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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第三百七十話~壊れゆく戦士~

 ………………響く金の音………………幾度も響かされる剣の音は、夜になろうともその加減を知らない。剣戟の中心で舞うセヴランとヴァンセルトは、互いに全力をぶつけ合う。特にセヴランは、まだ負ける訳にはいかないと……


「まだぁぁぁッ!!!!!」


 セヴランは氷の大地を踏み、自身の中で連続して組み上げた術式を展開させる。その瞬間、セヴランの踏んだ足元から氷山が走り、ヴァンセルトへと襲う。

 セヴランは既に、自身の内に残されている魔力はほぼ使いきっている。そして、剣に付与し蓄えていた魔力もほぼ空。更に、銀世界と雷神光、氷の造形と既に魔法の三重展開――否、氷の造形もたった一つでは手数が足りないと二つ同時、つまりは計四重展開を行っていた。ただこの瞬間、セヴランはある決断を下していた……


 ……駄目だ、どれだけ攻撃しても届かない……もう速度だって、足の限界まで出してる。力、速度、経験、全てがヴァンセルトに劣る……これだけの差、こんな小細工でどうにかなるとも思えないがな。


 ヴァンセルトは今、セヴランの作り出した空中からの氷槍二つを防いでいる。その瞬間を狙いセヴランは更に術式を構築し、新たに氷山でヴァンセルトを襲ったのだ。そしてこの時、セヴランは口から大量の血を吐き、自身の体が死へと近づいたのを本能的に感じた。


「ッ!」


 セヴランから迫った氷山に、ヴァンセルトは流石に驚きを隠せないといった風に目を見開き、しかし冷静に大剣の剣先を下ろして構え


「まだこんな技を隠していたとはなッ!!!」


 ヴァンセルトは全力で大剣を斜め下から切り上げ、これまで見せなかった圧倒的衝撃波で氷槍と氷山、そのどちらも粉砕した。その衝撃波は凄まじく、空に僅かに掛かっていた雲が消え去り、生み出された風にパラメキア兵の幾人かが飛ばされていた。


 ……これを防ぐとか、化け物なのも大概にしてほしいんだが……。


 セヴランは、もうまともに動くこともままならない状態で、ただ内心でヴァンセルトの力に呆れ笑うしかない。この奇襲とも言える一撃を防がれては、セヴランが残り出来ることは少ない。そしてそれは、相対するヴァンセルトにも見抜かれており……


「流石だな、セヴランよ。見たところ、お前は既に魔法の四重展開を行っていた。そして今の魔法、五重展開を行ったか。これ程までの魔法の実力、あの天才魔導師と吟われるエメリィやマリーンと並ぶのではないか?」


「……それは……どうも……」


 セヴランはどうにか息を繋ぎ、まだ意識があることだけを頼りに会話を行う。ヴァンセルトからは称賛されてはいるが、これだけの魔法の公私、セヴランの実力に見合った技ではない。セヴランが安定して魔法を同時展開出来るのは四重までであり、それ以上はどうしても身が持たない。これでは、セヴランがヴァンセルトに勝てる見込みは無く、後は悪あがきしか出来ないだろう。

 しかしそれでも、セヴランが諦めることはなく


「ほう、その身でまだ立ち上がるか。大したものだ」


 セヴランは自分が立っているのか、それさえ最早理解出来ていない。けど、それでも問題ないのだ。


 ……俺は、立っているのか?なら、戦わないとな……。


 負けられない、そんな単純な想いは考える必要性を省き、セヴランに残る人間としての枷が外れ始め……


 ……痛みは……もう消えてきたな……痛覚も、感覚も消え始めているのか。まあ、今は都合がいいか……。


 セヴランは自分の体のことを、既に把握出来ていない。口や鼻、腕や足、様々な部位から血を流し、魔力欠乏から意識が朦朧と、更に肉や骨も使い物にならず、腕などはだらりとぶら下げている状態だ。そこまでして立ち上がる姿に、ヴァンセルトもまだまだ気を抜けないと大剣を構え直す。




 ヴァンセルトは予想する、先に動くのはセヴランだと。その速度を活かし、肉薄してくるだろうと。それがどれ程危険なことか、ヴァンセルトは身をもって知っていた。


 ……これだけの実力差を持ちながら、よく戦うものだ。並みの者ではとうに倒れるところを、ここまで迫るのだからな。


 ヴァンセルトは、セヴランを仕留めようと思えばいつでも仕留められる筈の立場であった。だが、ヴァンセルトにも計画があり、その為には無駄に戦力となりうる駒を潰したくはない……と、そんな打算的な考えからも、セヴランを殺すつもりは今はなかった。だがその考えの甘さが、ヴァンセルトの首を少しばかり絞めていた。

 当初は、ヴァンセルトとしてもセヴランを抑えるのは容易であった。少しずつ削り、動けなくなる程度まで削ればいいだろうと、そんな戦いを行っていた。だが、セヴランは弱ることがなかった。むしろ削れば削る程、その力を増してきたのだ。その理由として、これは天性の才能だろうか、などとも考慮したが、そんな考察は戦場では意味を成さない。ヴァンセルトは、セヴランの徐々に上がってくる実力に、実力を抑えたままで戦うことに限界が来ていた。

 いくらヴァンセルトが最強と吟われているとは言え、ここまで全力を出すこと無く戦ってきた。だが、つい先程は全力で剣を振るうこととなり、余裕が失われきた。これでは、この戦場にいるほぼ全ての人間を殺しかねないと、どうにかできないかと悩む。


 ……力を半分程までに抑えるのは無理だ。なら、八割程までを使うか。どちらにしろ、これだけの力は厄介だな……。


 ヴァンセルトは、セヴランと戦う方法を考えるが、こればかりは実力を出す以外に答えを見つけれない。そして、考える時間も終わりを告げ――――ヴァンセルトの視界から、瞬きをする間もなくセヴランが消えた。


 ……動いたか。さて、どう来るかな。


 ヴァンセルトは視界から消えたセヴランを追うため、その目を動かす。ヴァンセルトの脳は、他の人間とは比べ物にならない程の処理速度を見せ、視界に映る光景がゆっくりと流れる。これが、ヴァンセルトが身体強化が無くともセヴラン達と戦える理由……いや、セヴラン達がヴァンセルト達と対等になる為に、身体強化を必要とする理由だろう。

 英雄と呼ばれる者は、無論努力は怠らない。常に何かで向上し、上へと進む。しかしその土台には、決して凡人では叶うことのない才を持つものだ。ヴァンセルトは英雄としての器を、人間の持てる最高の能力を引き出せる。これもその一つであり、セヴランを目で追える理由だ。しかし……


 ……いない……どこまで速度を上げるつもりだ。この目で追えない速度、それに体が耐えられるとは思えんが……いや、これは既に枷が外れているな。だとすれば、自壊しながらも私と同様の力を引き出すことも不可能ではないか。


 ヴァンセルトはセヴランの今の状態を、たった速度が上がったことだけで理解をし、そしてその動きを探る。いくら能の処理速度が上がっているとはいえ、敵の動きが止まるわけではない。無駄に考える暇はなく、一瞬で判断を下し動かなければならない。ならば、ヴァンセルトはセヴランの姿を追っても仕方ないと、大剣を横に凪ぎ払い剣圧を打ち出す。


 ……さて、これで上か下か、どちらから来るかな。


 ヴァンセルトの攻撃は、セヴランの動きを牽制するもの。剣圧により真正面、そして横に幅広く攻撃が行われたことでセヴランはその軸にはいれない。ならば上か下か、そのどちらかに攻撃は限定する。そして、その思惑通り攻撃は上から迫り


「上かッ!」


 氷槍がヴァンセルトの頭上に作り上げられる。そしてそこには、セヴランの影があり、ヴァンセルトはセヴランへと大剣を振り上げる。だが、その身を裂いた筈の大剣には手応えがなく


「残像ッ……」


 ヴァンセルトは気配で追ったセヴランが残像であり、その一瞬の隙を作られる。そして、セヴランはヴァンセルトの後ろへと現れ、同時に大地から突き出した氷の数々がヴァンセルトを襲った…………

どうも、作者の蒼月です。

さて、セヴランのピンチですね。ただ、これだけ実力差があって生き残っているのは、運も強いですがなかなかなものです。ヴァンセルトが本気なら、セヴランは本当にすぐに殺されてましたからね~。

ヴァンセルトから評価されてますから、セヴランも成長してはいますが。さて、どこまで食いつけるのか……また、この戦いもどこまで続くのか、セヴラン達の戦いは続きます……。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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