第三百三十五話~セレンの名~
リーシャから返された返答に、セヴランは沈黙をつくる。それは、自分の中で納得をするために必要な時間であり、大げさなリーシャの言葉を受け止めようと……
「いやいや、いくらなんでも世界が終わるなんて……それは言い過ぎだろ?」
セヴランは一応は理解しようとするが、どうにも無理であった。ここ最近、セヴランが聞かされる話は規模が大きすぎ、セヴランの手に負えるものではない。またしても、今度は世界が終わるなどと言われて、はいそうですか、とは流石にならない。
だが、そんなセヴランの気持ちは理解できなくはないと、リーシャは言葉を強く重ね
「これは、冗談ではありません。本当に、この結果次第では世界が滅びます」
「…………冗談、と言ってほしかったな……」
「こんなところで冗談を言えるほど、自体は良くないですから」
「なら、それがどういうことか、聞いておこうか。何故、俺が?」
セヴランは仕方ないと、そういうものなのだと話を進める。リーシャも、簡潔に内容をまとめ
「終焉の話は、既にいろんな人から聞いているでしょう?あの終焉には、意味が複数あるの」
「意味が?」
「そう、一番分かりやすいのは、世界の滅亡という意味での終焉。けどそれは、古の竜に滅ぼされることを意味してるの」
「それは、確かに話を聞いている。師匠やソフィア、後はヴァンセルト辺りからか」
「他の意味については、ここでは話さないでおくわ。これは、まだ当分先の話だから……まずは目先の問題、竜の進行について……そこで、エメリィ様の力は必ず必要になるわ。でも、今のままでは、次のマリーンとの戦いで、エメリィ様は命を落としてしまう……」
「……何故、そんなことが言いきれる?確かにマリーンの強さは本物だ。けど、前だってエメリィは――」
「事実です」
セヴランの疑問をする言葉に、リーシャは強く言い切り言葉を止めさせる。普段おとなしいリーシャ故に、それだけ強く言い切ったことにセヴランは面食らい
「悪い、信じてないわけじゃないんだ」
「いえ、信じてもらえなくて当然です。ただ、今は信じてもらう他ありません……」
リーシャは、セヴランに信じてもらえなかったことにショックを受けたのか、視線が徐々に下へ傾き始める。そのことに、セヴランは慌てるように流れを変え
「それで、聞いてなかったが俺である理由は?こんな重大なこと、俺である必要はないはずだ」
この話において、正直なところエメリィのことはどうにかする予定であり、特に何か変わるわけではない。しかし、何故これをセヴランに頼んできたのか、それはどうしても知っておきたく……
「貴方が、終焉に対する鍵だから……その心の強さが」
「心の、強さ?」
「今はこれだけしか言えない……けど、忘れないで。貴方の心の強さが、この世界を救える鍵だっていうことを」
「…………???」
理解不能、それがセヴランの出した結論だ。これが意味するのは、何か重要なことなのだろう。ディルムンクが言っていたこととも被り、セヴランという存在はどこか特別なのだ。自身にその自覚がないとしても…………。
現状では、それに対しどう答えを出すかは決めきれない。そして、リーシャもそれは理解した上で、答えを求めているわけではないと笑い
「ごめんなさい、色々変なことを言って。でも、心の隅に留めてくれれば」
「とりあえず、今は分かったと言っておくよ。どのみち、エメリィのことは何とかするしな」
「エメリィ様を、よろしくお願いいたします……」
この瞬間、部屋を隔離していた術を、セヴランに気づかれないようにリルムは解除する。これで、三人は元の空間に戻ったことになり、忙しい現実に帰ることとなる。
話し合いは終わったとセヴランは席を立つが、不意に疑問が浮かび上がり、同じく席から立ち上がったリーシャへ
「リーシャ、君の名前はセレンと言ったが、これからどう呼べばいいんだ?」
名前を隠していることには、何か意味があるのだろう。そんなセヴランの考えから、気を効かせたつもりでの質問だったが、リーシャはあっ、と何かに気づいたように
「名前は、これまで通りリーシャでお願いします。ロイヤルガードのリターシャさんからとって適当につけた名前ですけど、その方が助かるので」
リーシャは、その名前の元がリターシャであるなど、初耳な情報を出したが、重要なのは最後の一言であった。
「ただ、もしどうにもならなくなった時、私の――セレンの名を呼んでください。きっと、助けになれるかと思いますので」
どうも、作者の蒼月です。
まあ、会話パートは一旦終わって、また次に話を進めていきたいと思います。あと、だいぶフラグ立ててますし、そろそろエメリィを攻略しなければ……これ、攻略しないと本当に危険ですからね。
物語を書きながら、キャラと戦う作者の図……。
では、次も読んで頂けると幸いです。




