第三百六十六話~動かぬ英雄~
セヴランやラディール達精鋭部隊がロイヤルガードを筆頭とした敵を押さえている時、アイゼンファルツ基地では大軍同士の大規模戦闘が展開されていた。
フィオリス側は城門上に兵を構え、弓、銃、魔法での遠距離攻撃を。そして城門は開け放ち、剣を持つ者達は基地の敷地内で迎撃を。そこにパラメキア兵は同じく、森との境界で隠れるように弓や銃での攻撃、近接部隊が城門へと流れるように斬り込んでゆく。戦力差があるとは言え、防戦側のフィオリスが有利な構え。しかし、実際のところはそう上手くはいかず、フィオリス側は苦戦を強いられていた…………
「くそッ、次の矢を放てッ!銃装隊では間に合わないッ!」
「無茶言うなッ!こっちだって敵の姿が見えねぇってのにッ!」
城門上では、数少ない銃装隊と弓兵部隊が敵の銃装隊と弓兵部隊に攻撃を行っているが、森に隠れるようにしているパラメキア兵への攻撃は、その手応えを感じない。どれだけ攻撃をしようと手数は減らず、城門に迫る敵への攻撃をしようと身を乗り出せば敵に射たれる。最悪な状況に引くも攻めるもままならず、敵に押さえ込まれたまま被害を増やしていた。
また城門の内側、基地の内部で防戦態勢で構える近接部隊は、切り込んでくるパラメキア兵の大軍に、ジリジリと押されていた。本来の防衛戦ならば有利かもしれないが、既に城壁上の遠距離部隊は押さえられ、敵の近接部隊を押さえる部隊がいない。これでは、フィオリスの兵達もラディールや中隊長達がいないことも災いし、どうしても戦力的不利が残るのだ。
「おらお前らッ、なに怖じ気づいてんだッ!この程度の敵相手にビクビクしてても、糞の役にも立ちゃしねぇぞッ!!!」
戦力では押されるフィオリス、それがこうして今でも耐えられている要因の一つは、一人単独で何十人もの敵を相手に、屍の山を築き上げるバーンズの存在があればこそだ。バーンズは、ここまで一切後退することなく、敵に周囲を囲まれようと構わず大剣を振るい続け、ここまで既に軽く数百人を倒していた。陣頭指揮を取るこのバーンズによって、フィオリス兵の心は保たれていた。そしてもう一つは……
「とっとと消えなさい。エクスプラム・マキナ」
五本の杖のうち、二本を手に巨大な三重の魔法陣を空中に展開させ、収束した中心点から巨大な爆発を引き起こす……。そう、規格外な魔法、超級魔法を糸も簡単に繰り出し、城壁の外の敵を殲滅していく天才――エメリィの存在。国の英雄バーンズと、天才魔導師エメリィ、この両者の活躍があるからこそ、フィオリス軍はまだ耐えられるのだ。
ギリギリの戦いで、余裕が残されていないフィオリス軍。その戦いの中で数少ない心の余裕を持つバーンズは、大剣で敵を吹き飛ばしつつ冷静に周囲を見つめ
……これは、もう守りきれんか。せめて弓兵が機能すれば話は違うが、こればかりはどうにもならんな……いや、弓兵を城壁内への攻撃へ切り替えさせるか?まあ、同士討ちになりかねんから無理だろうが……さて、このままだと厳しいが、どうしたものか。
バーンズは冷静に……ただ自軍が負ける未来を見ていた。無論、ここで黙ってやられるつもりなどないが、それでも自分以外の者ばかりはどうにもならない。エメリィも相当な働きをしているが、魔力には限りがある。いずれは魔法を放てなくなり、今よりも厳しい戦いになるだろう。だからこそ現状の打破には、今を変える何か気転が必要で
……セヴラン、お前なら分かっているだろう。この戦いで勝つには、ヴァンセルトに勝つしかない。それが出来ないなら、お前が言う民を守るという願いは叶わず、ただ食い潰されるだけだぞ……さぁ、お前はどう変わっていくのかな。
バーンズは迫る敵を無視して跳躍し、そのまま回転で威力をつけて兜割りのように地面を叩く……これにより、地面を粉砕した勢いで周囲へと砕かれた地面の破片が弾丸の如く飛び散り、パラメキア兵へと無情にも貫いてゆく。
圧倒的な戦力を持ってして敵を蹴散らし、バーンズはただ待つ。セヴラン達が勝つか負けるか、その知らせが届くまで…………
どうも、作者の蒼月です。
はいはい、今回でようやく基地での戦いの描写もできました。まあ、なんとかもってるからいい感じ、なのでしょうか……。どちらも主力を欠いた状態での戦いですからね、どうにか耐えれるといいんですが。
問題はセヴラン達でしょう。このまま戦い続けて、一体どれだけ耐えられるのか。そして、どう反撃に転じれるのか。おそらく次回は時間が進むと思うので、それも少し見えてくるかと……
では、次も読んで頂けると幸いです。




