第二百七十四話~異なる道を選ぶ者達~
ヴァンセルトとバーンズ、英雄と呼ばれる二人の沈黙。流石にこれには、セヴランもリーナも、ましてバウル達も口を挟むことが出来ない。どうにも出来ない空間で、セヴランとリーナ、バウルの三人は、言葉を発することなく視線を飛ばし、並の者では出来ない意志疎通を焦りから可能としていた……。
(ねぇ、これどうするよ?)
(どうするも何も、俺達にどうこうできるものじゃないだろ)
(けどよセヴラン、お前が聞くしかねぇだろ、これ)
(俺かよ!いや、そうだろうけどさ……)
三人は、この空気の重さから同じことを考えているからなのか、その視線を交えるだけで会話が行えているという異様な行動に疑問を持つことさえ出来ず、そのまま会話――とは言えない何かが続けられる。
(セヴラン、早くバーンズに聞きなさいよ)
(いやいや、ここでどう聞くんだよ!?あの二人にどう聞けって)
(おうセヴラン、諦めて直接聞くしかねぇなこりゃ)
正直セヴランは、バーンズが隠しているということを聞ける自信などなかった。これまでも、キルのことでさえ知れたのはキル自身が言ったからだ。バーンズの過去をリーナも知らない以上、セヴランが聞いたところで答えが返ってくるとは思えない。
そんな三人の悩む中、時間は更に沈黙のまま流れ…………一人の少女が、遂に沈黙を破った。
「なぁなぁあんちゃん、いつまでこれ続くんだ?もう寝ていいのか?」
「え、あぁ、いや、ここで寝るのはどうかと……」
沈黙を破り、この重い空気を全く気にしない言葉を上げたのは、こんな話はどうでもいいとモースのベッドに座り、じっと出来ずにもぞもぞとするリルムであった。セヴランは、急に話し掛けられたことには驚くが、リルムの言葉には濁してしか返答出来なかった。
リルムは、その行動は自由奔放な子供そのものだ。セヴランも、これまでに関わりを持った時間はあまり長くないが、それでも軍にいるには異質な者であることは間違いない。そんな彼女は、セヴラン達であれば口になかなかしないようなことも、きっぱりと言いきる。今の言葉も、この時間の無意味さを突いていた。
……確かに、こんな時間を続けたところで、意味はないか…………。
リルムの言葉に、セヴランは自分達が無駄に時間だけ掛け、何の進展もなしてないことを。今、目の前にはパラメキア側が交渉を持ち掛けていて、自分達は戦争を止める為の手掛かりを掴みかけているのだ。どのみち、対話だけでこの戦争を終わらせれるとは思っていない。最終的には、戦うことは避けられないであろうのとは、ブラッドローズという存在そのものが示している。
セヴランは、可能な限り穏便に話を進めようとしていた。ヴァンセルトという英雄を取り込み、ディルムンクに言われた言葉通り、仲間に出来ないかと…………しかし、そんなことが不可能なのは、考えるまでもなかった。ならば、小細工も、見栄もいらない。セヴラン達は、未だ知らない真実を知る必要があるのだ…………。
「……ヴァンセルト卿、貴方とバーンズの間にとのような関係と過去があるのか、それは今の私達は知りません。ですが、どうやら互いに進む道も違うようですし…………パラメキアとして、貴方が私達に要求するもの、それを全て聞かせて貰えませんか」
「セヴラン、お前……」
セヴランの言葉に、バーンズは表情を暗くする。それは、バーンズ自身のせいで、セヴランがパラメキアと敵対するかもしれない道を選ばさせたかもしれないと。実際には、セヴランの考え方が甘かっただけであり、それを気にする必要はなかったが……。
そんなセヴランからの言葉に、ヴァンセルトは面白いと口元を笑わせる。パラメキアを相手に敵対を誘発するような言葉は、レギブスしか行えないもの故に。フィオリスという小国がどれだけ個の戦力が強かろうと、パラメキア相手に戦争で勝つことはあり得ない。そんなことが分からない程、ブラッドローズの指揮官を務めている者達が馬鹿ではないだろうと想定し、ヴァンセルトはその要求を突きつける。
「先にも言ったが、戦力を求めていることに違いはない。ただ、今聞いていたところで考えに違いがあるとすれば…………我々が守るのは、あくまで帝国民のみだ。それ以外の者を、助けるつもりは一切ない。別にだからと言って無意味に殺すつもりはないがな。」
ヴァンセルトの言葉は、確かに殆ど違いはなかった。しかし、一つだけ大きな違い――と言うより、明確にされた点があり
「ヴァンセルト卿はどうやら、その終焉に対する対抗策があるようですが…………全ての民を助けるつもりはない、そういうことですね」
「そうだ。お前達の言う理想の平和とは、全く異なる考えだろう」
「えぇ、何故それだけ力がありながら、その道を選ぶのか……気になるところではありますが……」
全ての民を守ることを目的とするブラッドローズとは、真逆とは言わずとも違う道のパラメキア。無論、それが国としては普通であり、ブラッドローズの方が常識はずれなのは理解している。けれど、それではこの戦争をする意味が分からないと、セヴランは次の質問をぶつけることにした。
どうも、作者の蒼月です。
書いてて思うのが、やっぱりブラッドローズはどこか頭おかしい連中しかいませんね。全ての民を守るとか、「いやいや無理でしょ」って誰もが言ってしまいたくなるでしょう、私なら言いますね!
まあ、過去の出来事から、民を絶対守るマンと化してしまった人間を、意図的にバーンズがディルムンクの指示で集めた部隊ですからね。正直、考え方次第では、イクスよりも狂人の集まりかも…………
では、次も読んで頂けると幸いです。




