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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第二章~旧トワロ街道攻防戦~
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第十九話~霧に包まれ~

 夜が明け台車と兵士達の姿が薄暗く照らし出される。夜の行軍が終わり、兵士達からは安堵の吐息が漏れる。

 鳥のさえずりが朝を告げ、台車に揺られ痛む節々を押さえながらセヴランは目を覚ます。正面にはまだ熟睡したままのシンがアホずらをしており


 ……なんでそんな寝れるんだ、今度聞くか


 セヴランは台車に立て掛けてある剣を腰に差し、台車を降りると先頭の台車へ向かう。



「随分と遅い朝だな」


 カーリーは足音でセヴランと判断したのであろう。腕を組み、目を閉じた状態で言葉だけを向ける。

 セヴランは見られていないことを承知で敬礼し


「遅れて申し訳ありませんでした」


 セヴランの言葉が面白かったのか、カーリーは軽く鼻で笑い


「別に気にしなくていい、夜の行軍は疲労がたまりやすい。それに、訓練も無しに初日から初の任務だ、多少の睡眠では休まるものも休まらないだろうに」


「そうですね、他の者はもう少し休息が必要かと。霧が開けるまでには部隊の交代をしたいところですが」


 カーリーが隣を指差した為、セヴランはカーリーの隣に腰掛ける。


「どうだ、初任務の感想は」


「まだ何もしてないですよ」


「入隊初日から小隊隊長なんて異例のことだぞ、もっと喜ぶものなんじゃないのか?」


「お言葉ですが、自分は出世するために軍に入ったわけではないので、正直どうでもいいです」


 普通の将官が聞いていたならば、不敬罪に問われてもおかしくない言葉をセヴランは悪びれもなく並べてゆく。


「正直者だな、私は素直なのは好きだが他の者に対しては気を付けておけよ。それと、便宜上ではあるが部隊を指揮するためにも、お前には少尉の階級が与えられるだろう、心の片隅にでもおいておいてくれ。」


「了解です」


 セヴランはカーリーとをやり取りをしながら、台車に揺られ霧の中を進むのであった。




 しばらく無言になり口を開かなかったカーリーが座っている台車を指で軽く叩き


「カーリー隊長、どうかしましたか?」


「何かおかしいと思わないか」


「何か……ですか?」


 セヴランは辺りを見回すが特に変わった様子はない。周囲は静かに霧が広がっているだけであった。

 しばらく考えセヴランはカーリーの言葉の意味に気付き


「静かすぎる……生き物の気配すらない」


「そうだ、初めは単に朝だからかとも考えたがこれは異常だな……」


 カーリーが腰の剣に手をかけセヴランも周囲に警戒を配る


「セヴラン、おそらく我々は囲まれている。第一小隊と第二小隊に伝えてこい、だが敵に悟られないよう寝たふりを続けるようにも指示しておけ」


「了解」


 セヴランは音を立てないように慎重に、しかし素早く後方の台車に向かった。




 台車で寝ているシンの頭もとに座り、小声で


「シン、起きろ」


「そろそろ交代ーー」


「いや、お前達はそのまま寝ておけ。周囲を囲まれた。」


 シンは言葉から状況を理解し、寝たふりを続け


「数は?」


「分からん、俺は後ろの第一小隊にも伝えてくる。動きを悟られないように気を付けつつ、他のやつらにも伝えてくれ」


「分かった、お前も気を付けろよ」


 シンは寝返りーーのような動きで他の小隊員に伝令をまわしていく。それを確認したセヴランも、腰を上げ他の小隊長に伝令を伝える。

 各小隊に情報が行き渡りそれぞれ戦闘態勢に入る。初の実戦が目の前に迫りその場の殆どの者が緊張に呑まれ、恐怖か、武者震いか震えるものも多数いた。そんな中、セヴランは伝令を終え、カーリーの隣でいつもと変わらない様子で状況を観察していた。

 この様子からカーリーに更に評価されていたこと、そして台車を取り囲んでいた集団がその輪を縮めていたことを、この時はまだ、誰も知るよしはなかった……。

どうも、作者の蒼月です。

今回本当に短かったです。すみません、次からは普通に戻ります。m(__)m

では、次も読んでいただけたら幸いです。

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