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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第三章~始まりの国境~
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第二十二話~新たな始まり~

 地平線から太陽が登り始め朝焼けが広がる頃、霧の中から台車と共に進む一団が現れる。疲れから足取りを重くした一団、物質輸送の護衛を行い山賊との戦闘を乗り越えた彼らに終着点が訪れる。


「見ろ!サファクイル基地だ!」


 一団の中の誰かが叫ぶ。その声とともに一団から歓喜の叫びがあがる。初の実戦を乗り越え、ほぼ休むこともなかった強行軍だった一団は疲労がたまっており、緊張状態からの解放を喜ぶ声が連鎖する。

 先頭で兵士達の様子を確認したカーリーは声をあげ


「最後まで気を抜くなッ!基地内に入るまでは警戒を維持しろッ!」


 カーリーは気の抜けた兵士を叱咤する。兵士達はカーリーの言葉に感情の高ぶりを再び押さえ、各自警戒体制に戻る。

 兵達が落ち着いたの横目で確認すると


「まったく、最後まで気が抜けんな」


「仕方ないですよ、これでようやく休めますからね」


 苦笑するカーリーの隣、警戒を続けつつもセヴランは笑いながらカーリーに言葉をかける。


「そうだな、基地に入ってしまえば少しは休めるからな」


 カーリーは目の前に広がる巨大な基地に視線をやり、残り僅かとなった道のりの行軍を続ける。




 フィオリス王国レギブス方面、最前線基地であるサファクイル基地。

 五年前のレギブス軍進行に伴いフィオリス王国は前線を後退、セヴランのいた村などを含め土地を一部失い国境を下げることとなった。この前線後退に伴い、新たに前線基地として大規模な基地を作る必要が認められサファクイル基地は二年の歳月をかけ完成する。

 広大な平原を遮るようにレギブス側からは壁のように横に長く三重の防壁が設けられ、最も外側に当たる城壁の外には深く堀も掘られており、その防御力は堅固なものである。




 旧トワロ街道を進み、本来の主街道を通れば七日はかかるところを三日で乗り越え、滞っていたレギブス方面軍の食料を運んできたカーリー率いる特務小隊は手厚く歓迎された。

 物質を基地所属の隊員に引き継ぐと輸送を終えた兵達は腰を下ろし、ようやく休息を得る。カーリーは兵達の前に立ち


「皆、今回の護衛作戦をよくやりきってくれた。お陰で今後しばらくの間の食料問題は解決された、各自夜まではこの場所で自由に休んでくれて構わない。セヴラン、お前は私と共に指揮場までついてこい」


「はッ!」


 進むカーリーの後を追い、セヴランは小隊の休む城門前を後にした。




 ーーサファクイル基地所属場ーー

 城とまではいかないまでも石造りで基地内の小丘に建てられた指揮場、周囲の建造物よりも高い位置にあるため目立つ建物になっており、防壁の外からも見えるようにフィオリス王国の旗が掲げられている。

 指揮場内の一室の扉を開けカーリーが部屋に入る、カーリーに続きセヴランも入室すると内部にはサファクイル基地の主要な将官が集められていた。

 カーリーの姿を見た将官は揃い敬礼をすると


「作戦ご苦労様でした、カーリー大将」


「うむ、皆も私がいない間よく基地を守り通してくれた。時間がない、早速だが報告をしてもらおう」


 カーリーの言葉を聞くと机を囲んでいたうちの一人の将官が前へ出ると


「それでは、カーリー大将不在の間レギブスからの攻撃はほぼ行われておらず、我が方の兵に損害はありません。食料はあと二週間程まで備蓄が減っておりましたが、今回の補給であと二ヶ月ほどはもつでしょう。」


「了解した、レギブス軍に動きはないのか」


「警戒の監視は常に続けておりますが、今のところレギブスに動きがあったという報告はございません。」


 レギブスに動きがないという報告を聞き、カーリーは腕を組み何かを悩み始め沈黙する。誰も言葉を発する事なくカーリーの次の言葉を待つ。

 暫くの沈黙の後、カーリーは腕をおろすと


「パラメキアとレギブスが本格的に開戦した、そしてパラメキア方面ではアイゼンファルツ基地が陥落したそうだ」


 カーリーの言葉に動揺と不安の声が広がる。アイゼンファルツ基地はサファクイル基地よりも巨大な前線基地であり、フィオリス王国の中でも精鋭の部隊が配置されていた基地である。そのアイゼンファルツ基地が陥落したという事実は不安を増長するものとしては充分な事実であった。

 各々会話を始めるる中、カーリーは冷静に


「落ち着け、すでにアイゼンファルツにはバーンズ将軍が向かっておられる。将軍がパラメキアの対処に集中出来るよう、レギブスを押さえることが我々の役目だ」


「おぉ、バーンズ将軍が」

「あの方ならばパラメキアを退けれるのでは」

「あぁ!ならば我々もレギブスを退ける勢いでなくては」


 バーンズ・カーマイン、フィオリス王国軍将軍でありフィオリス最強と言われる武人。その実力は一騎当千と謳われるパラメキアのロイヤルガード、レギブスの七極聖天と渡り合ったことがあることからも折り紙つきである。そして、三日前に訓練兵舎に現れリーナと共にカーリーと会談をしていた人物でもある。

 バーンズの武勇はフィオリス軍の者ならば誰もが認めるものであり、将官達もバーンズの名を聞くと募らせた不安を忘れ勢いを取り戻す。

 カーリーは将官の様子に胸を撫で下ろすが、深く息を吐き顔をあげると


「しかしすまない、食料はなんとかなったが兵は貸してもらえなかった。今言ったようにパラメキア側が押されているため、導入可能な兵はすべて持っていかれた……」


 通常ならばあり得ない方面軍司令官が王都まで来るという行為、今回カーリーが王都付近の訓練兵舎に現れたのは兵を借りるという目的の為であった。しかし、パラメキア側の状況の変化により借りる予定の兵を借りる事が出来ず、訓練兵のみを連れ帰るという結果になったのだ。

 カーリーは申し訳ないといった風に頭を下げるが、周囲の将官はカーリーの姿を笑い


「大将が悪い訳じゃないのに謝らないでくださいよ」

「そうです、たとえ戦力増強がままならなくとも我々の実力はレギブスなんかに引けを取りませんよ!」

「ほら、頭を下げてないでいつもみたいに厳しく指示を出してくださいよ」


 カーリーは頭を上げ周りの将官達を見る。その中の誰もカーリーを悪いなどとは思っておらず、充分な成果だと理解していた。

 カーリーは将官に長い間レギブスと戦い続けた歴戦の仲間として深い信頼を寄せられ、家族のやり取りような光景が指揮場内には広がる。

 カーリーは仲間の気持ちに感謝しつつ、顔を引き締め


「そうだな、これから更に厳しい戦いが始まるだろう。命を落とす者も当然いるだろ、しかし、我々は軍人だ!命ある限り戦い続ける、君達にはこれまで以上の活躍を期待している!」


『はッ!』


 将官達が敬礼をし、今後の戦いに向けて気持ちが固められる。そんな中、この場に存在するはずのない新兵であるセヴランの姿に将官達の疑問の気持ちが大きくなる。一人の将官が手を上げ


「カーリー大将、彼は……」


「あぁ、紹介がまだだったな、今回の戦力増強にともなって連れてきた新兵の代表だ。自己紹介をしろ」


 カーリーに視線を向けられセヴランは机に近づき敬礼をすると


「今回、物質護衛作戦にて第二小隊長を務めさせてもらいましたセヴラン・クローディアです。以後よろしくお願いいたします。」


「今年の新兵は優秀だぞ、彼なんかは模擬戦で私に勝ったからな」


「あんな若いのが大将に……」

「大将は手を抜いていたのだろ、でないとおかしいだろ」

「だが、大将が言うのなら実力は確かなのでは……」


 カーリーの言葉に驚きから、実力の考察や想像を膨らませた将官の視線がセヴランに向けられる。将官の反応を楽しんだのか、面白そうに笑い終えたカーリーが手を叩き視線を集め


「彼には他地域から来た新兵も含めて、新たな特別遊撃部隊の隊長を務めてもらう予定だ。指揮系統は私の直属に配置するが、非常時は彼らを使ってくれて構わない。それとファームド少佐」


「はッ、なんでしょうか?」


 カーリーに呼ばれ、敬礼をしたファームド少佐。

 若くして名門である家を継ぎ、高い剣技と優れた知性で少佐まで登り詰め、レギブス方面軍一万六千の内、三千という大人数を預かる有望視されている若き指揮官。ファームドがセヴランの隣に並ぶと


「ファームド、新兵達はこの基地の事は分からんだろうし、まだまともな訓練も受けていない。そこで、特別遊撃部隊の育成はお前に任せた。」


「自分で……ありますか?」


「何か問題か?」


 ファームドはカーリーの言葉に即答はせず、僅かに間をつくると


「了解しました、新兵の育成はお任せください」


「よし、これで大体の事は伝え終わったな。ではこれより普段の警戒体制に入る。以上、解散!」


 セヴラン達新兵の所属も決まり会議は終了する。将官達が退出していくなか、セヴランは周りの視線を感じ取り


 ……新兵は厄介者扱いか、暫くは面倒なことになりそうだな。


 冷静な表情を崩す事なく今後の自分達を想像する。今後の風当たりが強くなるのだろうと予想しながら将官が退出するのを敬礼して見送る。

 そして、このセヴランの予想は的中するのであった。

どうも、作者の蒼月です。

第三章がやっとこさ始まりました。ここから、いろいろ出てくるキャラが増えるのですが、必要以上に名前のあるキャラを増やしすぎないに気を付けたいところですね。

では、次も読んでいただけると幸いです。

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