第三百九話~英雄の家族~
街は人で賑わい、崩れることはないのではとさえ錯覚させる繁栄するパラメキア帝都。その賑やかさとはうって変わって、皇帝の住まう城は静かなものであった。
人影はある。ここにいるのは、パラメキア帝国でも有数の文官や軍人が主ではあるが、それ故に帝国をまとめる者達の数は多い。あとあるのは、城、そして皇帝を警護する近衛隊達であり、彼らは揺れることもなく、石のように立ち並んで警護をしている。つまり、城に音をならせるのは文官や軍人のみで、静かなものとなっていた。
そんな静かな城に音をならせる者として、ある集団がいた。彼らは、その身をある程度は豪華な身なりに包む、戦いからは離れたような者達。それは、パラメキア帝国において、その統治の管理を行っている文官達である。殆どが、長い間帝国に仕えてきた老人ばかりで、しわで老いを見せながら、今は更にやつれた表情まで追加し、廊下ですれ違った者達に心配をさせるほどであった。
老人の文官は五人で、それぞれが手に持つ下から上がってきた情報をまとめた紙を手に、地獄でも見てきたかのように表示を暗くし
「まったく、どの仕事をしても片付かんわい……」
「このままでは、処理するより先に仕事が増えるな……」
「しかしどうする。この案件は、間違いなく最優先事項だろう。ここで止める訳にもいかん……」
「分かっておる。既に、ヴァンセルト卿へと召集をかけた……できれば、皇帝陛下に伝えずに済むといいのだが……」
「その発言は、どうかと思うがな……皇帝陛下に負担を掛けたくない、と言うのならば話は別だが、そうではあるまい」
文官五人は、とある情報に共に苦しい状況に追い込まれ、頭を悩ませていたのだ。それは、ある手紙が城へ――それも皇帝宛に届いたということ。そう、ブラットローズが送った手紙は、確かにパラメキアへと届いていたのだ…………。
昼時を過ぎ、日が傾き空が赤く染まり始めた頃。帝都の城で、文官達が悩んでいることを知らないヴァンセルトは、自身の領地、帝都と隣接する街にある自身の屋敷にいた。
屋敷といっても、王族貴族が住まう程の巨大な屋敷ではない。一般的な家庭の住まう家より、少し大きい程度の必要最低限のものだ。一国の英雄が住まう場所として、ふさわしくないのではないかという話もあり、過去には豪邸に住むことも皇帝に進められたが、戦場にいることが主なヴァンセルトは、そこまで大きな屋敷を持っても仕方ないと今の屋敷に住んでいた。
そんな屋敷の自室で、ヴァンセルトは紅茶を片手に読書を行っていた。服も軍服は脱いでおり、何も知らない者が見れば多少裕福な家の主程度に見えるだろう。
そんなヴァンセルトがいる自室は、対して物もない簡素な部屋だ。テーブルにイスにベッド、後は数冊の本に飾られた勲章としてのメダル。英雄の暮らしと言えば、国民としては気になる者も少なくないが、実際にはきらびやかでも何でもない、普通とあまり変わらない生活だ。せいぜい、本などはあまりにも高価で、普通ならば持てない程度か。
と、ヴァンセルトの読書をしていたところで、部屋の扉にノックの音が響き、ヴァンセルトは読んでいた本を閉じ
「どうした」
ヴァンセルトは、この部屋に訪れる者を一人だけ知っている。扉が開かれ、そこには同年代の女性の姿があり
「ヴァンセルト、ミーネが帰ってきましたよ」
女性は、ヴァンセルト同様に年を取っていることは隠せない。だが、その物腰柔らかそうな姿からも、第一印象は素敵な女性といったところだろう。
近所……といっても、この領地全体になるが、評判のいいこの女性を、ヴァンセルトは誇らしくも思う。そう、彼女はシャーリー・ラウザー、ヴァンセルトの伴侶であり、長い間助け合ってきた家族であった。そして今、シャーリーの口から名前が上がったのがヴァンセルトの一人娘であり、外に出掛けていたが帰って来たという報告であった。
ヴァンセルトは、二日前にこの屋敷に帰って来て、久しぶりに家族で過ごしていた。中々家に帰ることもできず、いつ死ぬかも分からない身。そんな彼からすれば、この家族と会える時間はとても貴重であり大切だ。そして、娘も帰って来た為、これから今日の夕食の話でもするのかとイスから立ち上がり、気分よく食堂へと向かうのだった。
どうも、作者の蒼月です。
あれれ、新キャラがいつまで経ってもでないなぁ?(想定外の進行)
まあ、嫌でもこの後出るから、今回無理してだす必要はなかったとは言えるけれど……自身のあまりにも適当な進行に、自分でも驚いてます。
まあ、驚く点があるとすれば、ヴァンセルトに家族がいたこととかでしょうか?まあ、別に不思議でもないとは思いますが。
まあ、愛情な間違いなくありますけど、かなり変わってる家庭ですからね(親が国の英雄とか、仕方ない要素も多けれど)
さて、ヴァンセルトは幸せな一時を過ごせるのかどうか
では、次も読んで頂けると幸いです。




