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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第三百三十二話~時を越える者~

「エメリィの話?……確かに、エメリィのことは気になるとこだが、それをなぜリーシャが?」


 リーシャの話には、セヴランは乗り気ではある。しかし、なぜこのタイミングで、そしてその内容なのか……バーンズにエメリィ、これまで皆が多くのことを隠してきている。故に、リーシャにも何かあるのではと、そんな予感が過る。

 そして、リーシャとリルムは一瞬、目で合図のようなものを送りあうと


「ッ!?」


 セヴランは急激な寒気、そして死への恐怖に立ち上がる。何故、急にそんな感情に襲われたのか、セヴランは分からず未知への恐怖に怯えるが、どうにか目の前の雰囲気の変わった二人に視線を移し


「何を、したんだ……」


 震えが出そうになることはどうにか抑え、腰の剣に手を伸ばす。すると、リーシャは慌てて首を振り


「セヴラン、落ち着いて下さい!ごめんなさい、外から聞かれないように、後見られないようにするため、ここを一時的に時間軸から外したんです。多分、それで今恐怖を感じたのでしょう。特に問題はないですから、気にしないで下さい」


「そうだぜ~逆に言えば、ここは最も安全とも言えるからな~」


 リーシャは、セヴランに落ち着くように言葉を掛けるが、セヴランは余計に頭を悩ませることとなる。リーシャの言う言葉の意味が、分からないからだ。


 ……時間軸?外す?何を言ってるんだ。それに、明らかに二人の雰囲気も変わった……一体、こいつらは誰なんだ……。


 セヴランが二人から感じている気配は、これまでとは明らかに違うものだ。目の前から、自信のない少女と自由奔放な少女は消え、得体のしれない気配を放つ二人がいる……その気配は、強いて言えばイクスやソフィア、その類いのものだ。

 もし、この感じている気配が正しいとすれば、セヴランは今危険な空間にいることになる。だが、リーシャとリルムは仲間で、その安全という言葉を信じる必要もあるとし、腰に伸ばしかけた手を戻し


「……リーシャにリルム、だよな。一体、お前達は何者だ……」


「え、何者も何も、別に何もないですよ?」


「セレン姉、多分そういうことじゃねぇぞ」


「セレン?」


「あっ……うん、忘れてくれあんちゃん!」


「いや、今の流れで無視できねぇだろ」


 リルムは、何故かリーシャのことをセレンという名で呼んだ。それは、どうやらリルムのミスのようだが、その名を聞き逃すわけもなく、セヴランの中に新たな情報が増えてゆく。


「はぁ……リルムのせいで、また余計な仕事が増えかねないじゃないの」


「ごめんごめん」


「……セヴラン、まずは今のことから説明すると、セレンというのは私の本当の名前です。まあ基本的に、私のこの名前を知っている人はいませんが」


 ……えっと、リーシャがセレンという名前……なんで名前を隠すのかは不明だが、そこはいいか。え、つまりどういうことなんだ……。


 セヴランの中では、既に状況を理解するのに思考は必死であり、回転する頭に余裕はない。そのよく分からない発言にも、セヴランなりに理解しようとはするが、思考か追い付かない。そしてそこに、更に畳み掛けるように……


「セヴラン、本題になりますが、エメリィのことを見捨てないで下さい。彼女もまた、被害者とも言えますから」


「被害者?何の話か見えないんだが……第一、リーシャ――いや、セレンだったか、お前の存在もよく分からない。この状況で、その発言を信じろと?」


 セヴランは、ここは慎重に相手の出方を見るべきと、まずはその正体を探る。パラメキアでの失敗もあり、セヴランは強気に出れる精神ではない。もう二週間も経つとは言え、国の未来を変える程の規模であるあの場での失態は、そうそう拭えるものではなかった。

 ただ、そんな引き気味なセヴランの姿勢に、リーシャ――セレンの隣で足と腕を組み、詰まらないものを切り捨てるように……


「おうおうセヴランのあんちゃん、やけに慎重なこと言ってんな。いつものあんちゃんなら、もっと大胆な行動をとってるぞ。この前の失敗一つで怖じけずいちまったのか?」


「……リルム、それは挑発のつもりか?」


「けっ、つまんねぇの。もっと気楽に話せばいいのによ」


「リルム、それぐらいにしておきなさい。これ以上は、セヴランに対して失礼よ」


「あーい」


 リルムの過激な言葉には、流石のセヴランもイラつきが生まれる。ただ、これはリーシャがすぐに割って入り、リルムの悪態に付き合わされることはなかった。


「ごめんなさいね、リルムが生意気なことを」


「いや、事実でもあるからな、否定はできないさ」


「そう、分かった……なら、まずは貴方に話を信じてもらうために、正体について言っておきましょうか」


 リーシャは、セヴランの質問には答えていくと、信じてもらう為の努力はする姿勢を見せ……


「私の名前は、セレン=ヴィ=ファウルネス。リルムの方は、リルム=ヴィ=ファウルネス。ユーヴァフラン様の娘です」


「――――???ユーヴァフラン?誰だそれは」


 リーシャから告げられた名前は、セヴランの知らない名前。しかし、続いた捕捉の説明に、セヴランは正体の片鱗を知り……


「原初の五人と呼ばれる、ソフィアさんやイクス、彼らの仲間だった方……と言えば、分かってもらえるでしょうか」


 原初の五人……セヴランの、そしてここ最近の問題に、切っても切れない関係として付いてくる存在。存在が謎な化け物であり、関わりたくもない厄介な人物。その娘と、理解不能だが、 とりあえず面倒なことになりそうな人物が、仲間のうちに紛れていることを、セヴランは真っ白になりそうな頭で知り、更に疲れるのであった…………

どうも、作者の蒼月です。

まず、2日間も投稿が遅れて申し訳ありませんでしたm(__)m

言い訳をしておくと、この話は昨日完成して投稿したつもりだったのですが、どうやらエラーで投稿出来ていなかったようで、それに気づいたのが今日の朝でした。前にも1度あったのですが、こういうミスはなくせるようにしていきたいです。


さて、本編に関してですが、リーシャがセレンと名乗り、原初の五人の関係すると打ち明けてきました。セヴランとしては、ブラッドローズを一つにまとめたい中でのこの案件。厄介なことこの上ないです。さて、リーシャ(セレン)の目的は何なのでしょうか……


では、次も読んで頂けると幸いです。

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