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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第二章~旧トワロ街道攻防戦~
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第十八話~闇夜の行軍~

 欠けた月に照らされた道を二頭の馬が駆ける。整備もされていない荒れた道を、馬はもたつくことなく並んで駆ける。

 馬に股がり道を駆ける影の一つが声をあげる。


「お嬢!これ以上速度をあげると馬が持ちませんぜ!」


 訓練兵舎からパラメキア方面国境へと急ぐバーンズが、リーナへ注意を促す。


「分かっているわ!けど、これ以上時間をかけて国境がこれ以上押されるのは阻止しないといけないもの、多少の無理は仕方ないわ!」


 馬の速さ故、聞き取りずらくならないよう叫ぶリーナの声が辺りに響く。


「まったく、貴重な馬を失って文官に文句を言われるのは俺なんですぜ!」


 今の時代、人の食料だけでも賄うのが精一杯な為、馬など育成に手間のかかる動物は軍用といえどもなかなか育てることが出来ない。輸送に使われるフェザリアンは栄養価の低い雑草などでもある程度育ち育成が楽なため馬などよりも優先的に育てられる。結果、馬はその機動力こそ優秀なものの早馬用などの少数のみが育てられている。

 今回二人が使用している馬も、王都で早馬に使われていた所を文官に無理を通して借りてきたものであった。


「大丈夫、貴方が責められるだけで私は関係ないもの、いつもみたいに諦めてちょうだい」


 バーンズは『はぁ』とため息をつき、いつものことと諦め文官にどう説明するかを悩むのであった。

 バーンズとリーナの二人は馬の速度を上げ、国境へと急いだ。




 カーリー率いる輸送部隊は出発から数時間、特に変わった様子もなくスムーズに行軍していた。第一小隊が台車前方で矢の形で隊列を組み、第二小隊は台車を取り囲む用に展開、本来ならば訓練を必要とする連携を維持し続けていたのは奇跡的なものであった。

 カーリーは先頭の台車に座り各小隊員に目を光らせていた。新兵の士気は高いとはいえ、慣れない連携に足場の悪い夜道神経のすり減る用な条件の中での行軍、少しでも気を抜けば連携は維持できなくなる為カーリーは定期的に間隔の指示飛ばしていた。

 カーリーの視線の先、第一小隊の一人が


「うわっ!」


「なんだ!?何があった!」


 声をあげた一人が草むらを覗き込むと


「すみません、なんかの動物みたいでした。」


「はぁ、引き続き警戒!」


 動物の動く音でさえ、今の状況では警戒に値するものであった。このようなやり取りを何度も繰り返し、既に五時間を超え第一小隊と第二小隊の疲労は放置できるものではなくなっていた。

 第二小隊小隊長のセヴランは小隊員の疲労が顔に現れたのを確認しカーリーのもとへ向かう


「カーリー隊長、そろそろ他の者も疲れてきています、一度第三、第四小隊と交代するべきでは」


「お前もそう思うか、そろそろだとは思っていたからな。丁度いい、第二小隊は第四小隊と交代、チェルダーに引き継ぎをしろ」


「了解しました」


 セヴランは敬礼だけすると踵を返し、先頭から最も遠い最後尾の台車に控えたチェルダーのもとへ向かう。


 

 いくらか歩き、最後尾の台車にたどり着くと顔を出していたチェルダーに敬礼をし


「カーリー隊長より台車の警護を第四小隊に引き継ぐよう言われました、第四小隊は台車の周囲で展開、警護に移ってもらいたいのですが」


「了解だ、さあ皆仕事だ、気を抜くんじゃないぞ」


 チェルダーは台車に控えた第四小隊の面子に声をかけ立ち上がる。引き継ぎが伝わったと確認したセヴランは再び先頭の台車に戻って行く。



 セヴランが先頭の台車の後ろに腰掛け、休息をとり始めると第二小隊の面子もそれぞれ二代目の台車に集まり各々休憩を始める。作戦開始前に各小隊の休む場所は指示されており、第二小隊は二代目の台車であった。

 交代を終えて台車に来たなかには第二小隊副隊長のシンもおり、シンやセヴランと連携をとれるという理由からアレイやリョナの姿もあった。シンは台車に吊る下げていた袋を二つとり、一つをセヴランに投げ


「今日の分の食料だってさ、今のうちに食っとこうぜ」


 セヴランは投げられた袋をキャッチし、袋を開く。

 中には拳ほどの大きさのパンが二つ入っており、更に水の入ったボトルも用意されていた。


 ……一食だけでもかなりの量が貰えるんだな


 フィオリス王国の食料事情はかなり辛いものであり、各村などで作られる食料の半分ほどは軍にまわされている。それでも軍の食料は必要量のギリギリであり、王都では更に食料の回収量を増やすかの検討が日夜行われていた。

 現在は軍がいなければレギブスやパラメキアに侵略されるのが分かっているため、国民は不満はあれどもそれを表に出すことはしていない。しかし、このままの食料事情がつづけば国も軍も疲弊し、餓えに苦しむ日々が来るのは誰もが理解していた。


「腹は膨れるけど、やっぱ味はないな」


 シンがパンを口に含み、咀嚼しながら味の感想を述べる。

 セヴランもまた味がないというところは心のなかで同意しつつも


「味なんかなくても、食えるだけましだろ」


「まあ、そりゃそうだけどよ」


 セヴランとシンはパンを食べ終え、乾いた口を潤すためにボトルの水を喉に通す。周りもで同じようにパンを食べ終えた者が増えてくる。皆が食べ終えるのをセヴランは見計らい


「飯を終えたなら今のうちに軽く寝ておけ、まだ国境までは日数がかかる、今のうちに体を休めるように」


 セヴランの言葉で第二小隊は各々剣や斧を抱えるか、手にかけたまま仮眠につく。シンもあっさりと眠り、セヴランは羨ましいと思いつつ月を眺め時間をかけながら眠りについた…………。




「あれだな、間違いないな」


「えぇ、こっちで確認したのと同じです」


「よし、全員に伝えろ早朝の霧と同時だ……」


「了解」


 草むらに潜む影が動く、影の一つは闇に消え、影の一つは動かず眺めていた。闇を動く、七つの明かりを…………

どうも、作者の蒼月です。

久しぶりにリーナが出ましたね、もう少しフォーカスを当てたいのですが物語上仕方がないですね。

では次も読んでいただけたら幸いです。

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