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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第九章~動き始める者達~
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第三百六話~平穏な仕事の日々~

 リナと名乗るリーナと、行商人が話し初めてどれぐらいが経っただろうか。時間にして言えば、結論からすればそんなに話してはいない。しかし、この話し合いで重要なのは、何よりその会話の密度だ。互いに情報を求めて探り合い、意識しなければ聞くこともない相手の領域へと踏み込む。そんな話を幾らか繰り返し、男の方は自身が挑んだ相手の心が読めず、少女を前に嫌な汗をかいていた。


 ……くそッ、なんだこの娘は!聞けば聞くほど、こいつの姿が見えなくなるッ!一体何者なんだッ!


 男は、リナ(リーナ)がどこかの金持ちの娘当たりだろうと検討をつけ、この情報交換を行っていた。だが、男のその予測は、違うものなのではないかと、既にぐらついていたのだ。

 まず、戦争に関係する情報を聞いてきたかと思えば、今の流行りの食べ物について。徴兵についての考えを交換したかと思えば、各地域そのものについてを聞いてくる。

 これで全部ではないが、まず言えるのが知識の多さだ。少女が年相応と言えるような可愛らしい話ではなく、明らかに血なまぐさい系統の話がある。だが、かと思えば帝都以外の知識はないようにも見え、どこかの箱入り娘かとも思える。しかし、どこの世界に軍に興味を持つ箱入り娘がいるのかと、行商人パウは聞きたかったぐらいだ。もし仮に、目の前の少女がどこか天才的な頭のおかしさを持ち合わせているなら納得できるかもしれないが、常識的に考えれば、戦いに興味を持つ――それも、自らが戦うほうの興味を持つお嬢様など、少なくとも男の知識では知り得ない。

 また、自分がどれだけ聞こうとも、この少女は明確な答えを出さない。聞けば納得するような答えだが、確信に至れる情報は隠されたままだ。何故、自らの情報を隠すのか、その理由として考えられることは少なく、パウからすれば、既にリナ(リーナ)という存在が、恐ろしくも見えてきていた。


 ……これ以上、この娘と関わるのは危険だ……絶対に、何かヤバいものに関わってる……。


 パウは最早、リナを得意先の一つにしようなどという考えは無くしていた。早く、この情報交換の席を離れ、いつもの仕事に戻りたかった。関わっていれば、自分が食い物にされる……商売人の勘と言うものだろうか、パウには確信があったのだ。流れている汗は、そんな自身が獲物にされている恐怖感のようなものの表れであった。


「長い間、時間をとらせてしまってごめんなさい」


「いいえ、私としても、新しい人との情報交換は、新たな交遊関係の構築に繋がりますから。私は、行商人故に国内を回っていますが、貴方は此方に?」


「えぇ……そうですね。私はこの辺りにいます、気になったらまた声でも掛けてください」


「では、その時はまた宜しく」


 二人は手を交わすと、リナが笑顔を残して店から去ってゆく。行商人パウは、ただその謎の背中を最後まで見つめ、情報交換の時間は終わったのだった。




「珍しいな、おめぇが客になりそうなのを逃すなんてよ」


 少女リナが去ったことで、自分の仕事を行っていた店主ダンが戻ってくる。この二人は長い付き合いで、ダンはパウの性格を知っている故に、パウの行動に今回は珍しいと言葉にしたが


「おいおい、分からなかったのか?あれはどう考えても、俺の手に負える客じゃないさ」


「お前がそこまで言うなんて……世の中には、すげぇ奴もいるもんだな」


 ダンは他人事と軽い発言だが、少女と対峙していたパウからすれば、冗談じゃないと笑えぬかった。パウは、長年の行商人としての経験から、過去に一度だけ今回よりも緊張――そして化け物と思う人物と取引をしたことがある……。

 それは、ロイヤルガードのヴァンセルトであった。たまたま、他の行商人が誰も暇がなく、たまたま自分が暇だったという理由で、とある客と紹介されたのがヴァンセルトであった。その時は、なんでも紅茶の茶葉を欲しいという簡単な取引であったが、英雄と対峙した時の緊張感は、もう一生のうちに二度と味わえないものだろう。そして、そんな過去と比較して、そこまでとは言わずとも、今回の少女に漂っていた雰囲気はそれに近かった。

 何者だったのか、今さら詮索しても仕方はないが、もしかするととんでもない化け物と出会ったのかもしれないと思い


「はぁ……今日は、あんまり働きたくない気分だ」


「お、ならここで飲んでくか?」


「馬鹿か、仕事はきちんとするさ。ただ……夜には、またここに来るよ。今日のことは、酒でも飲んで早く忘れたいぐらいだからな……」


「じゃあ、ついでになんか上質な果物類回してくれよ!ここ最近、仕入れると高くてな~」


「他より高く買い取ってくれるならな」


「けちだな~おめぇはよ」


 男同士の下らないやり取りは続き、帝都の忙しい朝は流れてゆく。こんな、戦いからは程遠い平和な日常が、パラメキアの帝都では当たり前の風景として存在するのだ…………

どうも、作者の蒼月です。

はい、リーナは色々情報を集めてますが、こんな感じで暫くは情報収集を行ってく感じですね。

ただ、次あたりはセヴランとリーナのデート回みたいな感じになりそうですけどね……

それと同時に、パラメキア皇帝にも、なにやら手紙が届くでしょうし…………


では、次も読んで頂けると幸いです。

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