第三百二十二話~若き失態~
セヴランは、シャディールからの言葉に、今一度冷静になった。ここまで、セヴランは思うように話を進めてきたつもりであった。けれど、何故か違和感のようなものがつっかえ、話を続けるのは危険という脳の叫びを聞いた気がした。
……なんだ、この違和感は……別に、特別変わった話はしていない、当たり前の常識を確認しただけだ。なら、これは一体……
セヴランには、その違和感の正体を気づけない。いや、気づくことは出来たかもしれない。けれど、セヴランはまだこういった場の経験は豊富ではなく、経験則が足りないのだ。だからこそ、見落としてしまったのだ。
「どうした、述べていいのだぞ」
シャディールからの催促に、セヴランは思考する時間を削られる。この場で黙り込むことが危険なことは理解しているため、セヴランは急かされるように話を進め
「では……パラメキア帝国でも、この霧の問題を調査していることは存じております。そして、それにまつわる終焉に関しても、ご存知かと」
「当然だ。国の代表を名乗るのならば、その程度は知っておかねばならん」
「ならばこそ、その対処の為に、我々は力を合わせるべきではないかと。人類同士で戦っていては、それこそイクスなどの思うつぼでしょう」
「だからどうしたと言うのだ?」
「ッ!?」
その一言に対し沸き上がった感情は驚愕か、それとも怒りだろうか。その時のセヴランには分からなかったが、何か言葉を出さずにはいられず
「シャディール皇帝陛下ッ、貴方は知っている筈ですッ!戦場で、多くの兵が命を賭けて戦っている今を……その流れる血をッ!確かに、未来を考えれば戦う必要はあるかもしれません。けれど、それならば根本を、この終焉に対し今こそ力を合わせ解決を目指す必要が――」
「セヴラン!」
セヴランの言葉は熱が増え、シャディールを相手に冷静さを失い始めていた。熱くなることが悪ではないが、今のセヴランは悪い方向へ話を進めかねないと、ここまで無言で控えていたリーナがその名を叫び、セヴランの暴走を制止した。
セヴランも、リーナに呼び止められたことで我に返り、自分が役割さえ放棄しそうになったことに気づかされた。リーナへの感謝は内心で告げ、今はシャディールへの謝罪が先立と頭を下げ
「申し訳ありません、シャディール皇帝陛下の前で、このような無礼な真似を……」
「良い、そちの気持ちも分からんでもないからな。安心せい、余は寛大だ。一回の失敗程度で人をみかぎる程、余の器は小さくはない」
シャディールは、セヴランの行いを何も咎めることはないと、子供を慰める親のように、優しい笑みで認めたのだ。おそらく、セヴランの立場ならば、多くの者が安堵し息を吐くだろう。
けれど何故だろうか、この時セヴランは、異常なまでの不安感に苛まれた。しかし、それは自らの失敗に対してではない。シャディールの笑みが、その裏に何かを隠しているような気がし、セヴランは恐ろしさから震え…………
「そちの意見は分かっておる、つまり……フィオリス王国は自らの国を守れない故、終焉から助かる為に力を貸してほしい……こういうことだな」
「ッ――――――」
この瞬間セヴランは、自らが手のひらで踊らされていたことに気づき……そして、フィオリスの未来への道がほぼ閉ざされたのだ。
セヴランはこの時、全身の穴という穴から汗が流れていた。時間は止まったように音が遠退き、自身の心臓の鼓動がうるさい程に響いていた。
……まずいまずいまずいまずいまずい!やらかしたやらかしたやらかしたやらかしたやらかしたッ!シャディール、お前の狙いはこれだったのか、くそッ!!これじゃあ、俺がフィオリスに力がないことを証明させられたようなもんじゃねぇかッ!
この謁見で、セヴランが抱いていた違和感は、シャディールが語らなかったことにあった。これまでの会話は、確かにセヴランが主導して行った。無論、内容も話したかったことで間違いない。けれど、ここでセヴランが自分から話したこと、これが間違いだったのだ。
セヴランの言うとおり、終焉に対する考えはどこもあるだろう。そして、普通に考えて全ての人間が協力できれば、それが理想だろう。しかし、現実にはそう上手くことは運ばず、利権や損得など、多くのことが国同士のやり取りでは絡み合う。今回、国同士で手を結ぶ案を出したのはセヴラン――つまりはフィオリス側。これは、フィオリスが助けを求めているように、パラメキアからすれば捉えれるのだ。そんなつもりがセヴランになくとも、その発言をどう捉えるかは相手次第だ。
今になって後悔したところで、既に後の祭りだ。セヴランは、この発言を取り消すことなど間に合わず、次をどう繋げるかを考えるしかない。が、まともな思考能力は焦りから徐々に失い始め、苦しい状況に陥るのだった。
どうも、作者の蒼月です。
さてさて、セヴランはしてやられましたね~というか、こういうのに慣れてないですからね(仕方ない)。
普通、こういう交渉などは、国の代表同士や外交官的な存在がしますが、フィオリスの国の代表はリーナ……セヴランよりも、交渉なんてのは向いてないですからね。キルなんか不可能ですし、ほかも同様。どのみち、フィオリスサイドは不利なスタートでした。けれど、ここから状況はいくらでも悪化させれます。故に、セヴランからしたら、少しでもマシな状況に戻す為、四苦八苦するしかないんですよねぇ…………
次回はおそらく、シャディール視点が主かと思います。
では、次も読んで頂けると幸いです。




