第二百八十二話~重い使命~
リーナの発言に頭を抱えたくなる面々ではあったが、リーナの発言をおいておいても仕方なく
「それでリーナ穣は、今度は何をするつもりなんだ?」
バーンズが、他の誰もが聞きたいであろう話を聞き、皆の耳がリーナの言葉を待つ。そもそも、ブラッドローズはまともな連中の集まりではない。これまでも、ロイヤルガード相手にアイゼンファルツ基地を奪還してみたり、パラメキアとレギブスの戦いに介入してみたりと、常識の枠に当てはまらない動きをしてきた。結果として、それは何かしらの利益をもたらしてきたわけであり、セルゲノフやラディールからすれば、危険な真似は止めてほしくとも、止めることは出来なかった。
そんな不安や期待の入り交じるような視線を受け、リーナは机に右手をつき
「ブラッドローズの一部を使って、パラメキア帝都――グラムヴァルドに潜入してみようと思うの」
その言葉を受け、部屋に何を言ってるんだと言わんばかりの重たいため息が再び流れたのは、言うまでもなかった……。
「……リーナ様、面白い案ではあると思いますが、また些か飛んだ発送ですな」
「えぇ、パラメキア方面軍としても、彼処に向かうのは危険かと思いますが……」
リーナの発言に、セルゲノフとラディールは真っ先に危険と否定をする。リーナが最後の王族だとすれば、それは尚更当然であり、セヴランも納得するが……当のリーナは納得するわけもなく
「でも、実際いい案だと思うのよねぇ~この戦争止めるにしても、まずは相手を知ることが必要でしょ?それに、ただ戦ってもパラメキアやレギブスに勝てる訳がないのは、貴方達も分かってる筈よ?」
「おいおい、それ言っちまったら、誰も反応できなくなるぜぇ」
リーナの反論は、誰も言い返せるわけがなく、黙り込むしかないセルゲノフとラディールに、バーンズは苦笑を抑えるように笑っていた。
今のフィオリス王国の状態――王政府は最早存在せず、軍は他国に負ける。国力、技術共にパラメキアとレギブスに対し勝る点は少なく、この戦争で勝てる筈がないのだ。
この国は、比較的平和を貫いてきた。しかし、その平和は針の上に成り立つような、いつ崩れてもおかしくないようなものであり、それはここにいる誰もが痛いほど理解している。
レギブス相手に、サファクイル基地は三日しかもたなかった。また、それより以前には、アイゼンファルツ基地は僅か数時間で陥落させられた。両方共、何とか取り返してはいるものの、両国は未だ本気を出して進攻をしたことがない……にも関わらず、防衛の要である基地がいとも簡単に落とされるという事実。これが意味するところは、今の軍では守りきれないということだ。
両基地は、今はリーナから託された最後の戦力である兵を含め、強化は図っている。しかし、同時に両方面軍とも大将であった指揮官を失い、こうしてセルゲノフとラディールが来ているのが現状だ。たかだか兵を増やしたところで、焼け石に水なのは自明であった…………。
その苦しい事実を指摘され、確かにそうだとセルゲノフとラディールも、認めざるをえない。二人は理解したと頭を下げ、意見を取り下げたのだった。
「二人は納得してくれたようだけど、後は……セヴランは、何か言いたそうね」
リーナは、反論だろうと全てを聞くつもりでいる。そのため周囲を見渡し、眉間に皺を寄せていたセヴランの意見を聞こうとしていた。セヴランからすれば、一人で勝手に悩んでいたところを聞かれ、少し驚くが
「いや、二人が納得したのならいいんだが……気になるのは、政府がないって言ってたが、国はそれで大丈夫なのか?」
質問をしてもいいならと、セヴランは疑問を口にする。おそらく、今の現状を知った者なら誰もが思うであろう疑問であり、リーナもそのことかと理解し
「政府ねぇ……それって必要なものなのかしら、セヴラン」
「なに?」
「よく考えてみて。少なくとも私達の村では、国のお陰で生きていたってことは殆どなかった。あったとしても、せいぜい軍が守ってくれてたって程度でしょう?まあ、実際には守られなかったけど」
「つまり、国はなくても生きていける……と、そう言いたいのか?」
「どうかしら。私は、あまりそこら辺の考えるのは苦手だから、よく分かんないわ。けど、国はあくまで形の上での話。実際には、農民が作った食料がなければ、私達は生きていけない。そういう意味では、国は民に生かされているってことじゃないの?」
リーナの言葉に、更に畳み掛けるようにバーンズも続き
「確かに、政府がなくなれば国政を回すのは大変だぜ。けどよ、殺されちまったもんはどうにもなんねぇ。それに、いてもいなくても国民からすりゃ、実際のところ生活は変わるわけでもねぇしな」
殺されたと言う、バーンズの発言。ここから連想できるのは、権力争いや暗殺だろうが、今王政府がないということを鑑みれば後者だろう。王族を暗殺され、政府がなくても国は回る…………確かに正直なところ、民が食料を作り、それを軍が守る。政府は所詮、その関係を維持させ国を存続させているに過ぎない。軍が直接その仕事をしているならば、政府はいらない。あまりにも空想的な話だが、それが現実だと思うとセヴランは渇いた笑いが込み上げ
「こりゃ、この国はもう長くないな…………」
いつ崩壊してもおかしくない国の現状に、セヴランはますます、この戦争を終わらせる必要があると思い知らされるのであった…………
どうも、作者の蒼月です。
政府がなくても国が回るって、どんな世界だよ……と突っ込みたくもなりますが、まあ汚職なんかもないでからね、皆真面目に生きてる、理想の社会主義にでも近いのでしょうか。(まあ、全然違いますけど)
軍の人間がそこまで真面目なのは、そうでもしないとやっていけないって分かってるからなんですよね。もし、レギブスから流れてくる難民を受け入れたりしていたら、レギブス同様食糧難は避けられませんでしたし、フィオリスの今の生活も無力でしたからね。
リーナが王族なんだったら、リーナを正式に王女したらいいかとも思われるかもしれませんが、そんなことしたら、わざわざ前王がリーナを隠していた意味が無くなりますしね。どうせしないので言っておくと、リーナが王族とバレた瞬間、リーナが何者かに殺される確率は70%ぐらいまでは上がりますから(生きて帰れねぇ……)
と、そんな感じでギリギリのフィオリスから、今日もお送りしました。
では、次も読んで頂けると幸いです。




