかのような声はその男の周囲の将官達から順に視線を集めていった。


「その男よ!キルッ!」


 男が反応するとリーナはキルの名を叫んだ。同時、男は地面に叩きつけられた。


「く、くそっ!」


「ようやく釣れたわね」


 リーナは男の元へと進んでいくた将官達は道を開け、男への一直線の道が出来上がる。リーナは将官の壁を間を進み、キルに頭を地面に押さえつけられている男の元にたどり着くと、その胸元に手を入れ探り


「あった、やっぱり完成してたのね」


 リーナが男の胸元から取り出したのは、銀色の輝きを持つ金属であった。薄い円の形をした謎のそれはセヴランの知識には無い物であり、将官達も初めて見るものに好奇心の眼差しを向けるがやはり何なのかは分からない。

 リーナは部屋の奥である元の位置へ戻ると、銀のそれをもった手を将官達へ向け突き出し


「これは、レギブスの開発した魔導具と呼ばれるものよ。」


 部屋の中には疑問が幾つも残ったままである。将官達もセヴランも困惑を隠すことは出来ない。だが、リーナは怪しげな笑みを浮かべ、その顔はとても可憐であり恐怖を与えるものだった。


 何が起きているかはリーナやバーンズ、エメリィにキルの四人しかこの場では知らなかった。しかし、セヴランの命の危機は確かに回避され、そして遂に、フィオリス国の長年の計画が動き出そうとしていた…………。

どうも、作者の蒼月です。


言いたいことはただひとつ…………

投稿したた思ったのに投稿出来てなかった!

なんで投稿ボタン最後まで押したのに反映されてないんですかねぇ(半ギレ)

次はちゃんと確認したいです、はい……


では、次も読んでいただけると幸いです。

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