第十六話 ~変化~
部屋を出たセヴラン達は訓練兵舎の門前、物質輸送用の台車の周りに集まる。いくつもの台車が並べられており、そのどれにも食料が詰められていた。
……台車は全部で七台、かなりの量だな
セヴランが数を確認し、台車の食料を眺めていると
「クェェェェッ!」
「うわっ!フェザリアンか、や、やめろって!」
シンが背後から迫ってきた大型の動物、フェザリアンに頭をつつかれ逃げ惑う。
フェザリアンは大型の長毛種の動物、大人しい動物であり長い歴史の中で人間との関わりが深い種族である。太古から物を運ぶ際にはフェザリアンに運んでもらっていたという書物が残っており、現在でもその体からは想像できないほどの力を生かし、物質輸送や人の移動の足としても活躍している。
「もう集まってくれたのか、本当に手間が省けて助かるな。」
フェザリアンの後ろから、手綱を引いたカーリーが現れる。カーリーは手綱をあらかじめ用意していた柱にまとめて繋ぐとセヴラン達に近づき
「それに副隊長以上の者だけか、なら丁度いい今回の作戦についていくつか説明しておくことがある」
セヴラン達はカーリーを半円状に囲み話を聞く
「今回は夜間の行軍となる。視界は各台車に付けてあるランプの明かりと、幸い月がある。足元を照らすのが精一杯だろうが最低下の明かりで行動することとなる、それぞれの距離を把握し連携がとれるよう意識しろ。また、護衛は第一小隊、第二小隊で一組、第三小隊、第四小隊で一組として交代で警護に当たる。ここまでで何か質問はあるか」
カーリーの言葉に誰も動かない、この程度のことであれば質問は要らないといった様子である。
「よし、警護に当たらない方の小隊はそれぞれ台車の空いた隙間などで睡眠をとるように各員に伝えてくれ。あと、一応新兵用に装備も一式は揃えてあるが……必要なさそうだな、お前達は馴れた装備の方がいいだろう」
カーリーは苦笑気味に笑い、輸送用とは別に置かれた装備を積んだ台車に視線を向ける。視線を戻し、セヴランに視線を戻すと
「セヴラン、私のつまらない用事に付き合ってくれないだろうか?」
「はっ、私は構いませんが」
「では、他の者が集まり次第呼んでもらえるか、私達は向こうで話している。」
『はっ!』
シン、バウル、ギーブは揃って敬礼をし、それを確認するとカーリーは装備を積んだ台車に向かい歩きだし、セヴランも後を追う。
シン達からある程度離れた場所まで移動すると無言だったカーリーが口を開き
「セヴラン、お前はどうしてそこまでするのだ?」
セヴランはカーリーの言葉の意味をとっさに理解出来なかった
「それはどういう意味でしょうか?」
「言葉が足らなかったな、言葉を変えよう……お前はなぜ、そのような力を手に入れた?その氷結と雷の魔法はレギブスでさえ研究の最中である四属から外れた魔法だ、それを利用したあの戦い方は普通の修行で身に付くものではない」
セヴランは無言のまま動かない、動かないことをはじめから理解していたのかカーリーは言葉を続け
「別にその魔法について聞いてるのではない、それに関しては私は聞かないでおこう。私が知りたいのは、なぜ命をかけてまで危険な魔法を使いお前は戦う?」
カーリーの言葉にセヴランの拳が強く握られる、セヴランは深く息を吐き
「私の家族は五年前のレギブスとの国境での小競り合いの際、レギブスの軍に殺されました……。親がどのように死んだかなどは知りませんが、同い年の姉……血は繋がってないので義理の姉ですが、私はリーナを守ることが出来なかった…………」
セヴランは視線一度落とし握った手を眺める、その握られた拳を開くとカーリーと目を合わせ
「その時、リーナを拐った兵士に言われたんです「お前には力がない」ってね、それで思ったんですよ、力さえあれば……と、そんな時に私は師匠と出会い殺されかけました」
「子供に危害を加えるとは、随分と野蛮な師匠なのだな」
カーリーは呆れた顔でため息をつく、セヴランもその通りと言わんばかりに笑い
「えぇ、ですがお陰で私はこの力を得ました、命をかけた修行でしたがね。そして誓ったんです、力がない者に力あるものが我が物顔で力を振るのを許さない、力なき者全てを守ってみせると。」
セヴランの言葉には力がこもっていた、過去の無力だった己を払拭するため、己自身を変えるために。
「なるほど、お前の気持ちはおよそ理解した。だか、一つだけ忠告しておく」
カーリーはセヴランの肩に手を置き、目を閉じると
「お前が守りたいものが何なのか、それを見失うな。見失えばお前は……無力なお前に戻る、そして後悔する、それだけ覚えておくといい」
「それは……」
「カーリー隊長!全員集合完了しました!」
セヴランの言葉はシンの報告に書き消され、セヴランはカーリーと共に再び門前に移動する。
言いかけた言葉をセヴランは続けず作戦へと気持ちを切り替える。しかし、カーリーの言葉が心に残り続け、セヴランの気持ちには疑問だけが残るのであった……。
どうも、作者の蒼月です。
今回の話はある程度重要なのですが、自分は面白いと思えないんですよね、これ。出来る限り今後は面白くなるよう努力していきたいです。
では、次も読んでいただけたら幸いです。
 




