第二十九話~第一大隊長の覚悟~
戦闘を開始して既に昼過ぎ、高い練度と士気で圧倒的な数の兵を相手に善戦していたフィオリス軍は徐々にその勢いを失いつつあった。中でもフィオリス軍の最前線を担っていたカーリー率いる第一大隊は最も被害が大きく、当初五千を誇った兵数はその二割を失っていた。
「どれだけ生き残っている!」
カーリーの怒号が第一大隊に響き渡る。周囲の状況を確認した第一大隊の副官であるチェルダーが冷静に
「およそ八割、二割ほど削られました」
カーリーは内心驚くこともなく、目の前の敵を斬り捨てると次の敵に刃を向け
……これだけの被害でよく持ちこたえたほうか、敵は我々を侮っていたようだがお陰で助けられたな
カーリーの考えは的中しており、レギブスは圧倒的な数的有利を生かし速攻で基地を攻略する予定でいた。しかし、上級の将官達の利権をめぐった内部闘争により式系統は統一されず、戦闘の現場では連携を取れずにただの数だけが多い有象無象の集団とかしていた。結果的にカーリー達は数を減らしつつも、本来ならば殲滅されるところをギリギリで耐えることが出来ていた。
「カーリー大将!」
カーリーは後方からする、その場にいないはずの声に視線を向ける。
「セヴラン!なぜここに来た!」
セヴランは一度敬礼をすると
「はッ!我々も被害が出てき始めたため大隊との合流をしました。このままではどちらにしろ全滅していたので」
「……分かった、ならば私と共に最前線で敵を食い止めろ。負傷兵は基地内に退避させておけ!」
セヴランはカーリーの言葉でシンに視線で合図を送る。シンも何をするかを理解しているため負傷兵の退避の指揮を取り始める。セヴランはカーリーと共に正面の敵に向かい合い、カーリーは疲弊した大隊に号令をかける
「私とセヴランで敵の中心に切り込む、全軍突撃ッ!」
『うおおぉぉ!!』
第一大隊の者は疲弊しつつも、先陣をきる大将の姿に感化され力を振り絞る。カーリーとセヴランもまた、後ろにいる仲間達の姿に感化され互いに力を高め合いながら敵に突撃していった。
「マリーン様、報告が上がってきました」
レギブス軍、指揮場テント近くで優雅に紅茶を飲むマリーンに一人の兵士が近づく。
「何かしら、私の時間を邪魔するんだから余程のことなんでしょうね」
マリーンに今にも殺すぞと言わんばかりの殺気を向けられ兵士は息を飲み報告を続ける
「それが、先程まで息を弱めつつあった敵先頭集団が息を吹き返し、我が方の部隊を殲滅しているとの報告が」
兵士の言葉が終わると同時、マリーンの使用していた机が巨大な破砕音とともに突如粉砕した。兵士は突然の出来事に腰を抜かしてしまう。
マリーンは兵士に笑顔を向けると
「今いる部隊を三つに展開しなさい、左右は長く広く展開して敵を圧迫するの。敵を釘付けにするだけでいいわ。中央の部隊は敵の前進に合わせて後退するように、あなたはこれを伝えてきなさい」
兵士は言葉が喉から出て来ず、首を振り理解したことを伝えるとその場から逃げるように走りだす。
兵士は走りながら一度だけマリーンの方向に振り返る、そして目があってしまう、マリーンの後ろに突如現れた青白い炎でつくられた獣――聖獣に。
「あ……あれが、七極聖天の聖獣…………」
兵士は震える拳を握りしめながら、殺されなかったことに安堵しつつ逃げるようにその場を駆けていった。
「うおぉぉぉぉッ!!」
「はあぁぁぁぁッ!!」
カーリーは相対する敵二人の攻撃を弾きながら、隙の生まれた敵の首を連続で斬りつける。セヴランもまた相対する敵二人の攻撃をかわしつつ、両の剣で敵の背を斬り裂く。
二人はレギブス軍先鋒の部隊中心部まで切り込み、敵部隊の進撃の足止めをしていた。二人の周囲にはレギブスの兵の死体がいくつも並び、レギブスの兵は目の前の普通ならばあり得ない光景に畏怖し動きをとれないでいた。
「なっ、何をしているんだ!敵はたったの二人だぞっ!早く殺してしまえ!」
「で、ですが、あれは普通の兵とは違います!我々だけではどうにも!」
「そうです!誰があんなのに勝てるって言うんですか!」
レギブスの一将官が周囲の兵に命令を下すが、既に恐怖に怯え兵達はまともに命令を聞ける状態ではなくなっていた。
セヴランは敵兵の動きが乱れ、統率がとれていないことを確認すると
「大将、もうこのあたりでは。後続も限界です」
セヴランの言葉でカーリーは視線だけを後方に向ける。視線の先には体力、気力ともに限界を迎え、かろうじて立ちながら敵と相対する姿があった。レギブスの兵に技量の高いカーリーとセヴランを先頭にたてることで、見方の戦意高揚と敵の士気低下を促す作戦は上手く働いていた。しかし、見方の被害は抑えることが出来ず、兵達の鎧は傷つき、体からは血を流し、戦闘を続けることの出来る力はほぼ残されていなかった。ここまで戦い続けれたのは、カーリーの実力を信用し、長い時間の中で培われてきた第一大隊の絆の賜物であった。
カーリーは幾らか悩みつつも、戦闘をこれ以上続けることは困難と判断し
「第一大隊!このまま徐々に後た――――」
カーリーの撤退を促す言葉は最後まで言いきらずに止まった。そして、カーリーにセヴラン、その場にいたすべての兵が見た。レギブスの兵が爆音、爆風とともに吹き飛ばされるのを。
土煙が上がり極端に悪くなった視界の中、カーリーは目を凝らし爆風の中心に視線を向ける。爆風の中心点、そこには冷徹な笑みを浮かべる一人の女と青白い炎の体の獣が現れていた。カーリーは女を見ると同時に恐怖の感情が込み上げてきた。一度唾を飲み、込み上げる感情を抑え
「まさか、七極聖天のマリーンかッ!」
マリーンと呼ばれた女はカーリーに不適な笑みを浮かべ
「えぇそうよ、私は七極聖天の一人マリーン。見たところ貴方は……確かカーリーだったかしら、でも今から死ぬのだから関係なかったかしら」
カーリーは理解していた。マリーンが言った言葉は現実のものとなり、自分がここで死ぬであろうということを。死ぬ恐怖もある、生への執着もある、しかしカーリーは込み上げる感情を理性で押さえ込める
……ここで大隊を失えば確実にフィオリスは落ちる、そうなれば付近の村だけでなく国の民すべてが蹂躙される。ならばここで大隊を失うわけにはいかない!
現状での最善策をカーリーは分かっていた、故にカーリーはそれを命じる
「セヴラン!以後大隊の指揮はお前にすべて任せるッ!各大隊を基地まで退避させろ!」
セヴランはカーリーの言葉に……何も言えなかった。ここでカーリーも引けば大隊は蹂躙される、しかしここで戦闘を続けてもいずれ全滅することは理解出来ていたため。故にセヴランは頷くことしか出来なかった。カーリーも頷き返し
「マクール!チェルダー!お前達は私と共にこいつを足止めするぞ!」
『了解ッ!』
セヴランは残る三人の背から視線をそらせずに後退を始めた。
カーリーはセヴランが指揮を引き継いだことに感謝しつつ
「マクール、チェルダー、いつもお前達にはしんどい役目ばかり与えてすまんな」
今までのすべの謝罪と言わんばかりに謝るカーリーに、二人は笑い返し
「隊長の無茶なんていつものことで慣れましたよ」
「我々は民を守ると誓った貴方についていくと決めたんです。ですから、いつものようにこき使ってくださいよ」
いつも通りの二人に調子を狂わされ、カーリーも苦笑しつつ
「そうだな、それじゃ最後の大仕事を始めるとするか!」
三人の前に相対するは聖獣、死を体現したかのような圧倒的な力と威圧感を与える異形の力。
レギブス最強の一角とされる七極聖天との死闘が、今、その幕を開けたのであった…………
どうも、作者の蒼月です。
今回から戦闘メインです、あんま言うとネタバレなので今回はこのあたりで
次も読んでいただけると幸いです。




