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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第二章~旧トワロ街道攻防戦~
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第十三話 ~廻廊~

「はぁ…………」


 バーンズ達の去った部屋で一人、カーリーは深く息をこぼす。


 ……パラメキアとレギブスの開戦、合わせるようにアイゼンファルツ基地の陥落、いくら我々の戦力が小規模とはいえここまで鮮やかにしてやられたのはロイヤルガードの実力か、それとも……


 椅子に座り、床の軋む音が部屋に響く。


「誰かが敵を手引きしたか……」


 現状の情報からカーリーは最悪の事態を想定する。今回のことから、レギブス方面軍に敵が潜んでいる可能性も少なくない。場合によっては、レギブスが進行してくることになる。カーリーは眉間にしわを寄せ、しばらく考えにふけこむが


「私が考えても仕方のないことか、これはバーンズ将軍に任せるとするか」


 カーリーは席を立ち、部屋の奥側にある会談に使ったものより一回り大きな机の奥に回る。引き出しの中から一枚の紙を取りだすと


「今は、輸送作戦の部隊編成のやり直しだな。新兵を副官に起用しなければならないというのは、骨が折れそうだな……」


 苦笑しつつ席に座り、カーリーは作戦の練り直しに移る。




「それでお嬢、これからどうするよ」


 バーンズは訓練兵舎広間横の廊下を移動しながら隣の銀髪の少女に問いかける。


「どうするもなにも、アイゼンファルツ基地を取り返すのよ。貴方が言ったことでしょ」


 少女は当たり前と言わんばかりに軽く答える。


「それはそうだ、だがあの部隊はまだ使うことは出来ん。使えるのはここの護衛に着けてた二十人と再編した部隊の四割ってとこだろう。戦力はある程度揃ったってとこだが鬼門はヴァンセルトだ。あれだけは他の奴等には荷が重すぎる。俺とお嬢の二人でどすにかするしかないぞ」


「あら、フィオリス王国最強と呼ばれるバーンズにしては弱気な発言ね」


「厳しいねぇお嬢は」


 少女の発言にバーンズは軽く笑う。少女の発言がきついのはいつものことであり、バーンズも慣れていた。


「それでヴァンセルトのことだが…………」


「姫…………」


バーンズの言葉は新たに生まれた声により止められる。周囲に気配はなく、ただ声のみが聞こえてくる。


「キル、その呼び方はやめてって何度言えば分かるのかしら。」


 少女は諦めの表情でなにもない柱に視線を向ける。すると、なにもなかったはずの空間に一人の男が現れる。男はフードを被っており表情をうかがい知ることは出来ない。


「それで、キルが来るってことは余程のことなんでしょうね?」


 キルと呼ばれた男は体を柱に背を持たれかけさせ


「あぁ、遂にレギブスが動くぞ……パラメキアがロイヤルガードを出したのを知って焦ったんだろう、七極聖天の指揮で近いうちにうちに攻め込むみたいだ……」


 少女は少し考え込み、いくつかの考えをまとめると


「動く七極聖天は誰かしら?」


「七の極、マリーンだ……」


「う~ん、まあ、あのおばさんなら問題ないんじゃない?」


「おいおいお嬢、おばさんなんて言ってるとまた畑を火の海にされかねん、そういうのはよしてくれよ」


 少女の悪びれもない様子にバーンズは釘をさすが


「いいのよ、次に敵としてあうなら殺すだけなんだし」


 少女が殺すという言葉を使う、平和な世の中ならば異常な光景に今の世の中で違和感を覚える者はそういない。

 他者の命を奪わなければ次は自分、そしてその次は自国の民、そういった命を背負っている軍人であれば、むしろ少女の発言は正しかった。

しかし、少女の表情は辛く、感情を圧し殺しているかのようだった。それは少女だけでなく、バーンズもまたその一人であった。


「まあいいわ、エメリィは?」


「試験段階の魔法の術式安定化の研究の最中だ……」


「エメリィは動けない……か。分かったわ、キルはレギブス方面軍の様子を見てて、エメリィの件はしばらく時間がかかるでしょうし、戦況が変わり次第、私かバーンズに報告して頂戴」


「了解……」


キルは音もなく影のなかに消えて行く。


「それでお嬢、レギブスはどうするよ。いくらマリーンだからってあいつも一応七極聖天の一人だ。無視できる戦力じゃねぇぞ」


「分かってる、けど今パラメキアに背を向けて戦えるほどの余裕はないわ。だから、とっととアイゼンファルツ基地を取り返して膠着状態に持ち込むのよ。レギブスはそれからね」


「お嬢の人使いの荒さはほんとひでぇな」


「あら、ご老体の将軍様には辛かったかしら?」


「まだ若者に心配されるほど衰えちゃいないよ」


「なら結構、予定が一杯なんだから先を急ぐわよ、バーンズ」


「へいへい、仰せのままにリーナお嬢様」


バーンズは少女の発言に苦笑を重ねる。これが少女の普通であり、バーンズもまたこの会話は当たり前のものとなっていた。しかし、普段とは違い珍しく少女の名前――――五年前に連れ去られたセヴランの姉弟と同じ名前、リーナという名前をバーンズは口にした……。

どうも、作者の蒼月です。

いや~ようやく主要キャラ出揃いました。やってよかったストーリー追加。

ここから第二章は二つの視点、セヴラン達の視点とリーナ達の視点の二つの視点で物語が進みます。

次はセヴランサイドです。

では、次も読んでいただけたら幸いです。

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