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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第三百四十二話~始まりは静かに~

 パラメキア軍は第一から第十五大隊まで、総数七万五千以上を持って進行を開始した。パラメキア軍の中でも、第一から第五大隊の実力は他とは比較にならず、皇帝直属近衛兵とまでいかずとも、どれも精強な者達の集まりだ。そして、最強の切り札であるロイヤルガードを三人……パラメキアは、持てる力の多くをフィオリスに向けた。


 対するフィオリスは、パラメキア方面軍全戦力、第一から第九大隊までの総数三万九千、ここに特務部隊のブラッドローズが三百程度。ただ、この戦力のうち、元々部隊に所属していたのは一万五千程。つまり、多くの兵は王都で鍛えて増強部隊として入ったものであり、数の上では二倍程度の差ですんでいるが、実際に戦える者は限られているのが現状だ。


 そんな両者のうち、先に動きを見せたのはパラメキア軍。軍の複数の列を組み、規則正しい隊列で進行する。広い平原を、蟻一匹通さないかのような人の壁。迫りくるその壁は、人に恐怖と威圧、そして死を与える時を告げる足音を鳴らせる。

 戦いにおいて、これに意味は本来ない。アイゼンファルツ基地前には森があり、その森を抜ける為には街道部分から部隊を縦に進めるしかない。森を抜けるにも、部隊を広く並べていても進む速度は下がるだけであり、敵に隙を見せるだけだ。そんなリスクを負いながらも、これだけの行軍を見せつける理由は……


「さて、これにお前達の新兵はどれだけ耐えられるだろうか……楽しみだな」


「意地が悪い、と言いたくなりますよ。まあ、まずは精神から攻めるのが基本ですけどね」


 ヴァンセルトの腹黒い笑みに、リターシャは悪い人だと微笑む。まだ、ロイヤルガードや各部隊間の伝令役の兵達は天幕に残り、戦場を見渡している。平原だが、その中心部は山なりに少し盛り上がっており、森の入り口部までは見渡すことが可能だ。そして、敵の今後を予測し


「まずは敵の心を折る。どれだけ指揮官が耐えようとも、末端の兵までその恐怖に耐えられるかは別の話だ。心さえ折れてしまえば、もはやその兵士は使い物にならない」


「あとは、部隊の数と質、そして指揮官の腕が問われることとなる……ですが、彼らはそう簡単に、諦めてくれるでしょうか」


「……あくまで私の個人的な予測だが、おそらく意味はないだろうな。これまで、この多くの兵をどこで育てたかは気になるところだが、あのバーンズが育てていた可能性がある。だとすれば、実戦的な力こそ足りずとも、精神力は鍛えられている可能性が高い」


 ヴァンセルトは、自身の持つフィオリス軍の情報から、これだけの行為が無駄であるだろうと考える。それでもするのは、やらないよりはマシという考えともう一つ…………


「加えるなら、あまり行軍速度は上げたくない。あのバーンズ……いや、セヴランが、何の対策もなしに戦いをするわけがない。何か、罠を仕掛けられている可能性がある。それを見極めるまでは、気を抜けないからな」


 ヴァンセルトは、この戦いで有利なのは自分達だと理解している。しかし、決してフィオリスを格下と見なして油断せず、ここにも何かあると考え、部隊の様子に目を光らせていたのだ、自身の後ろにある小さな気配に殺気を飛ばしながら…………。






「どうだ、いけそうか?」


「……いや、あれは無理ですね……完全にバレてます。作戦失敗、撤退します」


 アイゼンファルツ基地から離れ、ロイヤルガードのいる天幕より更に後ろ。草原の草に隠れるように、二人の男は自然に姿を隠していた。地面に潜るように隠れるそれは、ブラッドローズの隠密部隊だ。これはフィオリス側の第一作戦で、ロイヤルガードや部隊指揮官の暗殺を企むものであった。けれども、これはあっさりと失敗し、元より失敗を前提に動いていた節もあって二人はそそくさと退散する。




 そんな作戦の失敗を、通信機越しに耳にしたセヴランは顔をニヤつかせ、全て問題ないと次の作戦を頭に浮かべ


「よし、ブラッドローズ全軍に告げる。作戦を第二段階へ移行、予定通りだ」


 通信機に命令をしたセヴランの隣で、ラディールは機嫌よく微笑み


「君の方が第二段階なら、私達の方もそろそろ出番だね。用意はいつでもいいからね」


「えぇ、まずはここでふるいに掛けます。我々が臆しているなどと思っているようなら、その鼻面をねじ伏せてやりますよ」


 パラメキア帝国軍を相手に、セヴランは気後れすることはないと自信を溢れさせながら答える。これに、ラディールも心配することはないなと、手に持つその刃を触り


「……久し振りに疼いてきたよ。ロイヤルガードとの手合わせ……人生で二度とないかもしれない時、楽しみだなぁ……」


「あの化け物と戦いたいなどと、ラディール大将もどうかしてますよ、本当」


 セヴランは、ラディールという戦闘狂に頼もしくも恐ろしいと感じる。ロイヤルガードを前に、その戦いを楽しもうとするその精神……レギブス方面軍でのカーリーやセルゲノフと違い、戦闘を求めるラディールに、関わる者を引き裂くような危うさをセヴランは見いだし、この戦いに必要な力だと大きな期待を寄せていた。

どうも、作者の蒼月です。

始まり出しましたよ戦闘回!まだ交戦は始まってませんが、これでパラメキアとフィオリスの戦争は遂に武力衝突に繋がったわけです。

さてさて、次回からもどんどん戦いを書いていきますよ~(やっぱり、戦いは書いていて楽しいですね!)


では、次も読んで頂けると幸いです。

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