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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第三章~始まりの国境~
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第三十話~失いし灯火、再会の力~

「化け物だな……こいつは……」


 カーリーはマクール、チェルダーと共にマリーンの聖獣と向き合っていた。聖獣は己の二倍はあろうかという巨大な獣であり、先程の様子からも聖獣のもつ破壊力は人間の持てるものではないことは分かりきっていた。


 ……これに勝てるわけはない……しかし!


 カーリーは剣を聖獣に向け構えると


「我々は民を守りし騎士だ!ここは通さんッ!」


 言葉とともにカーリー達は聖獣に突撃した。


 三人は同時に真正面から突撃する。聖獣はその営利な爪をもつ拳を振り上げ、三人を引き裂かんと降り下ろす。


 ……ぐっ、速い!


 聖獣の反撃を予想していたのにも関わらず、その予想以上の速さに爪が鎧を掠める。回避出来たと頭で考えるより先にカーリーは剣を動かす、降り下ろした腕を目掛け下から斬り上げる。しかし、その攻撃は聖獣に届かず再びカーリーを殴り付ける形で聖獣が腕を動かし剣とともにカーリーは吹き飛ばされる。


 ……恐ろしい速いだが、想定範囲内だ!


 吹き飛ばされたカーリーの視界には聖獣の背後に二つの影が迫っているのを捉えていた。

 カーリーと共に攻撃を回避したマクールとチェルダーはカーリーへの攻撃の隙に背後に回り込むことに成功していた。


「これでッ!」

「終わりだッ!」


 無防備になった聖獣の背に二人は全力で剣を降り下ろす。

 攻撃が決まったと二人が確信した瞬間………………二人もまたカーリーと同じく吹き飛ばされた


「なっ、なんだ……今のは…………」


 カーリーは体を起こしながや聖獣の様子に目を向ける。


 ……なんの動きも無かったはずだ


 カーリーの疑問は誰が見ようと思う疑問であった。聖獣はなんの動作もなく二人を吹き飛ばしたのだ。何がおきたのかを三人が理解出来ずにいると、マリーンは笑いだし


「あなた達みたいな雑魚に、私の聖獣を傷つけれると思って」


 マリーンの挑発に三人は歯ぎしりをたてる。しかし、現実問題攻撃を当てれないことに変わりはなく、時間稼ぎを出きるかさえ怪しくなってきていた。


 カーリーは体を起こし、二人と共に再び攻撃を続ける。しかし、そのどれもが聖獣に届くことなく弾かれてゆく。頭を抑えられぬように移動を続け、三方向からの絶え間ない攻撃を放ってゆく。

 時間を稼ぐことは出来てはいたが、三対一という数的有利は聖獣に意味を成していなかった。徐々にカーリー達は押され始め、その連携が崩れ始めてゆく。

 連続攻撃の途中、聖獣の反撃への回避が間に合わずマクールの腕に聖獣の爪がたてられる。


「ぐッ!」

「マクールッ!」


 マクールの左腕が意図も簡単に吹き飛ぶ。激痛がマクールを襲うが誰も足を止めることなく攻撃をつづける。しかし、マクールの動きが速度に遅れ始め聖獣はマクールに攻撃を集中させる。


「やらせるかぁぁぁぁッ!」


 マクールに聖獣の攻撃が当たる瞬間、チェルダーがマクールを体当たりで吹き飛ばした。体当たりと同時、チェルダーは聖獣の迫る爪を剣で受け止める。


「ぐッ!!!!」


 受け止めた力は圧倒的なものであり、聖獣はチェルダーは剣のごと体を引き裂いた。


「チェルダーッ!」


「た……大将……にげ…………」


 聖獣の二度目の追撃により、チェルダーは言葉を言いきることが出来ずに、体を二つに引き裂かれた。


「うおおぉぉぉぉ!!」


「マクールッ!」


 マクールは左腕から血を溢れさしながらもチェルダーの影から聖獣に突撃する。チェルダーへの追撃で隙の生まれた聖獣の腕にマクールの剣が降り下ろされる。

 降り下ろされた剣により、聖獣の腕の表面が斬り裂かれる。聖獣は己を傷つけられたことに激怒し、戦場すべてに響くほどの砲口を上げる。同時、マクールは砲口により吹き飛ばされた。


「このッ!」


 吹き飛ばされた体を起こし、マクールは聖獣に視線を向け直す。


「ッ!!」


 マクールが視線を向けると一瞬で眼前まで聖獣に迫られていた。聖獣はマクールの体を片手でわしづかみにし、マクールの体は軋む音をあげる。


「大将……後は…………」


 マクールの体は鎧ごと握りつぶされた。鎧が砕けると内部からは臓物が飛び散り、周囲は血の池とかした。


 目の前の暴力を体現したかのような存在は正に絶望の象徴であった。ここで逃げてもいいのではと邪な考えがカーリーの中に浮かぶが、しかしカーリーはそれを良しとしない。絶望に押し潰されそうになる心を最後の気力で奮い立たせ、剣を強く握りしめる。


 ……ナイル、お前のことを馬鹿と言ったが俺も大概な馬鹿だったようだな


 カーリーは今は亡き同世代でロイヤルガードの前に散った仲間に想いを馳せる。


 ……マクール、チェルダー、お前達には最後まで無理をさせたな


 力をこめた剣先を聖獣に向け、最後の力で決死の突撃する。


 ……セヴラン、大隊を頼んだぞ


 刃は届くことなく、カーリーの体が聖獣の鋭利な爪で貫かれた。




 セヴランは見た、カーリーの体が貫かれたことを。そして、このままでは事実上のフィオリスの敗北が決定することを。


「大将!」

「大将がやられた……」

「うそ……だろ…………」


 カーリーを討ち取られたことが第一大隊の心を折った。心の支えを失った大隊は勢いを完全に殺され、包囲の輪を縮められながら各個撃破をされ始めた。


「くそっ!軽歩兵は下がれ! 重歩兵で守りつつ後退しろ!」


 大隊の指揮を任されたセヴランは必死に後退の指揮をとっていたが、カーリーを討ち取られた大隊の士気は極限まで落ち、誰もセヴランの指示に従う者はいなかった。

 セヴランは頭の中で高速で思考を巡らせ


 ……どうする、どうすれば第一大隊を後退させれるんだ、考えろ、考えろ!このままじゃ全滅は免れない、誰かを犠牲にして退避するしかないのか……けれど……


「セヴランッ!」


 思考することにとらわれ、周囲の様子に気づけなかったセヴランはバウルの声で現実に引き戻される。セヴランは目の前まで迫ってきた敵の攻撃を紙一重でかわすと同時、敵は割り込んできたバウルに討ち取られた。

 バウルは敵を完全に殺したことを確認すると


「馬鹿野郎!気を抜くんじゃねぇよ! 各小隊、セヴランをなんとしてでも守り抜け!」


 バウルの指示により、後退したはずの特別遊撃隊の面々がセヴランを守るように周囲を取り囲む。指示になかった各小隊の行動にセヴランは怒号を放ち


「な、なんで戻ってきた!お前達は後退しろと伝えただろうが!」


 セヴランの言葉にバウルは更に怒号を返し


「お前がいなくなったら誰が大隊の指揮をとるんだ!お前は早く大隊をなんとかしろ!」


 バウルは大剣を振りかざし、小隊を引き連れ周囲の敵をなぎ倒してゆく。しかし、敵の圧倒的な数には遊撃隊の投入は焼け石に水であり、遊撃隊は簡単に命を散らしてゆく。


「くそがッ!」


 小隊の陣頭に立ちバウルも奮戦するが、遂にカーリーと戦っていた聖獣が目の前まで迫ってきていた。カーリー達を討ち取ったその力をもってして、第一大隊の精鋭を簡単に肉塊に変えてゆく。

 指揮も通らず、部隊をどうにもすることが出来なくなったセヴランは、遂に剣を握る拳の力を抜いた。


 ……どうしたらよかったんだ、何が間違ってたんだ……


 周囲には死と恐怖、悲鳴が怨嗟し正に地獄といった状況になっていた。そんな地獄の中でセヴランは、その地獄をつくった原因と目が合う


 ……俺は、また何も守れずに死ぬのか……力を手に入れても、結局誰も守ることなんて出来なかったんだ…………


 セヴランの前に迫った聖獣は、幾つもの命を奪ったその爪を振り上げた。セヴランもここで死ぬと理解し、その目を閉じた。


 振り上げられた爪がセヴランの体を目掛けて降り下ろされ、死ぬと覚悟をした時




 聖獣の爪が腕ごと弾き返された





 ……な、何が……


 セヴランが目を開くと、そこには銀の髪をなびかせる一人の少女がいた。

 自分よりも小さな体で聖獣の攻撃を弾いた謎の少女、戦場にいたすべての兵が動きを止め、視線を聖獣と少女のもとに向けていた。今まで両軍に存在しなかった人物に皆が困惑をする。聖獣も動きを止め、少女に警戒を向ける。

 謎の少女の存在が現れたことにより、戦場に静寂が生まれる。しかし、その静寂に突如新たな声が生まれる


「おらぁぁぁぁ!!!!」


 新たに生まれた声が静寂に響き、聖獣は突如後方に跳躍する。聖獣の回避と同時、聖獣のいた場所に一つの影が上空から飛来し大地が敵側に扇状に粉砕された。

 周辺にいたレギブスの兵はなにがおきたのかを理解出来ぬまま、大地の割れた衝撃によって吹き飛ばされた。割れた大地の中心の影は両手に持った剣を掲げ


「フィオリスを攻めるなら、まずは俺様を倒してからにするんだな!」


 男の言葉にレギブスの兵の一人が怯えたように声を上げ


「ま、まさか、フィオリス将軍のバーンズ・カーマイン!」


 フィオリス最強の将軍、バーンズが戦場に来たということにフィオリスの兵は僅かに戦意を取り戻し、レギブスの兵はたった一人を前にその攻勢を止めた。

 将軍バーンズの出現、そして同時に現れた聖獣の攻撃を弾いた少女が何者なのかをその場の誰もが疑問した。


 少女は髪を揺らしながら振り向き、戦意を失ったセヴランに声をかける


「久しぶりね、セヴラン……」


 セヴランは目の前の少女のことを知らないはずである、しかしセヴランは今はいない一人の家族の姿を思いだし


「……リーナ…………なのか?」


 聞かなくても分かっていた、その銀の髪は過去のリーナと変わらないものであり、透き通る赤い瞳はリーナの特徴であった。成長した姿ではあったが、それがリーナだとセヴランは確信出来た。

 少女はごみを見るような、光のない目でセヴランを見つめ


「えぇ、五年ぶりかしらね……セヴラン」


 リーナを失った後悔から力を手に入れたセヴラン。セヴランと同じく、無力な絶望を味わい力を手に入れ成長したリーナ。

 二人は五年の空白を得て、戦場で再会した…………

どうも、作者の蒼月です。

ようやく本作の主人公セヴランとヒロインのリーナが再会しました。ここまで長かった……こっからもっと長い……

第一幕の山場ももう少しなので頑張っていきたいです

では、次も読んでいただけると幸いです。

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