第二十六話 フィオリス国境防衛戦~戦場を駆けし猛将~
闇に包まれていたサファクイル基地は薄明を迎え、その広大な防壁を照らし出される。基地や周辺は無に呑まれたかのように静けさが広がり物音一つしない。
そんな静けさに微かに音が生まれ、防壁上の一人の兵士が静寂に終わりを告げる
「レギブス軍接近!来るぞッ!」
兵士の声とともに、防壁中心に存在する巨大な城門の前に控えた兵の大軍が剣を抜き、不気味なほど静かな朝に剣と鞘の擦れる金属音が連鎖する。大軍は列を組み、門が開かれるのを今か今かと待ちわびていた。
列の中心、開かれた道を一人の男が城門に向け進む。その後ろを馬に跨がった騎兵達が続き正に一軍を背負った者の象徴ともいえるきらびやかな行軍である。騎兵の戦闘を歩く将、カーリーは城門前にたどり着くと振り返り
「諸君!今度の戦いは極めて苦しいものになるだろう、多くの者が死に、最悪はレギブスに負け全滅する可能性もありうる。しかしここで逃げては軍人の名折れだ!レギブスに打ち勝ち、この時の為に鍛え上げた諸君の力を発揮する時が来た!今こそ、我々の力をしめす時だッ!」
『うおおぉぉぉぉぉぉ!!』
カーリーの言葉に同調し、兵達は剣を空に掲げ基地に勝利を求める雄叫びが広がる。
「開門ッ!」
カーリーの号令で固く閉ざされていた城門が遂に開かれる。重く、壁ともいえる扉がすべて上げられた時、カーリーは剣を掲げ
「全軍…………突撃ッ!」
『うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
剣が降り下ろされると同時、カーリーが先頭を走り始め、城門前に控えていた兵達が一斉に飛び出して行く。不利な状況に自ら攻めいる兵達の姿は闘志満々とし、遂にフィオリスとレギブスの死闘が幕を開けた。
レギブス軍の先頭を進む集団の一人が目の前の状況に困惑する
「な、なんであいつら突っ込んで来るんだよ」
「お、おい、ありゃ敵の大将じゃねえか!冗談じゃねぇぞ」
「死にたくねぇよ、なんで!なんで!」
進む集団の中、馬に跨がった指揮官は周囲の兵の様子に舌打ちし、剣をフィオリス軍に向けると
「貴様ら!何を怖じけずいている、数は我々が圧倒しているのだ囲んで叩け!」
機嫌の悪い指揮官の姿に兵達は怯えながらも、目の前の集団に突撃を開始した。
カーリーは先頭を走りつつ、敵の状況を確認する。
……敵は数に物を言わせて包囲して潰す気だな、望むところ!
カーリーは走る足を止め、全軍に向け砲口を放つ
「各大隊は作戦通りに展開!敵を討ち取れ!」
カーリーの砲口とともに各大隊は分散する。
カーリー率いる第一大隊とセヴラン率いる特別遊撃隊は敵の先鋒に切り込んでいく。セルゲノフ率いる第二大隊は左翼に展開、ファームド率いる第四大隊が右翼に展開し、両隊で敵を更に広範囲から包囲し敵の進路を正面に向けさせ、第一大隊の援護の役割を担う。残るラムス率いる第三大隊は基地内部に残り、弓兵での援護、負傷兵の救護、うち漏らした敵の掃討に備える。
これが、フィオリス軍レギブス方面軍の持てるほぼすべての兵力を投入した展開であった。
戦闘開始直後、レギブスに真っ先に突撃したカーリーと百ほどからなる精鋭の騎兵隊は既に敵の隊の一部を崩しつつあった。カーリーを一人と侮り襲いかかった兵をカーリーは一瞬で死体に変えていった。その姿に恐れをなし足が止まったところに騎兵隊が突撃をかけ、騎兵を止める手段のない歩兵達は次々になぎ倒された。
敵を五十人ほどを切り捨てたカーリーは先頭集団の指揮官であろう騎兵に目をつけ
「お前達!周囲の雑魚は任せるぞッ!」
『はッ!』
騎兵達は進む足を止めることなく歩兵の蹂躙を続ける。カーリーはその隙間を縫い、敵騎兵のもとへたどり着く。指揮官であるはずの騎兵は状況を理解出来ずに呆然と立ち尽くしていた。
「貴様がこの集団の指揮官だなッ!」
騎兵はカーリーに馬上から槍を向け
「くそっ、貴様は大将のカーリーか、お前を殺せば特別に食料も出るしな、死ねぇぇぇい!」
騎兵がカーリーに向け突撃する、馬の突進に合わせ槍を突き出してくるがカーリーはこれをすんでのところで回避する。騎兵はもう一度突撃を仕掛けるため馬を振り返らすが、騎兵の視界には既にカーリーの姿はない。馬の突進を回避した直後後ろを追い、振り向く馬の足元に既にカーリーはたどり着いている。
剣を横に振り抜き、馬の足を斬りつける。足を斬られた馬は痛みから暴れだし、上の騎兵を振り落とす。
「ぐぉッ!な、なんだ!?」
何が起きたのかを理解出来ずに地に倒れ付した騎兵の首にカーリーは後ろから剣で貫く。剣を引き抜くと
「敵の将を一人撃ち取ったぞ!この調子で続けぇぇッ!」
『うおおぉぉぉぉ!!!!』
カーリー一人で既に五十人、更に指揮官の一人を討ち取ったことにより第一大隊はその勢いを増す。指揮官を失った混乱から瓦解する敵は各個撃破に追い込まれ、騎兵と歩兵に板挟みにされる状況となった。
歩兵の士気を高めることに成功したカーリーは一息をつくため状況を確認する。第二大隊と第四大隊の牽制は上手く働き、敵の集団は引き寄せられるように第一大隊のもとに向かってくる。しかし、敵の先鋒が崩れ団子状態となった敵はもはや進むことも戻ることも出来ない状況である。蜘蛛の子を散らす様に散らばる敵先鋒のほぼすべては殲滅出来てはいるが、その一部が第一大隊を抜け、基地に向かう姿を確認し本来なら人を向かわせるところを放置し
「期待しているぞ、セヴラン」
カーリーは己の中で高い信頼を寄せている、期待の新星に届かぬ言葉を送った。
どうも、作者の蒼月です。
いや~カーリーかっこいい、自分で言うのもなんですけどカーリーみたいなキャラすごく好きなんですよ、だからこそもっと魅力を伝えれるように努力していきますね
では、次も読んでいただけると幸いです。




