第三百四十六話~弱き者の強さ~
セヴランにより作り上げられた氷槍の雨が敵を貫き、大地に打ち付けられたパラメキア兵の集団が生まれる。一瞬で十数人を倒したセヴランに、パラメキア兵に生まれた脅威という判断から視線が集まる。セヴランが地面へと着地する瞬間には、次の攻撃と剣を向けられるが……
「それじゃあ皆、出番よッ!」
『はぁぁぁッ!!!』
セヴランに敵意を集中させたパラメキア兵は、間を空けて森から飛び出してきたリーナや他のブラッドローズの兵への反応が遅れる。
その隙を逃すことなく、リーナ達は一撃で首をはねてゆく。ブラッドローズの奇襲に近い攻撃に、後退が遅れていたパラメキアの部隊は、それだけで壊滅的被害を受けた。これには、敵指揮官が指示を飛ばそうとも、混乱は広まるばかりで……
「この機を逃すなッ!!ここから基地方面にいる敵は、部隊全体で掃討をッ!俺に着いてこれる奴は、敵本隊へ向けて突撃するッ!!!」
森の中腹で敵の部隊の一つを壊滅させたブラッドローズ。その次の動きは、パラメキア基地との間に挟んだ敵孤立部隊の掃討。そして、セヴランと一部の者は敵本隊への攻撃を仕掛ける。これによりパラメキア軍の注意はブラッドローズへと向けられ、銃装隊の撤退時間を稼ぐことができるというラディールの作戦であった。
セヴランの通信機からの指示により、ブラッドローズは即座に行動に移す。部隊は街道部分から走る者、再度森へと入り森からの攻撃を仕掛ける者、作戦通りにパラメキア兵殲滅の為に駆ける。
そして、セヴランは敵本隊側へと向かい、それに三人の影が追っていった……。
「やっぱ来るか、お前達は」
セヴランは、高速で駆け抜けて左右に向けることが出来ない視界ながら、気配から誰が着いてきたかを理解する。そしてその声を聞き、予想は正しかったと安堵し
「あの呼び掛けで、他に誰か来ると思うの?」
「全くだ、俺達ぐらいしかついていけねぇだろうよ!」
「パラメキア方面軍の部隊を守る為にも、必要だからな」
セヴランに続くのは、リーナ、バウル、モースの三人。ブラッドローズで、接近戦を行うならば高い実力の持ち主達であり、他に来る者はいないとセヴランも考えていた。無論、他の兵もセヴランに着いてきたかった者もいる、しかしそれでは、セヴランの足を引っ張ることになると理解していた為、他は着いてこないのだ。
しかし、これでおそらくは基地に迫っていたパラメキア兵を掃討でき、この強襲だけで軽く六百程の敵を潰せる計算だ。パラメキア軍の進行を止め、敵軍の被害は最大限に、自軍の被害は最低限に。描ける理想の中でも最高のものであり、セヴランはここでの戦果が重要であると三人に伝え
「街道入り口部まで止まるなッ!それまではすれ違いざまに殺れる敵だけ殺れッ!」
「はいはい、了解~」
「おうよッ!」
「はッ!」
セヴラン達四人は身体強化した足で駆け、もたつき動きの固まった敵部隊へと飛び込んだ。
銃を向けれない敵の首を斬り、その左を抜けてその奥の敵腹部に剣を叩きつける。二人目への攻撃は鎧越しでダメージは大きくないだろうが、それで足は止めない。
次にハルバードを振り上げる重装歩兵の鎧の隙間、敵右脇部分へ剣を突き上げ、右腕を潰したことを確認するより先に敵の体を足場に蹴る。反動でセヴランの加速と剣の引き抜きを行い、セヴランの動きに反応できないもう一人の重装歩兵の首部分へと剣を突き刺す。
二度連続で重装歩兵を潰し、しかし速度が下がるセヴラン。そこには、別の敵が反応し銃や剣を向けるが、それはリーナによって阻まれる。
紅い瞳は血を求めるように、敵の隙間を流れていく。ただ、悪魔のような笑みを向けられたパラメキア兵は、その人生を振り替える暇さえなく意識を断ち切られる。続々と、その目、首、武器を持つ腕、股間と、弱点と言える部位を的確に切り裂いてゆく。セヴラン以上の速度を出し、それを自在に操れるリーナだからこそ、敵に捉えられることはない。
セヴランが重装歩兵など、重く硬い鎧を持つ敵を仕留める。その隙を、リーナが順に消してゆく。ただ、その左右ではバウルとモースも力を振るい
「おらぁぁぁッ!!!」
「はぁぁああぁぁぁッ!!」
バウルは大剣で敵を凪ぎ払い、モースは敵を一人一人確実に無力化していく。四人を相手に、パラメキア兵は数を減らすばかりで、ろくな反撃ができないでいた。
ただ、これはパラメキア軍が弱いからではない。ここにいる者は、フィオリス王国の中でも屈指の実力を持つ者達。彼らがここで苦戦するようでは、パラメキアとの戦いなど夢物語となってしまう。これはその、ほんの序章にしかすぎないのだ…………
どうも、作者の蒼月です。
はい、セヴラン達はまだまだ無双していきます。ただ、次は別の視点が入ってくるかと。さて、パラメキア軍はやられっぱなしかと思いますが、さてどう動いてゆくのか…………
パラメキアの作戦指揮をしているのはヴァンセルトということ、これがフィオリス最大の問題なのでまだまだ先は長いです……
では、次も読んで頂けると幸いです。




