第三十三話~反攻の時~
セヴランは目の前の状況に決断を迫られていた。第一大隊は失った士気を取り戻して奮戦してはいるが、その圧倒的な数を前には長くは持たない。左翼と右翼でそれぞれ防戦に徹している第二、第四大隊も第一大隊ほどでないにしろ戦力を消耗していた。更には、現在リーナとカーリーの二人で足止めしている聖獣への対処も必要であった。
通常ならば既に撤退は諦めるしかない状況ではあったが、セヴランは冷静に、しかし冷徹な思考で大隊に指揮を飛ばす。
「第二大隊、第四大隊はそれぞれ後退を開始するように伝えてこい!」
「はッ!」
近くにいた二人の兵に伝令を伝えるように指示し、視線を眼前の敵に向け続けざまに指示を出す。
「第一大隊!重歩兵は敵右翼の足止めをしろ、第二大隊の撤退の時間稼ぎをしろッ!騎兵及び軽歩兵は私と共に左翼の敵を食らいつくす、第一大隊の底力を見せてやれッ!」
『うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
第一大隊はもはや普通の兵ではなくなっていた。一見すれば死ねと命令されているのにも関わらず、第一大隊の者は誰も命令に反発などしない。誰もが一度は絶望にうちひがれ、死ぬ運命を受け入れていたからだ。しかしその諦めは希望に転じ、第一大隊は文字通りこの場で死力を尽くすつもりでいた。
セヴランは第一大隊の姿に口元を弧に描き、軽く笑うと姿勢を屈め
「俺は、聖獣をなんとかしないとな……」
誰にも伝わらない声で呟き、次の瞬間セヴランの姿はその場から消えた。
「くそッ!しぶといわね、こいつ!」
リーナとバーンズは二人がかりで聖獣の攻撃をすべていなしていた。二人の実力であれば戦うようは他にもあったが、大隊が撤退するまでの時間稼ぎの為に防戦に徹していた。
リーナは悪態をつきながらも、聖獣の攻撃を一度も受けることなく生身で攻撃をかわし続けていた。バーンズも同様に、剣で攻撃を受け止めながら、隙をみては一撃を加え聖獣を確実に消耗させていた。しかし、聖獣の生命力は異常なまでに強力であり、一向にその終わりを感じさせない。二人の攻撃をもらっても疲弊しない聖獣の攻防は続き、リーナの攻撃で生じた隙に爪が迫まらせる。
「しま――――ッ!!」
リーナの胴に爪が当たる寸前、回避が間に合わないとリーナは目をつぶるが
「――――――えっ??」
聖獣の攻撃はリーナに届かず、リーナの前にはセヴランが現れていた。
「遅れて悪かったな、大丈夫か?」
まるで狙ったかのようなタイミングの登場にリーナは呆れからため息をつき
「遅いわよ、ようやく覚悟を決めれたのね」
リーナはセヴランの隣に並ぶと視線を横に向け
「それで、わざわざ聖獣の相手しに来た訳じゃないんでしょ?」
リーナの言葉通りセヴランは聖獣と戦うつもりはなかった。現状において優先すべきは大隊の撤退であり、聖獣を倒す必要はなかったからだ。
セヴランは冷静にバーンズと戦う聖獣を観察し
「あれの足止めをどちらかに頼みたい、大隊の撤退の完了まででいい」
セヴランの要求は無茶なものであった。現状二人で足止めをしている聖獣を一人で相手にしろといういうのだから死ねと言われるようなものである。しかし、リーナはその言葉に驚きも見せず
「あれはバーンズの方が適正ね、それで私はどうするの?」
リーナのセヴランの作戦を認めるという発言は到底常人のものではなかったが、この場にそれを驚く者もおらず会話はつづく。
「リーナは重歩兵隊と共に右翼の敵を足止め、可能なら殲滅してくれ」
「流石に殲滅は厳しいでしょうけど……分かったわ」
リーナは納得したと頷くと戦闘中のバーンズに怒号を放つ
「バーンズ!」
「なんだいッ!お嬢!」
バーンズは聖獣の重い一撃を受け止めながらリーナに返答する。
「あなたはそいつの足止めをしてて頂戴、今から私とセヴランで両翼の敵を潰してくるわ」
バーンズは聖獣の攻撃を押し返しながらも、リーナの言葉にありえないといった表情を見せ
「おいおい!こいつを一人でって嘘だろ!?」
「あなたなら出来るわ、信じてるわよ」
バーンズはリーナの言葉に聖獣の攻撃をかわしつつため息を吐き
「はいはい、早く頼みますぜ!」
バーンズの理解の言葉を聞いたリーナとセヴランは互いに頷き、それぞれ別れ互いの戦場に向かった。
戦場では第一大隊が分散し、各大隊は撤退を開始し始めていた。左翼では第四大隊の撤退に時間がかかり、その被害を増やしていた。
「何がなんでも第四大隊を撤退させるんだ!騎兵隊、突撃ッ!」
『了解ッ!』
騎兵は第四大隊の追撃をするレギブス軍の横腹に突撃をする。突如現れた第一大隊にレギブス軍は混乱し、対応が遅れた者から討ち取られてゆく。
「て、敵の襲撃!?」
「こいつらどこから現れたんだよ!」
「いいから早く迎撃を!」
騎兵は突撃し、一撃を加えるとそのまま駆け抜けた。入れ替わるように軽歩兵の部隊が第四大隊とレギブス軍に割って入りレギブス軍の攻勢は足を止める。
レギブスの兵は追撃を諦めざるおえず、割って入ってきた第一大隊の殲滅戦に移行した。
「くそぉぉぉ!!!」
「へあぁぁぁ!!!」
第一大隊は一人一人が一騎当千かのような奮戦をレギブスの兵を幾つも葬るが数の前には抗えず、一人また一人と数を減らされてゆく。
「あ……あぁ……」
第一大隊の軽歩兵の一人、比較的若い兵が凍る大地に腰を落とす。彼は一人で既に五人もの兵を討ち取り、古参兵から見ても充分な働きをしていた。しかし、共に戦っていた兵が全滅し一人で七人を同時に相手をすることになり、初めはなんとか耐えるものの遂に限界を迎えた。
……これで終わり……ごめん母さん、先に行ってるよ…………
兵士は目を閉じ、残した家族に想いを馳せながら自らの死を待つ。レギブスの兵が剣を振り上げ――――――――――レギブスの兵の腕が断ち斬られた。
「何を勝手に死のうとしている、言ったはずだ我々は民を守ると。そのためにもお前達にはこんなところで諦めることは許されない」
兵士は見た、とても冷たい目をしたセヴランの姿を。しかし、守る覚悟を決めた熱い戦士の姿を。
どうも、作者の蒼月です。
また話が短くなってしまいましたね、すみませんm(__)m
次はセヴランの活躍ですね
では、次も読んでいただけると幸いです。




