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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百七十話~三日間を越え……~

 バウルは兵に案内され、館外の防衛線――今なお、ギリギリでイクスの攻撃をはね除ける、死闘を繰り広げる前線へ…………。


 そこには、聞いていた通り、確かにパラメキアの兵が少し、ブラッドローズの兵士達の二つの部隊が入り交じり、戦闘を行っていた。そして、その指揮を執る姿はヴァンセルトであり……


「そのまま重装歩兵を前に押し出せ。ブラッドローズの兵は左右からたたみ掛けろ。銃装隊、前衛の作った隙を逃すなよ」


『はッ!』


 バウルの視線の先では、焦ることもなく冷静に指示を出し、これまで指揮をしたことがないはずのブラッドローズの兵までもを把握し、イクスの人形を食い止めている様子であった。

 バウルが感じたことといえば、まずは尊敬だろう。自身では不可能な先を見た指揮を行い、部隊を動かす姿は輝いて見え、自身もそこまでの実力があれば、などと思わずにはいられない。

 だが同時に、ヴァンセルトへ対する警戒も強めずにはいられない。その理由は、これまでは見せていなかった銃装隊の存在を、ヴァンセルトとその配下であろう部隊に見られたのだ。ブラッドローズの銃装隊の存在を知る者はまだ少なく、手札を一つ知られた状態だ。

 無論、今こうして敵に指揮権を奪われている時点で、部隊としてはお粗末なものと評価されるだろう。けれど、この部隊の切り札の数多くはまだ見せていない。銃装隊を知られたのは痛いが、所詮は一つ不意討ちの手段を失ったに過ぎない。バウルは冷静に、今後セヴランやリーナへと報告すべき事柄を頭の中でまとめ、ヴァンセルトへと近寄る。

 ヴァンセルトも、指揮の最中に近寄るバウルに気付いたのか、隣にいた者に指揮を任せ、ヴァンセルト側からもバウルへと歩み寄り


「気がついたようだな、気分はどうだ」


「ヴァンセルト、あんたのおかげで俺達は生き延びている。そのことを、ブラッドローズを代表して感謝する……」


「互いに利用している関係だ、気にすることはない。私からすれば、これのおかげで、あの竜の血を引く者……セヴランだったか、あれに対し交渉が有利に進められるというもの。こっちこそ、感謝をする」


「………………」


 ヴァンセルトは、特に考えを隠すことなくバウルへと打ち明ける。バウルからすれば、内容は挑発的にも取れる内容だが、これはヴァンセルトからすれば、自身が認めたバウルだからこそ言える言葉であった。

 バウルからしても、ここで挑発的に受けとるのは良くはなく、また、自分達の実力が劣っていることを証明させられた相手に対して、今さら劣等感などという下らない感情で関係を悪化もさせたくない。だからこそバウルは冷静に、自分達が生き延びれたことに感謝の気持ちだけを残し


「それで、こっちの銃装隊なんかも含めて、なんか不満はあるか?」


 バウルは相変わらず、その戦場においては敬意のない態度へと戻り、ここからは戦闘についての話へと話題を切り替える。ヴァンセルトも、これに表情から微妙な笑みを消し、それなりに緊迫した状況だと眉をひそめ


「いや、これだけの力は、正直予想外だな。私ならばどうにか出来るだろうが、それでもパラメキア軍としては充分すぎる脅威だ。この部隊を私が率いてパラメキアに攻めれば、少なくとも計五大隊は潰せるだろう」


「五大隊って、うちは総勢でも三百程しかいねぇんだがな」


 バウルは苦笑気味に、ヴァンセルトの宣言を、化け物のものだと笑う。そもそも、その五大隊を潰せると言う内、ヴァンセルト単独で、二大隊程は潰してしまいそうなものだ。

 そんなヴァンセルトとの会話で、少なくともブラッドローズ自体の戦力的価値は、ヴァンセルトに認めてもらえたと判断していいだろう。ならば、次は敵の情報であり


「で、敵の攻撃はどうなんだ?」


「……状況は良くはないな。後二時間もしないうちに、この戦線は崩壊するだろうし、ついでにブラッドローズも持ちこたえれない。故に、ここが持つのは後三十分程だろうな……」


「ヴァンセルトの、あの部下達は……」


「あれは、確かに私が呼んだものだ。だが、あれらは私の計画に付き従ってくれている連中、ここで潰されると困る。これから、パラメキア本国へと撤退させる」


「そう、なのか……なら、こりゃ本格的に不味いな」


「あぁ、状況はかなり悪いだろう。しかし、今の戦えないお前達がいても足手まといだ。最悪、私一人で守ってみせよう」


「……悪いな、あんたに付き合える程強くなくて」


「構わない。それに、私も別に強くはない…………だからこそ、私はここにいるのだからな」


「――――?」


 バウルには、ヴァンセルトの言葉の最後の意味は分からなかったが、少なくとも今は、そのヴァンセルトの温情に甘えるしかない。今は、少しでも回復をして、戦える状態まで回復する必要があるのだ…………。




 そして、バウルはヴァンセルトとの会話を終えてその場を離れると、館へと戻っていた。そこで、柱の影に隠れていたある者達へと会い、バウルは笑い掛けると


「よう。お前達が、追加で来たっていう隠密部隊の連中か」


「………………」


「そう無視すんなって。……俺がいう必要もないだろうが、今から撤退するって話の、ヴァンセルトの部下を追ってくれ。こっちも手札を見られたんだ、向こうの手札も見ておく必要がある」


 バウル発言に、三人いたうちの一人がバウルの隣へと並び


「……現指揮官のバウルだったか……お前に指図される覚えはないぞ……」


「知ってるよ。ここに来る前、同じこと言われたからな~……けどよ、お前の隊長さんが求めている情報が何かは知らねぇが、どのみちお前さんらの仕事だろうが。俺が言ってるのは、それを確実にキルに情報を上げろって話だ」


「……隊長に対し、不敬な発言は慎んだ方が身のためだぞ」


「お前こそ、同じ仲間で無駄な距離感つくんなよ。あと、知ってるだろうが俺は特別遊撃隊上がりだ。そこら辺のことは、セヴランからも気にしねぇよう言われてるからな。後は、お前達がどう受け入れるかだろ」


「……気を付けておけ、私達はそもそも部隊の影だ。別に本来はどうでもいいが、一応の話をしているまでだ……それと、お前達みたいな連中を、警戒する連中もいる……俺達は、仲間であると同時に敵かもしれない。あまり敵を招き入れて、不信感を抱かせないことだな…………」


「忠告ありがとよ。けど、俺達はそうしなきゃとっくに全滅してたぜ……人は、協力でもしねぇと、強大な敵には無力なんだわ…………」


 バウルの言葉が終わる時には、既に三人の影は消えていた。おそらく、撤退を開始したパラメキア軍の追跡、調査を開始したのだろう。バウルもそれを理解し、柱に持たれ掛かるようにして、その場に座り込む。


「はぁ……はぁ……くそッ、体に力が入らねぇや……はは……こりゃ、もう駄目なのか……」


 バウルは、これまで気力で保っていた体が崩れ落ちる。その音を聞きつけた救護兵により、慌てて再び、奥の部屋へと治療の為に担ぎ込まれてゆく。

 ボロボロになってゆくブラッドローズの各員、そして、より大きな敵と戦うことになってしまったモース達……。彼らの館を守るのは、敵のヴァンセルトであり、その状況は他者から見れば極めて異質だろう。けれど、バウルはこれで、パラメキアとの距離を近づけ、戦争の終結への足掛かりを。ヴァンセルトは、そのブラッドローズという戦力が欲しく、その交渉の為、共に戦っていた。




 そんなヴァンセルトと共に戦う者達も、徐々に負傷者が増え、一人、また一人と館へと担ぎ込まれていき……最終的にヴァンセルト一人で、迫るイクスの人形の部隊を全滅させた頃、予定されていたよりも数日早く、ブラッドローズの最高戦力であり、総指揮官達である、セヴランら五人が合流を果たした。

 互いに、それぞれが情報を集め、その裏で世界の英雄達、そしてイクスが動き、この三日間に渡るモース達の戦いは、セヴラン達へと伝えられるのだった…………

どうも、作者の蒼月です。

ついに!百話以上も掛け、この第8章も終わりました!

長かった、本当に長かった……(主に自分の計画性のなさのせい)

これで、遂にブラッドローズも、この世界に渦巻く大きな存在の情報の欠片を集め、この世界という舞台で踊る役者として、その壇上に足を踏み入れました。彼らが理想とする、争いのない、弱者が力に怯えない世界を求め、今後どう戦っていくか、物語は更に進み始めます。


ブラッドローズ、ロイヤルガード、七極聖天、イクス、ドラゴン…………多くの者が、世界を掛けて戦っています。この戦いの果てにあるのは、希望か、絶望か、また次回からもお楽しみ下さい。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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