第二十三話~宴会は再び……?~
会議を終え、サファクイル基地指揮場の会議室を後にしたセヴランはファームドと共に特別遊撃隊の待機する王都側の城門前の広間に向かう。
セヴランとファームドは会議室を出てから一度も会話をする事なく、二人の歩く道はその空間だけ音が刈り取られたように森閑が広がる。普段ならばファームドの周りには彼を慕う兵達が集まり賑わいを見せるが、この日は誰も二人に近づくことは出来なかった。
セヴランは沈黙の中、幾らか思案する。
……この若さで第四大隊の指揮を預かるファームド少佐か、新兵は厄介に思われてるだろうしこっちから何かしら声をかけとくべきか。一応代表扱いだしな……面倒だな…………
目的地である広間が近づいてきた頃、心の中で声をかけるかどうか、たったこれだけのことで葛藤を続けるセヴランに、無言を貫いていたファームドが口を開く
「セヴラン……だったか、先ほどカーリー大将が言っていた模擬戦の話は本当なのか」
ファームドから声をかけられるとは想定しておらず、セヴランは急な対応に僅かに遅れ
「え、あっ、はい。カーリー隊長が言っていたことは事実ですよ。私は勝ったとは思ってませんが」
「ーー隊長?大将に対して失礼な物言いだな、それほどお前は偉いのか」
セヴランはファームドの形相が歪んだのを捉え
……マズイ、こいつは大将のことを慕ってる生真面目な奴か。面倒が言い直しとくか
セヴランは瞬時に考えをまとめ、力を込めた見事なまでの敬礼をし
「はッ!申し訳ありませんでした。護衛作戦中は隊長と呼ぶように指示されていたため、この数日の感覚が抜けておらず無礼な言葉使いをしてしまいました」
理由を納得したのか、ファームドは鼻を鳴らし
「カーリー大将らしいといえばそうだが、今後の言葉使いは気を付けるように」
「了解ですッ!」
セヴランの見事な敬礼が気に入らないのか、ファームドは軽く舌打ちをし広間へ向かう足を早める。セヴランはファームドの視線が外れたことを見ると、敬礼を解き
……まあ、戦闘を目の前に新兵の教導をやらさせられたら機嫌も悪くなるか。シンあたりが余計なことしなけりゃいいが……
セヴランは目を閉じファームドに対し軽口をたたくシンの姿を想像し
……駄目だ、あいつ絶対やらかすな……頼むから厄介事は増やさないでくれ……
先を急ぐファームドの姿を追い、セヴランも足を進める速度を上げファームドの後を追う。
広間にたどり着いたセヴランとファームドは特別遊撃隊、もとい新兵の様子を広間に隣する防壁上から眺めていた。
ファームドは新兵がどれだけの統率があるのかを見る気だったのであろう。集合している兵達を観察し、実力を計ろうとしている。しかし、現時点においては無駄なことであった。特別遊撃隊は休むようにしか指示されておらず、新たに指示を出す指揮官もセヴランであるため新兵隊は休むしか基本的に選択肢はなかった。それでも、バウルが率いる第三小隊は武具の手入れをしており、ギーブ率いる第四小隊は組織行動の自主訓練を行っていたため、ファームドはこれを頷き評価をしていた。ここまでならなんの問題もなかったが、セヴランの悪い予感は当たってしまった
セヴランから引き継ぎ第二小隊を率いるシンは何かを作り始めた。初めは何をするのかはセヴランもファームドも分からなかったが、シンは突然小隊員を使い広間を改造し始めたのだ。自分達で集めた木材などを加工し、机や椅子、焚き火を用意していった。数時間に渡り行われたそれらの準備は終わり、広間は完全に宴会場に改造された。
初めは他の小隊も無視していたが、飯時が近いこともありシンの悪ノリに参加する兵は増えていった。ほぼすべての新兵が参加し、それは山賊との戦闘後の祭りと同じものになっていた。
遠巻きに観察していたセヴランはどこでも祭りを出来る仲間の精神に感心していたが、隣にいたファームドは怒りを顔に露にし広間に向かい歩き始める。セヴランも慌ててファームドの後を追い
……シン、死ぬなよ
心の中で仲間の無事を祈るのであった。
広間に降りたファームドは一直線に兵の中心となっていたシンのもとに向かった。
ファームドはシンの前に立つと
「ふざけておるのか貴様らッ!我々は軍人だ、自由を無くせとは言わないが限度というものがある!今の貴様らの行為はその限度を超えているぞ!」
ファームドの怒号で盛り上がっていた新兵達は黙りこみ静寂を生む。
「話によれば、貴様らはまだまともな訓練を受けていないそうだな。今この時より私、第四大隊長ファームドが貴様らを鍛え上げてやる!軍人とはどういうものか、正しく理解するのだな。」
宴会に急に割り込んだファームドの言葉に誰も答えることは出来ない。しかし、ファームドの言葉は隣にセヴランがいる事からも事実であると皆は理解する、一人を除いて…………
「よく分かんないけど、あんたも食いたいのか?」
静寂をシンの一言が駆け抜ける。ファームドは暫く絶句したまま動くことが出来ないが、この後基地中にファームドの怒りの砲口が鳴り響く。そして、特別遊撃隊初の戦闘訓練が行われて行くのであった。
余談ではあるが、シンはこの後特別に説教を受けることとなり何日間ファームドの怒りを浴び続けるのであった…………
どうも、作者の蒼月です。
今回の内容って「シン@無茶苦茶説教された」ってだけなんですよね~一話一話が伸ばしすぎてる気もするのでもう少しテンポよく出来るよう頑張ります。
では、次も読んでいただけると幸いです。
 




