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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第三百五十五話~凍てつく英雄の心~

 森の中腹で取り残されていたパラメキア兵と接敵したセヴラン達は、敵の小隊長とおぼしき集団と対峙し、これを全て殺した。作戦通りにことは進み、セヴラン達がいる場所が敵の端だったことから、後は基地側から集まってくる仲間を待つこととなる。

 パラメキア兵の死体が地面にはあったが、後に集まってくる仲間の足場の邪魔にならないよう、それらを全て道の端に移し、セヴラン達は空いた時間で剣に着いた血を拭っていた。


「生け捕りにした方が良かったか……いや、そんな余裕はないよな」


「当たり前でしょ。ここで生かしておけば、今度は私達がやられるかもしれない。それならいいけど、その剣が私達に向けられるとも限らないしね」


 リーナは、セヴランの判断は別に間違っていないと、どこか安心させるように言葉をつくる。セヴランも、一瞬浮かんだ考えが甘いことは百も承知だ。敵を生かせば、次は民が殺されるかもしれない。それだけはなんとしても阻止せねばならず、選択の余地はない。

 だがしかし、それによって新たな憎しみの連鎖が生まれることもまた、セヴラン達は痛い程理解していた……。


「それで、俺達はこのまま待機でいいのか?」


 敵を倒し、セヴラン達には余力がある。街道は完全な直線でないため見えないが、おそらくラディール達は他のパラメキア兵と交戦中だろう。バウルの質問の意図は、手伝いに行かなくていいのか、といったところ。セヴランは、それに否定と首を横に振り


「わざわざ手伝いに行く必要がある敵じゃない。向こうはラディール大将以外にも、ブラッドローズの全軍が集結するんだ。戦力的には圧倒、不安要素もない。俺達はここで待機して、もしパラメキア軍が再度来た際に備えるのが役目だろうな」


「そうか」


 セヴランの説明にバウルは納得と頷き、近くの木にもたれ掛かるようにして座り込む。戦場でありながら、バウル目を閉じて休む体勢を取る。自由なその態度に大分慣れてきてはいるが、モースはやれやれと息を吐き


「ここが戦場だということを理解していないのか……」


「そう気負うなよ、モース。今休んでおかないと、暫くは休めないぞ。次は本当に、パラメキアの本隊……下手をすればロイヤルガードとの戦いだ。バウル程自由になれとは言わないがな」


「はぁ……周辺を回って、敵の残存戦力や罠がないか、一応確認してきます」


「悪いなモース、頼んだ」


「すぐ戻る」


 モースは言葉通り確認の為、森の中へと入ってゆく。そしてそこには三人が残され、バウルは仮眠でいるのは実質二人。セヴランとリーナは、大地に流れた血が黒くなっていくのを眺め、自分達が殺した命が消えるのを感じ


「なんで、戦う必要があるんだ……そんなことをしても……」


「今更そんなことを言っても、もう戻れないわよ。私達にあるのは未来への道だけ。振り返ろうとも、そこにはもう道はないわ……」


「…………分かってるさ。やるしかない、分かってるさ…………」


 セヴランはこの不毛とも言える争いに嫌気を覚えながらも、これは敵の頭を潰さない限り終わらないものだと理解している。だからこそ、セヴランはその心に残る良心を殺そうとしていた。人を殺すことでしか、誰かを守る術を知らないから…………。




 ラディール達が去り、人影が消え静かになったアイゼンファルツ基地城門上、そこで仁王立ちをする者……幾多の修羅場をくぐり抜け、歴然の戦士であるバーンズ。普段はふざけた様子が目立ち、とても国の英雄とは見えないいい年の人間……だが、今ここにいるのは、感情を感じさせない瞳で眼下を見下ろす、一匹の化け物であった。


「ラディール達は問題ないか……セヴラン達と、どこまで攻めれるか……ヴァンセルトが見逃す訳がねぇからな……」


 バーンズはセヴラン達の動きに注目し、遠くに映る平原での動きも合わせて見ている。バーンズは、この戦いに人一倍……いや、誰よりも勝つつもりでいた。というより、この戦いを引き起こしたのが、自分自身だと理解しているから。

 バーンズは、セヴラン達に心を開いたことはない。これまでも、ただ目的の為の駒として、そして自身さえ駒の一つとして、ここまで計画を進めてきた。


「ヴァンセルト、てめぇのやり方だけは認めねぇ……絶対、守ってみせる……」


 過去を戦った戦友、そして好敵手、最悪の敵であるヴァンセルトへの怒りと憎しみ、最大の敵意をもってその言葉を呟く。ここからが戦いの始まりだと、バーンズはセヴラン達に冷たい視線を向け


「ここまで準備を進めた、あのディルムンクの置き土産……お前の力はあてにしてるぞ……」


 セヴランに活躍を期待し、しかしどこかでセヴランを信用していないバーンズは、ヴァンセルトを倒す為の作戦を自身を中心に組み立てていくのであった…………

どうも、作者の蒼月です。

はいはい、バーンズの掘り下げを少し開始しました。この戦争を止められなかった理由にバーンズの名前が前から上がってましたが、その理由も見えてくるかと。

あと、もしかしたらバーンズの本気が近いうちに見れるかも?といったところです。


どんどん話を進めていきたいなと思います。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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