第三百三十二話~時を越える者~
「エメリィの話?……確かに、エメリィのことは気になるとこだが、それをなぜリーシャが?」
リーシャの話には、セヴランは乗り気ではある。しかし、なぜこのタイミングで、そしてその内容なのか……バーンズにエメリィ、これまで皆が多くのことを隠してきている。故に、リーシャにも何かあるのではと、そんな予感が過る。
そして、リーシャとリルムは一瞬、目で合図のようなものを送りあうと
「ッ!?」
セヴランは急激な寒気、そして死への恐怖に立ち上がる。何故、急にそんな感情に襲われたのか、セヴランは分からず未知への恐怖に怯えるが、どうにか目の前の雰囲気の変わった二人に視線を移し
「何を、したんだ……」
震えが出そうになることはどうにか抑え、腰の剣に手を伸ばす。すると、リーシャは慌てて首を振り
「セヴラン、落ち着いて下さい!ごめんなさい、外から聞かれないように、後見られないようにするため、ここを一時的に時間軸から外したんです。多分、それで今恐怖を感じたのでしょう。特に問題はないですから、気にしないで下さい」
「そうだぜ~逆に言えば、ここは最も安全とも言えるからな~」
リーシャは、セヴランに落ち着くように言葉を掛けるが、セヴランは余計に頭を悩ませることとなる。リーシャの言う言葉の意味が、分からないからだ。
……時間軸?外す?何を言ってるんだ。それに、明らかに二人の雰囲気も変わった……一体、こいつらは誰なんだ……。
セヴランが二人から感じている気配は、これまでとは明らかに違うものだ。目の前から、自信のない少女と自由奔放な少女は消え、得体のしれない気配を放つ二人がいる……その気配は、強いて言えばイクスやソフィア、その類いのものだ。
もし、この感じている気配が正しいとすれば、セヴランは今危険な空間にいることになる。だが、リーシャとリルムは仲間で、その安全という言葉を信じる必要もあるとし、腰に伸ばしかけた手を戻し
「……リーシャにリルム、だよな。一体、お前達は何者だ……」
「え、何者も何も、別に何もないですよ?」
「セレン姉、多分そういうことじゃねぇぞ」
「セレン?」
「あっ……うん、忘れてくれあんちゃん!」
「いや、今の流れで無視できねぇだろ」
リルムは、何故かリーシャのことをセレンという名で呼んだ。それは、どうやらリルムのミスのようだが、その名を聞き逃すわけもなく、セヴランの中に新たな情報が増えてゆく。
「はぁ……リルムのせいで、また余計な仕事が増えかねないじゃないの」
「ごめんごめん」
「……セヴラン、まずは今のことから説明すると、セレンというのは私の本当の名前です。まあ基本的に、私のこの名前を知っている人はいませんが」
……えっと、リーシャがセレンという名前……なんで名前を隠すのかは不明だが、そこはいいか。え、つまりどういうことなんだ……。
セヴランの中では、既に状況を理解するのに思考は必死であり、回転する頭に余裕はない。そのよく分からない発言にも、セヴランなりに理解しようとはするが、思考か追い付かない。そしてそこに、更に畳み掛けるように……
「セヴラン、本題になりますが、エメリィのことを見捨てないで下さい。彼女もまた、被害者とも言えますから」
「被害者?何の話か見えないんだが……第一、リーシャ――いや、セレンだったか、お前の存在もよく分からない。この状況で、その発言を信じろと?」
セヴランは、ここは慎重に相手の出方を見るべきと、まずはその正体を探る。パラメキアでの失敗もあり、セヴランは強気に出れる精神ではない。もう二週間も経つとは言え、国の未来を変える程の規模であるあの場での失態は、そうそう拭えるものではなかった。
ただ、そんな引き気味なセヴランの姿勢に、リーシャ――セレンの隣で足と腕を組み、詰まらないものを切り捨てるように……
「おうおうセヴランのあんちゃん、やけに慎重なこと言ってんな。いつものあんちゃんなら、もっと大胆な行動をとってるぞ。この前の失敗一つで怖じけずいちまったのか?」
「……リルム、それは挑発のつもりか?」
「けっ、つまんねぇの。もっと気楽に話せばいいのによ」
「リルム、それぐらいにしておきなさい。これ以上は、セヴランに対して失礼よ」
「あーい」
リルムの過激な言葉には、流石のセヴランもイラつきが生まれる。ただ、これはリーシャがすぐに割って入り、リルムの悪態に付き合わされることはなかった。
「ごめんなさいね、リルムが生意気なことを」
「いや、事実でもあるからな、否定はできないさ」
「そう、分かった……なら、まずは貴方に話を信じてもらうために、正体について言っておきましょうか」
リーシャは、セヴランの質問には答えていくと、信じてもらう為の努力はする姿勢を見せ……
「私の名前は、セレン=ヴィ=ファウルネス。リルムの方は、リルム=ヴィ=ファウルネス。ユーヴァフラン様の娘です」
「――――???ユーヴァフラン?誰だそれは」
リーシャから告げられた名前は、セヴランの知らない名前。しかし、続いた捕捉の説明に、セヴランは正体の片鱗を知り……
「原初の五人と呼ばれる、ソフィアさんやイクス、彼らの仲間だった方……と言えば、分かってもらえるでしょうか」
原初の五人……セヴランの、そしてここ最近の問題に、切っても切れない関係として付いてくる存在。存在が謎な化け物であり、関わりたくもない厄介な人物。その娘と、理解不能だが、 とりあえず面倒なことになりそうな人物が、仲間のうちに紛れていることを、セヴランは真っ白になりそうな頭で知り、更に疲れるのであった…………
どうも、作者の蒼月です。
まず、2日間も投稿が遅れて申し訳ありませんでしたm(__)m
言い訳をしておくと、この話は昨日完成して投稿したつもりだったのですが、どうやらエラーで投稿出来ていなかったようで、それに気づいたのが今日の朝でした。前にも1度あったのですが、こういうミスはなくせるようにしていきたいです。
さて、本編に関してですが、リーシャがセレンと名乗り、原初の五人の関係すると打ち明けてきました。セヴランとしては、ブラッドローズを一つにまとめたい中でのこの案件。厄介なことこの上ないです。さて、リーシャ(セレン)の目的は何なのでしょうか……
では、次も読んで頂けると幸いです。




