第二百五十八話~歴史を変える者達~
盛り上がりを見せたモースらは、その熱をその収めながら廊下を進む。ただ、その途中で一部は情報を交換したいと会話があり
「それで、結局さっきの魔法は一体何だったんだ?」
バウルの疑問に、ギーブは指を立てて自慢気に笑い
「魔導師エメリィ主導の下で、私達が数々の魔法を研究しているのは知ってますよね?基地で学べたのはほんの二週間程ではありましたが、これまでの独学に比べれば恐ろしい程の速度で――っと、話が反れてましたね。あれは、研究途中の魔法の一つで、これまでの回復力を高めるものではなく、魔力を直接生命力として吹き込んで回復させるものです。これなら、これまででは不可能な回復が可能になりますからね。ジーンみたいに」
「ほ~ん、相変わらず魔法ってのは、すげぇもんだな。で、そいつは今後も使えるのか?」
「どうでしょうね。今回は安定した状況で、人数もいましたから……エメリィ殿がいない状況では、使いたくないんですけどね」
二人の会話は流れ、また他の者達も盛り上がる。これまでの傷や疲労が嘘のように消え、皆がその剣を振るえることを楽しみにしていた。今度こそ対等な条件で戦い、イクス相手に反撃する…………その為に、皆が全力を出し、その時を待ちわびるのだ。
やがて、一同は玄関前の広間に着き、伝令の者を走らせ全部隊を召集する。そして、話は既に広がっていた為、そう時間が掛からずに部隊は集まる。
相当な広さを持つ建物であり、その玄関部分は部隊が整列出来るように作られてはいる。が、流石に二百人を越えるとなると、入りきらず、一部は廊下に隣接した部屋の扉から顔を出す形で並んでいた。
モース達三人はその先頭に並び、部隊全体を見渡してから息を吸い…………
「いいかッ!現状、我々はパラメキアとの交渉の糸口を手にしている状態だ。ロイヤルガードに戦力として認められ、これは、我々の目的を達成するために必要な席だ。ただ、今回それを邪魔する者……イクスの存在がある。奴の狙いは分からないが、アイゼンファルツ基地での襲撃も考えれば、我々が戦争を止める為の障害として立ちはだかるつもりだろう。……あれの実力の高さは、ここまでの一連の流れで知っている筈だ。奴は強く、今の我々では勝てるかは分からない…………」
モースの言葉は決して明るくはなく、この数時間でモース達でも手足が出なかったというのが、現状のブラッドローズの力を示していた。そこから力の差を理解出来ない程、皆頭がないわけでもなく、充分に理解はしているだろう。
拳を握る者、歯を噛み締める者、そこには様々な感情が溢れる…………しかし、モースは力強く叫ぶ。
「しかしッ!だからと言って、ここで我々が絶望に暮れて、戦いから逃げる理由があるか!姫様に助けられ、共に戦い、戦争のない世の中にするとここまで来たのだろう!なら、例えどれ程イクスが強力だろうと、我々は戦う!この命果てる、その時までッ!」
『うおおおぉぉぉおおぉぉぉ!!!!!』
ブラッドローズは、その命をすべて戦いに向けている。今更帰る場所もないのだから、恐れることも少ない。その広間には、目の前の敵を倒すことに全力の、戦士達の咆哮が響く……。
モースは満足げに頷くと、隣のバウルに目を向け中心を入れ替わり、バウルは大剣の剣先を床に打ち付け、ドンという音で視線を自身に向けさせ
「いいかッ!俺達がヴァンセルトと話し合った結果、イクスは俺達を狙ってくる可能性があると告げた。これが嘘による罠か、本当なのかは分からない。だが、イクスがここで来るなら好都合だッ!俺達の実力を弱者として見下すなら、その喉元を食いちぎってやれ!奴を退けヴァンセルトに認めさせ、パラメキア帝国と対等な立場として並べるよう、力を見せ付けてやるぞッ!」
バウルの言葉に、場は歓声が上がりそうになるが、それを即座に杖を床に打ち付けて止め、続けてギーブが発言する。
「今回の戦いでは、我々魔導部隊が全力で支える。そして、先頭では我々が立ち、ヴァンセルト卿も協力してくださる!人類最強の存在が味方で、更には魔導部隊の援護もある。敵を恐れる必要はない、前には英雄が……隣には仲間が……そして背には、こんな戦いをもう終わらせて欲しいと願う民がいる!そのことを胸に、今を全力で戦えッ!」
『うおおおぉぉぉおおぉぉぉ!!!!!』
歓声が広がる中、一人の兵士が叫ぶ。
「フィオリスの民に、そしてすべての民に平和をッ!」
その言葉に、一人、また一人と続き
「民が笑って過ごせる平和をッ!」
「力に怯えずに済む世の中をッ!」
「この力は、民のためにッ!」
『この世界から、戦争終わらせる為にッ!』
ブラッドローズの意思は統一される。元々、一つの意思でここまで来る者達は、強大な敵を前に更に団結する。
そう、彼らは、時代に抗う者達だ。この世界で幾度となく繰り返される争いの歴史で、彼らの未来には希望が見えないだろう。だが、それでも彼らは、戦う道を選ぶ。平和を求める為に力を振るのは、矛盾していると知りながらも。たとえ、彼らのせいで平和という夢は遠退くとしても……本当の自由と平和の為、彼らは歴史を変える戦いへと、身を投じるのだった…………
どうも、作者の蒼月です。
今回、なかなかに最後、ネタバレみたいなこと書いてますけど、ネタバレって程でもないので大丈夫です。
それに、彼らが歴史を変えるのは事実ですからね。ただ気になるのが、これ、主人公達いないんですよね…………まあ、皆が主人公なんで問題ないかな(白目)
まあ、ここからセヴラン達帰ってきたら、だいぶ泥沼の戦いになりそうですし……(予言)
では、次も読んで頂けると幸いです。




