第二百七十二話~平和への道のり~
こんな馬鹿げた話、信じる者はごく僅か……ヴァンセルトは、自身の話を客観的にそう見えるだろうと判断した。セヴラン達にこれを話すのも、あくまでバウル達を信用できると判断したからだ。
竜という存在は、確かに存在する。それを、ヴァンセルトは知っている。けれど、その存在は一部にしか伝わっておらず、過去のものとされ今現在ではおとぎ話にしか出ないものとされているのが現実だ。それを信じる者というのは、余程頭のネジがとんでいるか、世界を知る者かの二択だろう。
ヴァンセルトは視線を上げ、セヴランを見やる。目の前のセヴランは、一体どのような反応を示すのかと……。しかし、ヴァンセルトが見たのは、予想していた馬鹿馬鹿しいという表情ではなく、驚愕と言った部類のものだろう。何故、セヴランが、そして他の者達もそのような表情をするのか……
……まさか、竜の発言を信じるのか?前は、竜の血を引くという意味も知らなかったように感じたが…………まさか、この短期間で知り得たというのか、世界のことを……だとすれば、どこで何をしていた?この短期間で真実を教えれる者…………
ヴァンセルトの思考回路は、どうかしていると、常人ならば口を揃えて言うだろう。セヴラン達の表情から、たったその変化だけで、ヴァンセルトはセヴランが竜に関わる知識を得たのではという答えにたどり着く。無論、それに明確な根拠などない。あくまで、ヴァンセルトの勘でしかない。しかし、その勘は驚異的な程的中し、並の者では考えられない未来予知ではないかとまで言われる代物であった。
ヴァンセルトから言わせれば、経験則から相手の思考を想定し読みきれば、ある程度は誰でも出来るものだ。無論、皆がそれを出来るわけではないことは理解しているし、その考えを押し付けるつもりもなかった。
「その表情、竜についての知識が増えたようだな。さて、一体誰からそれを聞いた」
「…………何故、私が竜の知識を持っているとお考えなのでしょう。少なくとも、前に一度アイゼンファルツ基地で剣を交えたことしかなかった筈ですが」
「竜、などと聞いて、普通の者は疑問といった感情が先に生まれる。この時代に、そんなおとぎ話を信じる者は少ないからな。まともな者であるほど、それは顕著だ。……しかし、お前達はそれを疑いもせず、驚愕といった風に顔に表れた――これは、私の個人的な感想ではあるが……。だとしたら、竜という存在、それを知った上で、脅威と理解しているからこそ、またはそれに近いから故の反応だろう。まあ、お前達が何も知らず、理解ができないと言うなら、今の言葉は戯言と流してもらって構わない」
「………………」
ヴァンセルトは、セヴランの反応から間違っていなかったのだろうと考え、今後のやり取りをどうするか、既に次の段階へと思考が移行していた…………。
そんなヴァンセルトの冷静さとは対極的に、セヴランは尋常ではないほど焦りを抱いていた。
……何故っ、どこから情報が漏れたんだッ!まさか、本当に表情から、今の予想を組み立てたっていうのかよ!そんなの、単に予想でしかないだろうに、よくそんな発想できるな……。
セヴランは、自分達が竜に関わる知識があることを見抜かれたことに、更に驚愕を重ねるしかなかった。別に、それがヴァンセルトに知られたからと、問題になることはない。が、ヴァンセルトは表情の変化から見抜いたと言うが、それはほんの小さな変化だ。それだけで思考を読まれるなら、最早下手な会話の誘導も無理だろう。セヴランは、改めてヴァンセルトの化け物具合をその身で受けつつ、その心を強者と相対する為のものに切り替えてゆく。
「ヴァンセルト卿、お見苦しい姿を見せて申し訳ありませんでした……ヴァンセルト卿の仰る通り、我々はこの三日間で竜に関わる知識を得ました。イクスのことや、竜の進行による世界の終演……えぇ、確かに知り得ました」
セヴランの言葉に、バウルやギーブは何のことだと唖然とし、ヴァンセルトは、そうかと呟き天を仰ぐように座り直して深く息を吐いた…………。
「ヴァンセルト卿は我々の力も必要と言いましたが、それは今後の未来の為、共に歩めるということでよろしいのでしょうか」
「………………共に、か…………」
「我々としても、この戦争を終わらし、民が力に恐怖せずに暮らせる世界を……その為に貴方方とも対話をとここまで――」
「その平和な世界は、来ることはない……」
ヴァンセルトの言葉から、共に歩める希望が見え始めたと思えた矢先、その理想はヴァンセルトに否定された。無論、それが難しい理想であることは、セヴラン共々重々承知してはいた。しかし、この数十年前までは戦争も殆どない、長き平和な世が続いていたのは確かだ。今、各国が手を取り合えば、戦争を終わらすことは簡単である。だが、それをヴァンセルトが否定するということは…………
「竜の血を引く者――セヴランよ、その平和な世界の先に、お前は何があると思う。戦争がなくなれば、この世界は平和になると言えるだろうか…………」
ヴァンセルトがセヴランへと突きつけたのは、セヴラン達のも理解している、答えるにはあまりにも難しい問題であった…………
どうも、作者の蒼月です。
とりあえず、暫くの間はこんな感じで平和(?)な回が続くとおもいます。
ただ、見ていて少しセヴラン達にイライラするかもしれません。可能な限りはそうならないようにしますが、セヴラン達の行動はあまりにも夢を見ているというか――そんな感じなので。平和を求めるのは間違ってないんですが、今の彼らは、あまりにも大きな問題だけ渡されて、解決手段が見つかってない状態なので……m(__)m
ただ、セヴラン達もヴァンセルト達も、同じ人類のことを考えての行動なのは確かです。それだけは、知っておいてもらえたらと
では、次も読んで頂けると幸いです。




