第三十一話~定められし運命に凍る心~
失ったはずの家族との再会、守ることの出来なかったはずのリーナが目の前にいるという現実にセヴランは理解が追い付かなかった。戦場の中心であるというのに異様な静かな空間とかした場でセヴランは再会した家族にかける言葉を見つけることが出来ずにいた。
セヴランの立ち尽くす姿にリーナは呆れといった表情を見せ
「随分と腑抜けたのね、昔より弱くなったんじゃないの?」
リーナの唐突な罵倒、しかしそれを今のセヴランは否定することが出来ない。力を手に入れ、自惚れ、絶望に屈し死を受け入れようとしていた自分を的確に表現していると理解していた。
「……そうだな……逆に君は強くなったんだな……俺なんかより、ずっと…………」
「えぇ、今のあなたと違ってね」
二人の周囲では、攻撃を再会したレギブスの兵の蹂躙が始まり出していた。フィオリスの兵も応戦し、刃の交じる金属音と怒号が飛び交い戦場は再び地獄とかす。そんな静寂を失ったはずの戦場の中、二人の空間だけは静寂に包まれていた。
そんな二人だけとなった空間にバーンズの声が切り込む
「お嬢!何してるんだ、早くしてくれッ!」
たった一人で聖獣の攻撃をすべて凌ぎきり、対等に渡り合っている以上な強さを見せるバーンズが、焦りの表情とともにリーナに催促をする。
「あなたは時間を稼いでいればいい!黙ってなさいッ!」
「んな無茶な――――ッ!!」
仲間であるバーンズに殺意さえも感じる瞳をリーナは向ける。バーンズはリーナとの会話に気をとられ、聖獣の攻撃への回避が遅れ防御にまわる。聖獣の攻撃を受け止めるという異常な離れ業をバーンズは見せ、聖獣との攻防は終わりを見せない。
リーナは周囲の劣勢を見ると舌打ちし、セヴランの胸ぐらを引き寄せ
「いいッ!あなたのその力は飾りなのッ?こうしてる間にも無駄に人は死んでいくの、あなたに構ってる時間なんてないのッ!」
セヴランはリーナの怒りの言葉と表情に一瞬驚きを見せるが、言葉を放つことは出来なかった。
……俺は仲間を守れなかった……これ以上戦う意味なんか…………
既に戦意を喪失し、生きる望みさえも失いかけているセヴラン、光を失った瞳を抱え絶望する姿にリーナの怒りは頂点に達し
「いつまで子供のままでいるの!あなたのその力は私をを守れなかったから手に入れたものなんじゃないのッ!」
端から聞いていれば自分のことを言っているリーナの姿は自意識過剰に思えただろうか、しかし、その言葉にセヴランは一つの記憶を思い出す
……リーナを守れなかった……そうだ、俺が力を手に入れたのは……
セヴランの絶望に染まりかけた心に光が差し込む
「あなたが昔の子供のままならそうやって指をくわえて何もしなければいいわ、私が必ず守って上げる。」
リーナの一言はまるで母のような包み込まれるような優しい言葉であった。しかし、その優しさはセヴランは求めておらず、リーナも与える気などなかった
「けど……あなたは力を持っている!力ある者が己の指名を放棄して逃げるなんて私は認めないッ!」
胸ぐらを掴むリーナの拳に力が込められる。視線を落とし、怒りがこもりながらどこか悲しさを感じる声で
「私はもう、誰かに助けを求めて自分が戦えないなんていやよ!私は戦う、力がない人が力に怯えて暮らすこの世界を終わらす為にッ!そう……決めたの……」
セヴランはリーナの言葉に過去の自分を思い出していた。
……そうだ、俺はリーナを守れなかった……だから守るって決めたんだ、リーナや昔の俺みたいな力がない人を守りたいって……
リーナは掴んでいたセヴランの胸ぐらから手を離し踵を返すと、セヴランと同じ、対となる二本の剣を引き抜き視線を向けることなく背で語る
「あなたはもう……力を持ってしまった、望んだにしろ望まなかったにしろ、ならあなたは戦う運命にあるの……だから、戦いなさい!その命ある限りッ!」
リーナはセヴランのもとを去り、バーンズへ加勢しに聖獣のもとに走ってゆく。リーナの後ろ姿を眺め、セヴランは変わり始めていた
……この力は絶対じゃない、そうでしたね師匠……
過去の師匠の言葉を思いだし、五年という期間を得てようやく言葉の意味を理解する。
……俺は自惚れていたんだ、皆を守れると……けど違う、俺が守りたかったのは……
セヴランの中にカーリーの言葉が蘇る
――お前が守りたいものが何なのか、それを見失うな――
カーリーの言葉にセヴランは一人、亡きカーリーに語りかける
「カーリー大将、あなたの言葉をあの時は理解出来なかった……しかし、今になってようやく分かりました。あの時の忠告を忘れて私は大切な仲間を死なせてしまった……大将の言葉を理解出来ていたら少しは結果を変えれたのでしょうか……」
セヴランは後悔をした、しかしもう立ち止まることはしない
……私が守りたかったのは力なき民、今度はもう見失わない
セヴランは心を固めてゆく、そして心が冷徹なまでに冷たく氷ってゆく
……リーナ、ありがとう……俺も決めたよ…………
セヴランは両の剣を掲げた、その凍てついた心とともに…………
セヴランは模擬戦で使用した魔法の詠唱を始める。模擬戦の時とは比較にならないほど巨大な魔方陣を展開し、目の前で死にゆく仲間を瞳に映しながら術式を完成させる。
セヴランは剣を血に濡れた大地に突き立て
「凍れ……銀世界…………」
言葉とともに戦場の大地が凍る、それも戦場のすべてを飲み込むほど巨大な範囲を凍らせた。
突如として凍る大地にレギブスの兵が混乱し、僅かに後退する者も現れた。フィオリスの兵も同様に混乱をしていたが、カーリーからセヴランの話を聞いていた第一大隊とセヴランと共に戦ってきた特別遊撃隊は何がおきたのかを理解しており、レギブスの混乱に乗じて再び息を吹き替えしつつあった。
聖獣と戦っていたバーンズとリーナは聖獣と距離をとると、視線を大地を凍らせたセヴランに向ける。
「お嬢、あれが言ってたセヴランとやらの力か」
「えぇ、この目で見るのは私も始めてだけれど」
二人の視線の先、そこには覚悟を決め聖獣と同じ程の威圧感を出す一人の兵士、セヴランの姿があった。
……覚悟を決めたのね、セヴラン……ここからはもう、引き返すことは出来ないわよ……
セヴランは覚悟を決めた、戦い抜く覚悟を、力なき民を守ると、どれだけの罪を背負おうと貫く正義を。
このセヴランの変化が、今後世界を変えてゆくこととなる。世界は少しずつ変化を始めたのだった…………
どうも、作者の蒼月です。
セヴランの覚悟を決める回でした。これがこの世界においてかなり重要なポイントとなります。
ようやく物語が動き出したので山場を頑張っていきます。
なお、サブタイは基本そこまで意味を持ちませんが、この回のサブタイは結構重要だったりします
では、次も読んでいただけると幸いです。




