第三百六十四話~届かぬ刃を届かせる~
セヴランとヴァンセルト、互いの拳を互いに受け止め、次の一撃と連続で繰り出す。攻防の応酬が五十程までは互角……しかし、少しずつその実力差は表れ、ヴァンセルトの攻撃を受けきれなかったセヴランが吹き飛ばされる。
「ぐふッ――――くそッ!!!」
例え攻撃が届かないとしても、セヴランは再び食らいつく。両手から落としていた剣を地面から拾い上げ、下からの切り上げを行う。しかしそれは、ヴァンセルトの翻した身に避けられる。攻撃が入れ替わるように、ヴァンセルトは翻した身から回し蹴りを放つ。しかし、セヴランはそれを手に持つ剣で弾き、セヴランの身が空中で回転するに留まる。
セヴランはヴァンセルトの攻撃の衝撃を自身のものとし、自身の空中での回転を更に加速させる。その反動を生かした一撃を放ち、ヴァンセルトに二本の剣を叩き込む。しかし……
「ふッ」
ヴァンセルトはセヴランの剣の軌道を見切り、叩き込まれた剣の側面を指で弾いた。セヴランからしてみれば何が起きたか、その理解をしたくなくなるあまりの非常識な動き……ただそれにより、セヴランの持っていた力はヴァンセルトから外れ、空振りとなったセヴランの力は空転する。それは隙となり、ヴァンセルトは次の攻撃と拳を――
「ッ!」
しかし、ヴァンセルトはその隙は、隙でないと悟る。セヴランの狙い、それがこの瞬間であった。ヴァンセルトが迫り、攻撃する瞬間ならば、少しは一瞬の隙が見えてくる。常人なら反応出来ない瞬間ではあるが、セヴランであればそれは狙え
……貫けッ!
セヴランは銀世界を展開する大地から、氷の刺をヴァンセルトへと向け突き出す。ヴァンセルトも、これには後方へと跳躍し回避を行うが……
「逃がすかッ!」
セヴランの氷は更に数を増し、ヴァンセルトへと攻め立てる。ヴァンセルトは着地の場を狙われ、氷に貫かれる位置で落ちるが……その氷は、ヴァンセルトの回し蹴りで破壊される。たとえ着地を狙おうと、それを苦ともしないヴァンセルト。
だが、セヴランの狙いはそれでない。氷を破壊することで、一瞬ではあるがその意識はセヴランからずれる。無論ヴァンセルトも、セヴランに対しての警戒を解いてなどいないが、セヴランもその一瞬を見逃さない実力はある。その一瞬で、セヴランは自身の作り上げた氷を足場に、それを伝いヴァンセルトの下へと飛び込んだ。
「早い」
「はぁッ!」
ヴァンセルトが振り向くその時には、既にセヴランは剣を振るっている。最早回避も何も間に合わない、これは取ったと確信出来る一撃を……
「しかし、奇襲ならば声を出さない方がいいだろう」
反応出来ない筈のヴァンセルトから言葉が聞こえ、セヴランは目にする……自身の刃が、ヴァンセルトの指で止められた事実に。ヴァンセルトが指で掴む刃には、セヴランの体重もある。それを、たった両手の二本ずつの指だけで掴み、維持する力。それをできてしまうのは、既に人間ではないだろうと、セヴランは内心で舌打ちをし
「それに掛かってくれて、ありがとよ」
攻撃は全て防いだと、ヴァンセルトはそう考えただろう。しかしヴァンセルトの背には、セヴランが作り上げた氷から更に伸ばした多角的な攻撃が突き立てられたのだ……。
「ほう……」
「これなら……ッ!?」
ヴァンセルトに攻撃が命中した。ただ、それと同時にセヴランもまた、その胸に攻撃が当てられていた。
ヴァンセルトは両手が塞がれ、背には致命的な一撃を受けた筈。だが、それだというのに、一切の同様や怯む素振りを見せることなくセヴランの剣から手を離し、その手に器用にも隠していたセヴランの氷の欠片を打ち込んだのだった。セヴランは地面へと着地するなり数回転して後ろへと下がり、ヴァンセルトとの距離を取る。冷静に、自身の胸に刺された氷の欠片を抜き、傷を得意ではないが炎の魔法を使い、その表面を塞ぐように焼く。
ヴァンセルトもまた背に突き立てられた氷を抜き、互いにまだまだ終わる様子はなかった…………
どうも、作者の蒼月です。
はい、思ったより進みませんでした。またまたヴァンセルト達の戦闘シーンを書いてしまいました……まあ、次は違うシーンに移るので大丈夫です。
そしてセヴラン、ようやくヴァンセルトにまともな攻撃ができたと思っても、ヴァンセルトを倒すことは出来ない……これ、負けイベントなんじゃ(困惑)
では、次も読んで頂けると幸いです。




