第二百六十七話~想定外の被害~
バウル達がまだ前線を保ち、必死の防戦に移ろうとしていたその時…………モース達ブラッドローズ本陣は、壊滅していた。
彼らがその周囲の草原は焼け焦げ、全てが燃え尽きた灰塵の積もる荒野と化していた。その上には、灰を被り、黒くなりながらもその血の赤さを見せ、蠢く幾つもの影があった……。小さくうずくまりながらも、まだ立ち上がるのはモースであった。モースは周囲を見渡し
「皆……無、事か……生きてるなら、答えてくれ…………」
灰で喉もやられ、出そうにも掠れた声で、モースは必死に呼び掛ける。そう、呼び掛けるのは仲間…………自身と同じように、地へと倒れた仲間へと…………。
「あ……ぁぁ…………」
「生き……てます…………」
「隊長……指示を……」
「皆……生きてるのか……ッ」
モースは、自身の呼び掛けに反応する声に安堵を得ながらも、全ての者に集合を呼び掛ける。時間は少し掛かるが、なんとか皆必死に立ち上がり、多くの者が集まる。しかし、一部の者は動けない程までに負傷し、あちこちで一時的な応急措置を行っている状態であった。
「くそッ!一体、今の爆発は何だったんだ……」
「空に浮かんだ、あの黒い球体だよな?あれ、アイゼンファルツ基地で見た……」
「あぁ、イクスの魔法と、見た目は似てたな」
負傷をほぼせず、まだ比較的自由に動ける者達の一部は、この自体がどうして起こったのかを考えていた…………。
彼らを襲ったのは、一瞬の出来事だった。空中から、黒い光を奪うかのような球体が突如として迫り、それが炸裂した。急な攻撃、それも見たこともなかったそれに、モースや兵達の対応は遅れ、回避や防御といった対処が行えなかった。結果、多くの者が爆発に巻き込まれ、数人は瀕死の者を出すこととなった。
誰も、これでモースが悪いなどと言うつもりはなかった。そもそも、この唐突な魔法の攻撃に対応できる者など、そうそういないだろう。むしろ、この状況でも指揮官として指揮を執っている為、部下としてはとても安心できた。
ただ、モースとしては幾つもの疑問があった。一つは、何故、唐突にこの魔法の攻撃が行われたのか。もしこれが、イクスのものだとしたら、何故こんなまどろっこしいことをしてまで、ブラッドローズを狙うのか。仮に全滅させたいなら、始めからこの魔法を使えばいいだけの話。
そしてもう一つは、その爆発は突如として風に包まれ、幻の如く消滅したのだ。あと少し、爆風が消滅するのが遅ければ、死人も出ていただろうし、自分達の理解の及ばない所で物事が進んでいると言うのは、正直な話モースは怖かった。
……またあの攻撃を受ければ、今度こそ全滅しかねない……。
モースは、来るかもしれない二度目の攻撃の対処法を思案していたが、その考えは巡ろうにもモースの知識では足りなかった。いたずらに時間が流れ、案も出せないまま、気がつくと仲間達の集合が終わりかけていた。
「モース隊長、もうまもなく集まります」
「あぁ……負傷者の手当ては?」
「……正直、難しいですね。この数を相手では、できることは少ないかと……魔導部隊も、前衛に回していますので」
「そうか……よし。イクスの兵も、皆のおかげで多くを削ることが出来た!このまま、被害が増える前に駐屯基地まで後退するぞッ!誰か、どこか無事な小隊を連れて、前衛に後退の伝令を」
モースは、未知の攻撃に対抗策がないままここに留まることは危険と判断し、即座に後退の指示を出す。後は、ヴァンセルトも含めた、バウルら少数の前衛部隊を撤収させることが必要。その為の伝令を、誰か無事な者に任せようと呼び掛け
「では、自分が」
「すまない、彼らを頼む」
「はッ!」
一人の小隊長が名乗りを上げ、五人ともが無事な一小隊を連れて即座に前線側へと全力で駆けて行く。その背を見送り、モースは自身がどれ程無能なのかと思わされる。
……すまない、無茶な命令を頼んで……。
モースは自分が仲間に次から次へと命を捨てさせるような命令を出していることに、吐き気を覚える。いくら戦力が重要とは言え、自身の指揮官としての能力の低さから招いたこの状況で、多くの仲間を助ける為に、少ない仲間の命を危険にさらす行為を命じているのだ。
魔導具で連絡を行うことも考えた。けれど、この状況ではあまり関係ない。そもそも、モース達は今の爆発に気付き、後退行い始めるだろう。ギーブもいることから、それは間違いないと言える。けれど、モース達前衛は、元々少数の部隊しか割いていなかった。ヴァンセルトもいるならば、少しでも本陣側で、確実にイクスの兵を殺せる戦力が欲しかったからだ。それ故、前衛には苦戦を強いさせただろうが、モースら本陣では、この爆発が起こるまでたった一人の被害も出さずに、敵を殲滅出来ていたのだ。
そもそも、単に連絡役ならば、一人でもいいのだ。二人もいれば、充分役目は果たせる。けれど、それをわざわざ一小隊をつけたのは、前衛では確実に被害が出ているだろうし、その撤退の支援の為の増援でもあった。
ブラッドローズでは、一人一人の強さは充分だ。一小隊いれば、イクスの兵相手でも時間稼ぎはできる。だからこそ、少数の増援だけを送り、モースはバウル達が撤退するであろうことを信じ
……こっちは後退する。お前達も、早く戻ってこい……。
とても軍とは言えないような、計画の甘い作戦行動。けれど、軍とは違う形として共に生きてきた彼らだからこそ、ブラッドローズは、作戦が崩れたとしても、似た思考から、同じ行動を目指すのだった…………。
どうも、作者の蒼月です。
まあ、本陣側はこんな被害ですね。なんか、ブラッドローズはこれまで本格的な軍としての行動がなかったこともあって、やっぱり子供なんですよね。作戦なんかも穴だらけですし、ヴァンセルトからしたら(なんだ、これは作戦なのか?)って感じです。
それでも、ブラッドローズは家族のように共に過ごしてきたからこそ、だいたい同じ行動をとれるんですけどね。バウルやギーブは、セヴランの行動に合わせるのよりは楽だから、ブラッドローズの思考についていけてる感じです。
皆、よく同じことを考えれるなと思いますね(自分で書いておきながら)
では、次も読んで頂けると幸いです。




