第十五話 ~長き夜の始まり~
「……は…………どうする……」
声が響く。誰のものかは分からない、しかし語りかけてくる。
「お前はどうするんだ」
少年は目を開け、視線を上げる。声の主である年老いた男は捨てられたごみを見るかのような目で少年を見下ろし
「お前は力には無かった、だから大切なものを失った。それだけのことで当たり前なことだ。」
少年は拳を力なく地に叩きつけ涙を流す。男はしゃがみ少年へ顔を近づけ
「悔しいか、なら強くなれ、お前が望むなら力を与えてやる。その悔しさ、怒り、憎しみに囚われるな、お前の全てを懸けて何かを守ってみせろ。これはその為の力だ……。」
男の声が聞こえなくなり、少年は徐々に意識を失っていく。意識が途絶え光を失い
……こんなこともあったっけな……
光が戻り、セヴランは目を開け夢から覚めた……。
「よう、起きたか?」
開けた視界の正面にシンが割り込んでくる。
「あぁ、カーリー隊長は?」
「それがいつまでたっても来ないんだよ、何処にいるかも分かんねぇし」
窓の外では既に太陽が落ちかけており、夜が近づいていた。
……俺、かなり寝てたんだな、隊長が来なかったのは好都合だったか
セヴランの体は模擬戦での疲労が抜けておらず、セヴランの想定異常に眠っていた。気絶に近い睡眠だったため、周りの音も気にせずセヴランは熟睡していた。
「俺達何するんだろうな」
シンが不安げな表情を見せるためセヴランは体を起こし
「夜まで来なかったってことは何か予定外のことでもあったんだろ、この場合の予定外はろくなことじゃなさそうだけどな」
それからしばらくセヴランや部屋の誰もが楽しい平和な時間を送っていた。しかし、そんな平和な時間は終わりを迎えた。
……ギイィィィィ……
部屋の扉が開き、部屋が静まり返る。扉からカーリーが現れ
「待たせてすまなかった、これより君達に初の任務を与える。」
カーリーの言葉に誰もが息を飲み、体に力が入る。
「君達の初の任務の内容は輸送作戦の護衛役だ。」
部屋が騒然とし新兵の誰かが声をあげる
「護衛役は他にどれだけの戦力があるのでしょうか?」
「私と私の部下の二人、そして君達だけだ。」
部屋が再び静まり返る。何を言っているのか分からないといった表情の者が多数の中、セヴランや一部の者は己の中で考えをまとめ始める。
セヴランは目を閉じ、情報を頭に並べていく。
……俺達新兵は四十八人、カーリー隊長や部下が指揮官として部隊を組むなら各部隊に十六人の新兵を入れた十七人の構成か。初の実戦で動ける人数は限られるだろうから、戦闘になれば戦力はこれより落ちるか……。それに、新兵にいきなり輸送作戦を丸投げするこの状況は……
セヴランが考えをまとめるなか、カーリーが言葉を続け
「これにともない、部隊編成を伝える。君達は計四つの部隊に分ける」
……四つ!?まだ指揮官がいるってことなのか?
セヴランは想定していなかったカーリーの言葉に新たに考えをまとめ始めるが
「部隊は第一小隊から第四小隊までの四つ。第一小隊の指揮官は私が、第三、第四小隊はそれぞれ私の部下が引き受ける。そして第二小隊は……セヴラン、お前が小隊長だ。」
セヴランの口が開くが声が出ない。周りも同様に唖然とし
……俺が、指揮官?隊長は何を言ってるんだ
話を理解出来ず沈黙したままのセヴランに、カーリーは顔を向け
「どうした、何か問題が?」
カーリーの言葉にセヴランは何もかもが問題だと食い付き
「問題もなにも、私は部隊指揮の経験などないんですよ、まともに部隊の指揮などできるはずがないです」
セヴランは事実上の拒否の返答をするが、カーリーは
「既に君は軍の兵士だ、君に拒否権はない」
セヴランはそれ以上言葉を続けない。軍に、入隊した時点でこうなることがありえるのは理解していた。それでも、カーリーの命令はあまりにも重たいものであり、本来ならば新兵にくだされる命令ではない。カーリーはセヴランが黙るのを見計らい
「現状において部隊を三つに分け運用するのが効率がいいだろうが、国境での全線に到着次第君達は本部直下の遊撃部隊として動くこととなる。その為にも部隊指揮の経験は必要なものだ、お前を選んだのは模擬戦での実力を評価したからだ。これで、理解してもらえたかな?」
しばらくセヴランは
「了解しました。第二小隊の小隊長、全力でやらさせてもらいます」
「助かるよ、それでは話の続きだ。第二、第三、第四小隊には副隊長をもうける。第二小隊はシン、第三小隊はバウル、第四小隊はギーブが副隊長だ。異存はないな?」
誰も異存はなかった、異存をとなえられるほど考えが回る者は少なかった。
そんな中シンが手を上げ
「あの~」
「なんだ?」
「副隊長はいいんですが、俺達の名前をいつ知ったんですか?」
シンの疑問にカーリーは目を瞑り
「そういった情報を調べたりしていてここに来るのが遅れた、そういうことだ」
シンの納得したといったいった表情を確認したカーリーは
「各部隊の詳細についてはまた後に伝える。次に作戦内容だが、我々の任務は配給の滞っているレギブス方面軍の食料類の輸送の護衛だ。この輸送とともにレギブス方面軍に合流し、全線を支えるのが我々の役目だ」
「そんな重要なものとなると山賊などに狙われるのでは?我々は戦闘の素人ですが大丈夫なのですか?」
ギーブが周囲の意見をまとめカーリーに質問する。
「君達が戦うのだ、なんとかするしかないと思うが、違うかね?」
「なるほど、これは大変そうですね」
「そうだ、戦力はかなり不安なところではあるが、君達の奮戦に期待する、なにもないにこしたことはないがな。では各部隊の振り撒けについてだが…………」
「…………以上で各部隊の振り撒けは終わりだな」
各部隊の振り撒けにはいくらかの時間をかけて行われた。振り撒けも終わり、初任務を前に新兵の士気は最高点に達していた。
「この輸送作戦は既に時間が残されていない、本来なら早朝に出発しトワロ街道を進むところだが、今回は夜間の移動に加え進むのは旧トワロ街道だ、各員、必要な準備を済ませ門の前に集合だ!以上!」
カーリーは部屋を立ち去ると同時、部屋がやる気に満ち溢れた新兵の声で盛り上がる。熱気に包まれる部屋だったが、うち数人がカーリーの後を追うように出ていく。
「旧トワロ街道か……あそこは足場が悪いうえに見通しも悪い、護衛をする場所としては最悪な環境だな」
部屋を出た数人の一人、バウルが作戦についての問題を提起する。
「しかし、あそこを通れば国境まで七日はかかるところを三日と少しに短縮できます。食料の配給は急を要するにものですからね、こればかりは仕方ないでしょう」
バウルの意見にギーブが意見を返す。ギーブの意見は正しく、理由としては納得できるものだった。しかし、シンが割り込み
「けどよ、昼ならまだしも夜となれば明かりがないと進めねえぜ。どう考えても山賊に襲ってくださいって言ってるようなもんだぜ」
シンが頭の後ろで腕を組み何かを悩んでいるがセヴランは気にせず
「ぼやいても仕方ない、輸送作戦なら物資を守るのが俺達の仕事だ、山賊相手に引けはとれないぞ」
各小隊の小隊長と副隊長が全員何も言わずに揃ったのは、それぞれの意識の高さだろう。皆、この作戦の重要性を理解しており士気は新兵のなかで最も高いメンバーであろう。
四人は歩きながらも作戦の話を続け、急ぎ門に向かうのであった。
どうも、作者の蒼月です。
今回久しぶりに3000字ほどになりました。ここで日常パート(?)が一区切りつくので長くなりました。ここから章のタイトルでもある旧トワロ街道攻防戦に入ります、もともとプロットがなかったので少し不安ではありますが。
では次も読んでいただけたら幸いです。




