第三百十四話~迫る者達~
太陽が地平線に掛かり始め、まぶしい日差しが射し込む時間、パラメキア帝都の城の入り口にヴァンセルトの姿があった。彼は夜が明ける前に最速で飛ばし、この城にたどり着いていた。文官からの召集命令とは言え、階級的にはヴァンセルトが上なのだから別に従う必要もないが、わざわざヴァンセルトに急ぎで召集を掛ける意味が分からないほど、ヴァンセルトも無能ではない。
自身がここに召集された理由、それはパラメキアの今後に関わるものか、あるいは皇帝に関わる事案であることだろう。それを確認するために、彼は城に入るなり警備の兵を捕まえ
「他の文官達は何処にいる」
「これはヴァンセルト卿ッ!ヴァンセルト卿に召集が掛けられたのは、確か昨日の筈では――」
「何処にいると聞いている」
「はッ、申し訳ありませんッ!五文官の方々でしたら、おそらく大会議室辺りにいるかと……」
「分かった」
ヴァンセルトは一言だけ礼を告げると、視線を合わせることもなく隣を過ぎ去ってゆく……。
だが兵士は、珍しく見るヴァンセルトの苛つく感情が見えていたことに込み上げる恐怖を抑えきれず、足がすくみ硬直してしまっていた。やがてヴァンセルトが過ぎ去り、その足音が消えたことを確認すると
「はぁ……ヴァンセルト卿、やけに苛ついていたな……文官達の動きも慌ただしいし、こりゃあ何かあるのか」
この国の代表や顔とも言える人間の苛つきは、下手をすれば部下へとしわ寄せがくることがある。ここにいるのは皇帝直属警護近衛隊だが、正式に皇帝の直属の兵はロイヤルガードの三人のみだ。ここの兵士はヴァンセルトの直属の部下とも言えるだからこそ、その変化には敏感なのだ。
自身の仕事に集中したまま、兵士はヴァンセルトの苛立ちがこれ以上大きくならないことを願うのだった。
城の入り口で兵士から文官の居場所を聞き付けたヴァンセルトは、大会議室の扉を音を立てて開け放つ。文官が揃う部屋の扉をノックもなしに開いたことで、部屋の中の文官達は驚き視線を扉に集めさせた。一体何事かという状況を引き起こしたヴァンセルトだが、別に特に気にすることもなく文官達へと近づき
「どういうことだこれはッ!」
「ヴァンセルト!?どうしたのだ」
「いや、ここまで来てくれたことに感謝しよう。助かった――」
「だから早く言えと言っているッ!」
ヴァンセルトは、膨れ上がった怒りをぶちまけるように、力任せに拳を机へと叩きつける。ロイヤルガードが、それもヴァンセルトが感情に任せた行動を見せるなど、文官達は度肝を抜かされていた。
「ヴ、ヴァンセルト……一体どうしたというのだ、お前ともあろうものが……」
「……呼び出したのはお前達の方だろう。そしてその要件は、どうせ急を要するものだろうに……だから、わざわざ私を呼び出したのだろうが」
「そ、それは確かに……間違いではないが……」
「言ってみろ、まあ大方の想像はつくがな……七極聖天が攻めてくるか。それとも、フィオリスのブラッドローズが攻めてくるか。あるいは、陛下に直接関わる問題が出たか……ま、このどれかといったところか」
『………………』
部屋に揃っていた五人の文官は、ヴァンセルトの遠からずも間違いではない予測に、沈黙して表情を固めるしかない。
「まあ、少なくとも私の領地にも情報が来ていないのだ。なら、七極聖天が攻めてきたというのもおかしい。それならば、既に迎撃しているだろうからな。なら次にブラッドローズが攻めてくるということは……あり得ないな。フィオリス側から仕掛けてきては、単に自滅を招くだけだ。あのバーンズや、セヴランのような男がいるなら考えられない…………と考えれば、陛下に関わる案件の可能性が、一番高いか」
「…………そうだヴァンセルト、お前の予測は正しい。今回お前を呼んだのは、陛下宛に送りつけられてきた手紙についてだ。どうしても、これに関してはお前の意見も聞いておく必要があるからな」
五人の文官は、ヴァンセルトの予測は全て合っていることを肯定すると、頷きつつ机に手紙を置く。それは、ブラッドローズ――それも、フィオリス代表として送られてきた手紙であり、文官達が頭を悩ませる理由はヴァンセルトにはよく理解出来た。
手紙を手に取るとその文章に軽く目を通し、ヴァンセルトは踵を返し
「まてヴァンセルト!どこへ行くのだ?これからこれを、陛下に伝えるかどうかを議論せねば……」
「議論など……そんなことは時間の無駄だ。それよりも、早く近衛兵を展開する方が先だ」
「何故?その為に、お主をわざわざ――」
「その手紙に書いてあるのは、謁見をしたいと求める文だけだろう。本当に陛下相手に交渉をする席を求めるなら、外交として行うだろう。だが、こんな要件だけを書いた文章を相手は送りつけてきているのだ、これは要求ではなく通達だ。おそらく、ブラッドローズはここに来る……それも、そう遠くないうちにな」
ヴァンセルトの分析に、文官達はブラッドローズという存在に対し、礼節を欠いた無礼な者達だと判断したのだろう。五人は、それぞれ思い思いの想像を得て
「何を考えているのだ、フィオリスの連中は」
「これは皇帝陛下に対する侮辱だぞ」
「これを、交渉の材料に用いるのも悪くないかもしれんの」
フィオリスを攻める言葉も、少なからずそこには生まれる。パラメキア側からしたら当然であり、国をまとめる文官としては国の代表を侮辱されるような扱いは気に食わないのは当然だろう。
けれど、ヴァンセルトはそうでないと一度だけ振り向き
「元は、我らが一方的に攻めいった側だ。彼らを利用しようとし、今もこうして戦っている。そんな状況で、敵国に礼節を求めるなどどうかしていますよ。相手からすれば、悪はこっちなのだからな……」
ヴァンセルトは文官に言葉を残すと、急ぎブラッドローズを迎える為の準備の為、着いたばかりの大会議室を後にするのだった…………
どうも、作者の蒼月です。
いやぁ、またまた投稿遅れて申し訳ないです。やっぱ、なかなかリアルの忙しさには勝てませんね。とりあえず、中の人も1日ぶりに寝れます(白目)
内容は、まあいい感じで進めれてる感じです。この調子で、明日も書いていきたいです……
では、次も読んで頂けると幸いです。




