第五百一話~間者~
誰一人として存在に気付けず、セヴランは動かない体で身を起こし警戒を向ける。こいつは危険だ、それをよく理解している。だからこそ、この警戒が無意味なものであるとも理解している。
……くそッ、なんでこいつがここに……この様子だと、バーンズも流石に絡んでない案件か。
視線だけを動かして確認したが、バーンズにもセヴランと同じ動揺があった。これは確かなもので、それ故に少しばかり安心する。バーンズのことを信用しきれないこの現状、バーンズがユグナーツ側についていたとすればセヴランにはどうにも出来なくなっていたのだから。
「あの~そんなに固くなられても困るんだけどな~僕は別に戦いに来た訳じゃないんだよ?」
「それで気配消して、ご丁寧に今まで潜んでたってか」
「いや、何か来てみたら険悪な雰囲気だったからね。邪魔しちゃ悪いかなって」
「それで何の用だ?お前、パラメキア側についてるんだろう。ヴァンセルトの差し金か」
「別にどこかに属してるつもりはないけど、確かに今はパラメキアで過ごしてるよ。よく分かったね」
「このフィオリスにいないんだ、パラメキアかレギブスかの二択だろうが。それに、その性格じゃあレギブスは性に合わねぇだろうがよ」
「あはは~正解」
セヴラン達が前に一度会った時と変わらず、どこか掴めない雰囲気を放つユグナーツ。その内心を知る者は一人としておらず、表面的な心象でさえ不明瞭。そんな化け物を前に、バーンズは恐れを知らずに言葉を連ねる。
「本当に何の用だ。ヴァンセルトがこんな回りくどいやり方を好みはしない。それに、お前もソフィアと同じ原初の五人なんだろ、だったら人に命令されてホイホイ言うこと聞くわけねぇだろ」
「うんうん、どうでもいいから少し黙っててもらえないかな?今はそれよりセヴランの方が先なんだ」
ユグナーツの言葉は、初めて刺を見せた。バーンズがあまりにも高圧的過ぎたからか、しかしその表情は相も変わらずにこやかなままだ。そしてバーンズを無視して隣を通りすぎるとセヴランの前にしゃがみこみ、目線を合わせて笑いかけ
「すっごいね、よくそれで生きてたものだよ。でもそれじゃあもう戦えないね、これからどうするつもりだい?」
セヴランへと向けられた問答、その答えに正解があるのかは分からない。しかし、セヴランは自身の内にある気持ちを、偽ることなく素直に吐き出す。
「俺は、もっと強くなる必要があるんだ。師匠やソフィア、与えてもらった力だけじゃ足りない、全てを守れるように、もう、失わなくていいように……」
「その体でも、まだ戦うのかい?」
「まだ魔法が使える、口も首も動く。まだまだどうとでもなる」
「戦えば、また君は仲間を失うよ。それこそ、大切な人もね」
「ッ……だとしても、ここで民を見捨てれば俺は俺でなくなる……もう、俺は胸を張ってリーナの隣には立てなくなる……だから、俺は戦い続けるさ」
あくまで諦めはしない。この戦いで失ったものは多く、正直今のセヴランはそれを考えないようにしているに過ぎない。けれど、それでも戦う意思が潰えたということはなく、セヴランの目から光は消えてはいない。
それを見たユグナーツは何か納得したように頷き、セヴランに手をかざした。特別敵意のようなものはなく、ゆったりとした微睡みが流れ込み――
「ッ……」
気づくのが遅かった。それが何かしらの魔法であると気づいた時には、既にセヴランの意識は途切れようとしていた。その魔法はセヴランだけに向けられたものではなかったのだろう、周囲では部屋にいた他の四人の兵達も眠るようにその場に倒れていく。
「ユグ……ナーツ……」
しかしセヴランとて、その魔法に抗う術など知らない。耐え難い睡魔に似た感覚に襲われ、次第にその瞳は閉じられてゆく。そして視界が暗闇に閉ざされ、セヴランの意識は途切れた…………。
「いい流れだ。完全に覚醒したとは言えないけど、ある程度は力が使えるようになってきたね」
「その為の人柱か、とんだ糞野郎だな」
「酷い言われようだね」
「俺のことだよ」
セヴランを眠らせたユグナーツは、近くにあった椅子に腰掛け何処からか取り出したか分からない紅茶を飲み始める。あまりにも自由過ぎる光景だが、それを平然とバーンズは受け入れ、壁に背を持たれかけさせユグナーツと対面し
「それじゃあ、いい加減演技も疲れた。本題に入らせてくれ」
どうも、作者の蒼月です。
さてさて、何やらバーンズの様子が……一体これはどうしたというのでしょうか。セヴランは何か眠らされてますし、バーンズはユグナーツと仲良く(?)してますし、大概ブラッドローズもバラバラなんですよね。どこの組織も似たり寄ったりですが、これは本当にセヴランを苦しめる元凶ですね~
バーンズとユグナーツの関係やいかに
では、次も読んで頂けると幸いです。




