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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第三百四十三話~切り込む者達~

 暗き闇……目の前さえ見えない闇が、朝だというのに広がる空間。何故、光がそこにないのか、それに答える者はいないが……


「……隊長、そろそろ――」


「まだだッ……まだ、待つんだ……」


「しかし……」


「その時は必ずくる……今は、待つんだ…………」


 暗闇の中に、声が響く。闇に潜む影達は、頭上からする足音に敵意を向けそうになるが、隊長と呼ばれた者の声でそれは止められる。そして再び、影達は闇に息を潜める……獲物を確実に仕留められる、その時まで…………。




 重く、その壁を形成したまま進行するパラメキア軍。しかし、その軍団はアイゼンファルツ基地との間の森へと対面し、中央の街道部分に吸い込まれるように列を組み換える。パラメキア軍の進行速度は落ち、部隊の進行できる数も減る。そのタイミングは、パラメキア軍にとって防御において不利な時であり


「……銃装隊、撃てぇぇぇッ!!!」


 森の中から叫ばれた声で、銃声の嵐が巻き起こる。中央の街道を挟むように、両側の森から現れたフィオリスの銃装隊の銃弾はパラメキア軍を襲い、挟撃を受けることとなったパラメキア軍は負傷者を出して行く。

 しかし、パラメキアも一方的にやられるだけでなく、即座に両側への応戦と銃装隊が構え


「我らパラメキア帝国、皇帝陛下の意を示す存在ッ!全軍、フィオリス軍に力を見せてやれッ!!!」


 銃弾と銃弾が飛び交い、人の叫びや悲鳴も合わせて広がる。硝煙と血の臭いで森が染められ始め、戦場は徐々にその姿を赤く変えてゆく。

 ただ、戦局は傾いていた。フィオリス軍は森の中に身を潜め、その姿を見せずに銃装隊での遠距離攻撃を。対してパラメキア軍は街道で列になっているため、その姿はフィオリス軍に丸見えだ。防御をすることもままならず、パラメキア軍の損害は増える一方である。


 そんな戦局を、ヴァンセルトは遥か後方である天幕から確認していた。自軍が押され、敵に思うようにされている現状に……ヴァンセルトは笑う。それも、全て予定通りなのだと。


「よし、作戦は予定通りだ。全軍に指示を」


 ヴァンセルトの言葉に、近くに控えていた兵は銃を用いて、空へと弾を打ち出す。パラメキア軍の、部隊への連絡手段としてラグナント平原での戦い以降使われだした新兵器、信号弾。これは、レギブスの作り出した通信機のような高精度での連絡は行えないが、一斉に部隊全体へと連絡を取れるというメリットがある。それを利用し、パラメキア軍にはヴァンセルトから命令が下されたのだった…………。




 パラメキア側から空に信号弾が打ち出されたのを、セヴラン達も確認していた。この光が、パラメキア軍の作戦指示に使われていることは知っている為、これでパラメキア軍が確実に動きを見せるとフィオリス側も動き


「パラメキアがどう動くか、まだ判断するには材料がたりない。けど、この機会は逃せない……出番だよ、セヴラン」


「えぇ、まだ部隊を投入するには早いけれど、あの危険な場に銃装隊を取り残す訳にもいかない。そんな状況で、私達以上の適任者はいませんからね」


 フィオリス側は、次にパラメキアがどう動こうとも、セヴラン達ブラッドローズを投入することを決めていた。理由としては、パラメキアが更なる攻勢に出るなら、銃装隊の撤退時間を稼ぐ為。後退や防戦であれば、逆に銃装隊と連携し、包囲殲滅の為。

 無論、そこまで上手くいくとはラディールも考えていなかったが、何もしないことの方が馬鹿である。フィオリスには、悠長に構えている暇などないのだから……。


「それじゃあ、何かあったら自由に動いてくれ。こっちも、次の作戦までは、特に指示を出すつもりはないからね」


「了解です、ラディール大将。では」


 ラディールとの打ち合わせも終わり、セヴランは城門から銃声の響く基地の外側へと飛び降りた。




 そのまま下へとセヴランは着地し、城門前に待機していたブラッドローズの仲間へと視線を向ける。


「全員、第二作戦開始だ。これから、あの連中を囲いに行く。用意はいいな」


「いつでもいいぜ、隊長」

「今度は、絶対に負けられないからな」

「ブラッドローズの実力、あいつらに思い知らせてやるぜ」


 城門前で待機していた兵達は、ブラッドローズ内の二百人程。魔導部隊や隠密部隊は除いた、一般兵にあたる者達。しかし、その実力は並の人間では出せないものであり、その実力は圧倒的。パラメキアへ攻撃するため、セヴランはその作戦を開始し


「俺に続けッ!」


 セヴランが駆け出し、それに皆も続く。パラメキア軍に牙を剥く戦士達が、ブラッドローズは森へと姿を消してゆく……。

 そして、森から響く銃声に、新しい音が生まれようとしていた…………

どうも、作者の蒼月です。

とりあえず、次は確実に戦闘パートです。銃装隊同士の戦いは既に始まりましたが、その具体的なシーンも次回かと。

さて、既に作戦は進み始めています。それは、どちらの軍も同じですが、どこまで相手の作戦を読めるか、その読み合いが始まっています。ラディールとヴァンセルト、両者共強者ですが、その差は確実なものです。


どんどん話を進めていきたいと思います。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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