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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第三百六十三話~追い付く拳~

 大剣を叩き込まれたセヴランは吹き飛ぶが、ヴァンセルトはその手応えを感じない。明らかに軽かったそれの理由を、剣先へ向け


「単なる氷の障壁ではなく、あの一瞬で五重に重ねて衝撃を減らしたか。まぁ、それでもただでは済むまい」


 吹き飛ばしたセヴランが地に打ち付けられ、飛び起きるようにヴァンセルトへと振り向く。口から流す血を拭い、まだまだ戦意を鈍らせるつもりはないと笑みを向けてくる。これならまだまだ楽しめると、ヴァンセルトは大剣を右手一本で持ち上げ


「リノーム、リターシャ、離れておけ」


「「はッ!」」


 ヴァンセルトは二人へと指示を出し、それぞれが付近から飛び退く。その動きに、リーナとラディールもまた共に飛び退き……ヴァンセルトの剣は振るわれた。

 これまでも何度も振るわれ、幾度となく敵をなぎ倒してきた剣。それから生み出される剣圧は大地を割きながらセヴランへと迫り、強大な砂煙を巻き上げて爆発を巻き起こした。




「……はぁ……はぁ……流石に、今のはキツい……な……」


 巻き上がる土煙の中で、セヴランは血を流しながら剣を突き立て、どうにか体勢を保っていた。

 セヴランは攻撃を受ける直前、ヴァンセルトが剣圧での攻撃を行ってくることは読み、氷の障壁を作り上げて防御を行った。最善は攻撃を回避することであったが、ヴァンセルトの視線はそれを許さなかった。もし回避に転じれば、まず間違いなく回避する先へと攻撃を向けてくる。故に、セヴランは後手に回ることとはなるが防御を選択した。

 ただこれも、単に防御をしただけでは押される。だから、セヴランは体の全ては守らず、局部的に……体の中心部分を限定に、分厚い氷の障壁で守ったのだ。体の全てを守っていない結果、セヴランの両手両足はボロボロになるが、それでも生き残っているだけでも儲けものである。セヴランは早く立ち上がり、一刻も早くヴァンセルトへの対策を――


「ッ!?」


 そんなセヴランの首下に、剣の軌跡が描かれた。余りに一瞬、セヴランは、勘……としか言い様のないものに反応し、僅かに仰け反った。そしてそれは功を成し、セヴランの命はまだ繋がれていた。


「何がッ!」


 セヴランは土煙の舞い上がる中で攻撃を仕掛けてきたのがヴァンセルトなのは理解し、これが目眩ましにもならないなら邪魔だと剣で切り払う。だが、それさえも隙として、ヴァンセルトは既に目の前へと迫っていた。


「チッ!」


 ヴァンセルトから繰り出される振り下ろし。その大剣の威力は知っている故に、それを受け止めることは不可能と判断。だが、最早回避は間に合わない為に、セヴランは右の刃を斜に構え……


 ……読まれた!剣の軌道の狙いは……


 セヴランはヴァンセルトの攻撃の狙いが、自分ではないことを目で捉える。ならば狙いはどこか……ヴァンセルトの剣は地面へと打ち付けられ、その時ヴァンセルトの手は剣から離れていた。自由になった手は、セヴランの心臓を狙い繰り出され


「まだッ!」


 セヴランはヴァンセルトから突き出された拳に、自身の肘をぶつけにいく。例え腕がやられようとも、それならば最低限死ぬことはない。命を優先した動きに、ヴァンセルトも仕方ないと動きを変える。

 ヴァンセルトは拳の軌道をセヴランの腹へ変え、セヴランもそれを防御する為に手を構える。互いの拳は重なり、ヴァンセルトの攻撃は一見防がれたようにも見える、だが……そのセヴランの横腹には、ヴァンセルトの回し蹴りが打ち込まれる。セヴランは強烈な一撃にまたしても意識を飛ばしそうになるが、セヴランもやられっぱなしではない。

 ヴァンセルトが考えていたことは同様に、セヴランもまた考えていた故、ヴァンセルトの横腹にセヴランの足が入ったのだ。しかし、そのダメージには決定的な差があり、セヴランは後退り、ヴァンセルトは何の変化もないといった風であった。セヴランが後退ったことで両者の間に僅かな隙間ができ、まだまだ攻防を続けると両者構え


「はぁぁああぁぁぁ!!!!」


「ふははははッ!」


 セヴランとヴァンセルトは、互いに急所を狙った拳を連続して繰り出した。

どうも、作者の蒼月です。

はい、セヴランとヴァンセルトとの戦闘シーンの続きですが、とりあえず次くらいで一旦区切ろうかと。他の戦闘もありますので、少し場面転換をしていこうと思います。

まあ、ここだけ書いてても、基本はボコボコにされるだけですし……(どっちがとは言いませんが……)


では、次も読んで頂けると幸いです。

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