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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第八章~交錯する英雄達の想い~
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第二百六十二話~謁見~

 魔法による援護が開始され、背からの頼もしい力に、ヴァンセルトは微笑を浮かべていた。この戦場で、自分が欲しがっていた玩具を手に入れた子供のように、内心では抑えきれない程の喜びを感じていたのだ。

 決して歴戦の戦士ではなく、技術的にも精神的にも未熟な子供達…………年齢的には大人と見なされる年だが、それでもヴァンセルトからすれば、まだまだ子供な兵士達。そんな彼らが持つ意思の強さは、ヴァンセルトが求めてやまなかった力だ。これを手に入れれるかも知れないと思えば、自然とヴァンセルトも力が入るというもの。もとより、手を抜くつもりなどは一切なかったが、戦意は更なる向上をしてゆく。

 ヴァンセルトは集中力を高め、大剣を握る手に力を入れる。ゆっくりと息を吸い、目を閉じて大剣を片手で頭上に上げ


「すぅ………………はッ!!!」


 自身の込められる力を刃に乗せ、それを衝撃波として敵軍に放つ。普通の人間では考えられないような力業を、ヴァンセルトは易々と行う。その一撃で、敵が一気に数十人は吹き飛ぶが……ヴァンセルトは、最早その程度では何とも思わない。敵は人間ではなく、更に言えば自身の力も受け入れているのだから…………。


 ……陛下、私は……貴方に…………




 ヴァンセルト・ラウザー、パラメキア帝国が誇る最強の騎士、ロイヤルガードの一人。皇帝に仕え、皇帝の刃としてその剣を振るう者。そんなヴァンセルトが英雄と呼ばれるようになったのは、実に三十年以上も前になるだろう。

 彼は元々、生まれもっての才能があった。その肉体と精神は強靭であり、若干十歳にして、帝国の兵士と並ぶものであった。あまりにも強すぎるそれは、ヴァンセルトには余るものとも周囲は思えたが、精神も子供ながら大人となんら変わりないものであったヴァンセルトからすれば、力を御するのは容易かった。

 そんなヴァンセルトは帝国軍へと入り、その力が何の為のものかと探す為に戦場に立つようになり、徐々に増え始めた戦争を鎮圧する為に駆け回っていた。そんな中、彼は数々の武勲を立て、十五の時、皇帝陛下との謁見を行うことが決まったのだ…………。


 皇帝陛下との謁見、そのある種儀式とも言えるそれの為、若きヴァンセルトはパラメキア帝国帝都グランヴァルトに召集されていた。

 大陸で最も繁栄を遂げ、きらびやかな装飾で飾られた城。帝都の中心にそびえ立つその城の中枢へとヴァンセルトは向かい、初めての場所に興味を示していた。


「成る程、これが皇帝陛下とやらの……凄いな」


 ヴァンセルトは、決して裕福な貴族の生まれというわけではない。もとは庶民の生まれで、これまでに帝都に来たことも任務で数度ある程度だ。飾られた黄金の鎧、一面に光沢を見せる磨かれた大理石の床、精巧な模様を刻まれた戦旗…………慣れない光景に並の者ならば胃が締め付けられるだろうが、ヴァンセルトは見慣れない物を記憶だけし、穏やかな気持ちで先へと進む。


 そして、暫くの進んだ後に、目的の場所である部屋が……皇帝陛下との、謁見の間の扉の前へと到達する。一体、どれ程の大きさなのだろうか。目にした扉は見上げる程大きく、またその前には完全武装をした兵士、皇帝直属警護近衛部隊の帝国軍内でも屈指の精鋭部隊が並んでいた。彼らは微動だにすることなく、ただその風景に一体化するように立っている。けれど、ヴァンセルトはその精鋭部隊からの警戒の気を感じ取り


 ……流石、皇帝陛下の警護をするだけはある。今下手な動きを見せたら、間違いなく首を飛ばしにくるな。


 兵士達は、頭までもを重鎧で包んでいる為、その視線は確認出来ない。けれど、ヴァンセルトは確かにその視線を感じる。ここにいる者達は、ヴァンセルトを含めて、常にその敵に警戒をしているのだ。

 そんなことを考えていると、その広き廊下に声が響き渡る。


「ヴァンセルト中尉、入場ッ!!!」


 一人の近衛が声を上げ、合わせるように大扉がゆっくりと、その重々しい口を開く。そして、その先には高くなった位置に皇帝とおぼしき姿があり、ヴァンセルトは開かれた扉の中へ、敷かれた赤き絨毯の中央へと足を踏み入れた。

 一歩ずつ、確かにヴァンセルトは進み、その背後でゆっくりと音を立てながら扉が閉められるのを耳で聞き取る。しかし、皇帝陛下の手前、下手な動きは行えないと冷静に進み……そして玉座の段の下までたどり着くと、片膝を付き、左腕を地に付けていない膝上に乗せ、頭を下げて口を開く。


「第八大隊所属、ヴァンセルト・ラウザーであります。この度は、皇帝陛下にお目通り叶うこと、光栄の至りに存じます」


「よい、よい、頭を上げてくれ。私も貴公に会えることを楽しみにしていたのだ」


 ヴァンセルトの態度に対し、軽い口調で返される言葉。その中には、頭を上げろという指示もあり、ヴァンセルトはその頭を上げる。そして、彼は出会うのだ。彼自身と、この世界を変える切っ掛けとなる人物――パラメキア帝国陛下に…………

どうも、作者の蒼月です。

え、何か変な回になってる?えぇ、すみません……ちょっとだけ変な回想挟みます…………。


大丈夫です。この回想の間にも、現実世界側では、ヴァンセルトは敵をバッタバッタと薙ぎ倒しているので、その無双描写を削って入れているだけなので……そこまで、話が長引きはしません……というより、この回想はまたやるので、その時の伏線――とまでは言いませんが、足掛かりをつくったということです。なので、少しだけヴァンセルトの過去も見てやってください。そしたら、もしかすると、この世界のことが分かる……かも?


では、次も読んで頂けると幸いです。

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